アラブ社会初のホロコースト資料館 | 田口裕史のブログ

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 昨年5月、イスラム教徒の法律家がアラブ社会初のホロコースト資料館を設立したという(“Arab Holocaust centre reaches out ”BBCNews06年1月28日付記事)。

 “The Arab Institute for Holocaust Research and Education in Nazareth ”と呼ばれるこの資料館をイスラエルのナザレに設立したのは、Khaleed Mahameedという43歳の弁護士。費用は彼自身が負担したらしい。
 昨年末には、イランのアハマディネジャド大統領がイスラエル批判の文脈で、ホロコーストの規模を「信じていない」と述べて批判を浴びた。この発言自体の愚かさは明らかだが、発言の背後にあるイスラエルとパレスチナ、アラブ社会との関係を考えれば、KhaleedMahameed氏の試みが多くの困難を抱え込むであろうことは想像に難くない。実際、アラブ人でありながらホロコーストへの理解を広めようとする彼に、周囲の眼は厳しいという。兄弟からは縁を切られ、近隣から冷たい視線を投げかけられるばかりではなく、「裏切り者」としてパレスチナ、アラブ社会から多くの批判を浴びせられているのだ。

 こうした困難を引き受けながら彼が資料館を設立したのは何故なのだろうか。
 関連する新聞記事をいくつか読んでみると、彼を突き動かしたのは、日々繰り返される紛争を沈静化させたいという強い願いであるらしいことが分かる。繰り返される非道を前に、KhaleedMahameed氏がこの困難な道を選択したことには敬意を表したい。

 しかしながら、ここには軽視できない問題もあるように感じる。
 複数の記事に引用されたKhaleed Mahameed氏の見解を読むと、彼はイスラエル国家の成立とパレスチナ人への迫害の背後に、ナチスによる迫害の歴史の影響を見ているようだ。「迫害」の感覚が、パレスチナへの強硬な姿勢を生み出しているというわけだ。彼の考えによれば、ユダヤ人のこのような苦難の歴史を知り、彼らの行動の背景を理解することが、両者の対話の“空気”を作り出すだろうというのである。
 しかし、ホロコーストの被害者であるユダヤ人が揃ってイスラエルの行動を正当化しているわけではない。ホロコーストの被害とイスラエルの存在を単純に結びつけることはできない。イスラエルに生活するユダヤ人たちがどう考えていようと、ホロコーストとパレスチナ問題を不用意に関連付けるべきではない。上に書いたアハマディネジャド大統領の発言も、こうした文脈の中から生まれてきてしまっている。ホロコーストの歴史と中東問題の解決とを結びつけようとする氏の発言がむしろ問題を複雑化してしまうのではないか、という危惧を感じてしまう。

 そもそも、背景にどのような歴史があろうと、イスラエルによるパレスチナ人への迫害は許されるはずがない。日常的な暴力の中を生きる人々が、ホロコーストの歴史とユダヤ人の苦難を十分に受け止められないとしても、それはいわば当たり前のことだ(パレスチナ・ナビパレスチナ情報センター といったサイトでは、パレスチナで何が起こっているのかが継続的に伝えられており、とても参考になる)。

 どのような社会によるものであれ、いかなる人種主義も、いかなる迫害も、許されない。私がショア(ホロコースト)の歴史から学んだのは、そのことだ。


【関連する記事】
・“Khaled's Holocaust institute ”イスラエルのニュースサイト“Ynet”の記事
・“Muslim opens first Arab Holocaust museum in Nazareth ”WIKINEWS2005年5月7日
・“Muslim opens Holocaust museum in Israel ”The Boston Globe2005年5月6日
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