あのトランプ氏がついに共和党の大統領候補に指名されました。
しかも、新たに提示されたトランプ氏の政策綱領は、従来のトランプ氏の政策に加えて、共和党右派の徹底した小さな政府政策やキリスト教原理主義に基づく政策を大幅に取り入れたものになっています。
元々トランプ氏は、グローバル経済によって海外へ労働拠点がシフトし、アメリカ本土での労働条件の悪化による賃金の低下と、それに加えて、移民の増加による雇用機会の減少でダブルパンチを受けたアメリカの白人労働者階級の不満と鬱憤を汲み取って過激な表現で彼らの気持ちを代弁することによって圧倒的な支持を得て来た人です。
それに対して、共和党右派のいわゆるティーパーティーと言われる運動を支持している人達は、中流以上のいわゆる勝ち組の白人たちが中心で「俺たちの払っている税金を落ちこぼれの連中を救済するために使うな!」というのが主な主張です。
彼らは「落ちこぼれの連中は怠け者だから落ちこぼれるのだから、そんな自分で保険にも入れないような怠け者達の為に、なんで俺たちが払った税金を使う必要があるのか?」と、オバマ政権の国民皆保険制度にも断固として反対しています。
元々、共和党は社会福祉など国家が国民の福祉の為にお金をつかうことには消極的で「国の福祉などに頼らずに、皆自分でなんとかすればいい!」といういわゆる勝ち組の発想を党の方針としています。
そして1980年代の共和党のレーガン政権から始まった社会福祉や労働者の保護の為の法律を徹底的に撤廃し、企業活動の自由度を最優先した政策によって、企業は生産拠点を安い労働力が得られる所に移し、企業の収益は、国内の労働者には還元されずに、企業の株主のみに還元されると言う現在のシステムを作り上げるに至った訳です。
その結果、世界中の労働者の給料は下がり続け、それに反して、世界の富の半分をわずか1%の人々が独占する現在のゆがんだ状況が生まれてしまったわけです。つまり、一部の人達にのみ富が集中する経済的独裁主義のシステムが出来上がってしまったという事です。
そのような状況に不満を募らせたアメリカの白人労働者階級の人達が、グローバル経済に反対し、アメリカの企業はアメリカで生産することを訴え、しかも、その仕事は移民にさせるのではなく、自分たちにさせろ!と主張し始め、その思いを代弁してきたのが他ならぬトランプ氏だったわけです。つまり、経済的独裁主義に反対して、経済的民主主義を主張し始めたわけです。
ということは、共和党右派のティーパーティの支持者たちである勝ち組の白人達からみると、トランプ氏の支持者たちは言わば落ちこぼれであり、彼ら勝ち組白人達はグローバル企業の膨大な収益の恩恵を受けている人達も多いため、その活動に不利になるような一国主義や高い労働力雇用の強制には、反対の人達が多いはずです。
そのような、全く違う主義主張をもった人達が大統領と副大統領候補としてタッグを組むこと自体が本質的に無理があり、しかも政策綱領自体が互いに矛盾した要素を含んでいるため必ず破たんすると思います。
さらに、先のトルコ編でも触れましたように、イスラム教の原理主義というものがあるのと同様に、キリスト教にも原理主義というものがあり、彼らキリスト教原理主義の人々が共和党の大きな支持母体となってきました。
彼らキリスト教原理主義者の人々はキリスト教の教えが政府の政策にも反映されるべきであると考えており、具体的には堕胎と同性愛には絶対反対であり、その方針は今度のトランプ氏の政策綱領にも色濃く反映されています。もしトランプ氏が大統領になると、アメリカでの堕胎は違法となり、同性愛同志の結婚もすべて違法となる可能性もあります。
本来、トランプ氏本人は原理主義者でないはずでしたが、アメリカのキリスト教原理主義者の数は膨大であり、今でもアメリカの中南部に行くと人類が猿から進化したなどと言おうものならたちまちに村八分にされるほど影響力が絶大なので、トランプ氏も彼らの意見を取り入れる方が得策であると考えたものと思われます。
このように従来のアメリカの大統領選挙では、共和党が、勝ち組で経済的自由主義(独裁主義)者とキリスト教原理主義者が支持母体で、民主党が、経済的民主主義者と政教分離の世俗主義者が支持母体という構図がここしばらく続いてきたのでありますが、今回は共和党にねじれ現象が生じており、負け組の経済的民主主義者で排他主義者達と勝ち組で経済的自由主義(独裁主義)者とキリスト教原理主義者が混在する非常に無理のある組み合わせとなっている訳であります。
いずれにしても、もしトランプ政権が誕生すると、色んなことがしっちゃかめっちゃかになっていくことは目に見えています。
また、トランプ氏はあまり物事を深く考えずに思いつきで発言することが多いため、彼の口から出まかせがひょんなことから多くの人に支持されて、彼自身もコントロールできないまま独り歩きし始めることも十分にあり得るように思われます。
ヒットラーの狂気があれほどまでにドイツ国民に熱狂的に支持されたのは、当時のドイツ国民に、とてつもない鬱憤と不満が溜まっていたからです。それは、今日のトランプ氏を支持している白人労働者階級の人達の状況と酷似しています。
一時的な勢いで選ばれてしまった国家の指導者が世界中を恐怖のどん底に陥れる歴史は既に見てきたはずですが、その教訓から何も学んでいない人類はもう一度同じ道を歩もうとしているのかもしれません。