Startin' over… -98ページ目
土曜日だった。
サークルも入ってないので、一週間の中でこれほどつまらない日は無い。いつもそう思っていた。
ただ今日は奴が来る。
家事も終えてお風呂にも入って、全身に化粧水を浸透させた。

奴は就活対策講座の後、その講座つながりで某新聞社の人と飲みに行くらしい。
私のせいで早く帰ってくるなんてことは絶対にやめてほしかったから、会うのはまた今度にしようと言った。
しかし奴は大丈夫の一点張り。
全部食べれるわけないのに、ハンバーグセットとステーキセットを両方平らげようとする子供みたいだ。

大切な飲み会だ。潰れるまで飲んでこそ礼儀だ。
そっちを優先してくれてよかったのに。



そして案の定連絡されてた帰りの時刻を過ぎている。
奴のためにふとんを敷いてから、コンビニでミネラルウォーターを買ってきた。

着信

「もしもし、電車乗れた?」
ロレツが回っていない。
何を言っているのかよくわからない。
まぁたくさん飲まされたことはわかった。
一時間後にこちらに着くらしい。

すぐに寝られる用意はできてることを伝えた。



「っかさーー、俺ん家来ね?」




ここからすべての歯車は狂い始めるのだった。
そうとは気付かずに、終電まであと30分。
荷物の用意をし始めた。
※いつもご覧頂きまして誠にありがとうございます。この先には若干の性的描写が含まれますので、18歳未満の方及び不快に思われる方は、読み飛ばして頂きますようお願い申し上げます。













目が覚めた。
それから奴は私の手の中で果てた。
再びこの胸にしがみつく。必要とされることが、何よりもの喜び。
幸せな朝だった。

「ウニュ」

ときおり意味のわからない擬声語を発する。2歳児みたいでかわいかった。


しばらくそのままであった。
頬を何度も胸に擦り付ける。
この前スーツ姿でバーで貧困問題を語っていた姿からは想像もつかない。
奴が望むまで、ずっとそのままでいるつもりだった。

「あのさ…。」
ふと22歳の男に戻った。






「俺言っておかなきゃならないことあるんだけど。」




「何?」
奴はまだ私の心臓の上。












「俺沙那が好きなんだよね、一年の頃からずっと。」







昨晩の間で、愛情をすべてさらけ出した後だった。


「それでもいい?」
「私は平気だよ、全然。」





〈やっぱり、愛されるはずなんか無い。〉


〈最初から、少しおかしいと思ってた。〉


〈沙那さんと違って、美しくは無いし。〉


〈私はおもちゃ以下?〉



知らない方が幸せだったのではないか?
押し潰され破裂するような痛みと共に、心臓が熱を帯びる。
涙が出て本心を悟られるのが怖くて、とっさに平静な口調で返した。


「そっか。」
その時奴は笑顔だったのだろうか?
まだこの腕の中にいる。
〈私は沙那さんにはなれない。でも…〉


〈求めるのを、やめないで…〉





昨夜、切なげな声を上げながら、表情を歪めた奴に言った。
「私くらいには甘えなさい、」と。


確かに奴は求めていた。



沙那さんへの思いが伝わるまで、奴のそばにいてあげることが、私にできる唯一のこと。


〈誰にも触れられなくなるなら、傷ついた方がまし。〉



それから奴は、朝ごはんも食べずに帰って行った。
明後日の夜にまた会おうと言って。
※いつもご覧頂きまして誠にありがとうございます。この先には若干の性的描写が含まれますので、18歳未満の方及び不快に思われる方は、読み飛ばして頂きますようお願い申し上げます。











裸になった奴が、ふとんを敷いてくれた。
そして、私の上に覆いかぶさる。
上半身のあらゆる場所に、丹念にキスをしてくる。

そんな奴の背中を撫でる。しっとりとしていて触り心地がいい。
だが肩から腕へかけての筋肉はよく発達していて、黒く焼けた肌であることもあり野性的な魅力に溢れていた。
サバンナで、黒ヒョウにゆっくりと食べられているような感覚。

私は背中へのキスを求めた。体を横に傾け、奴は触れるか触れないようなタッチで、脇腹を撫でる。

「すごい…すべすべ」
年下の男に言われるのに、悪い気はしなかった。いつもとは違うかすれ声でささやき、私の左骨盤の骨に歯をかける。
そこから唇が腰にまわってきた。


舐められたり、かじられたり、吸い上げられたり、窓が開いてるにもかかわらず、私が上げる声は徐々に大きくなってしまい、反り上がろうとすると奴の力強い腕で押さえ込まれ、ふとんに押し付けられる。
そして私の身体には、じわじわと奴という男が刻まれていく。


不意に、仰向けにさせられた。
目が合う。
いつ見たときよりも、瞳は澄んでいて、潤んでるようにも見えた。

「ドサッ」

その全体重を私の胸に預ける。身動きをとろうとすると、そのたびに押さえ付けられる。
どんなに頑張っても、動けなかった。男を感じる。

「シアワセ…」
泣いてるようにも聞こえるような声。
切なげに何度も私の名前を呼ぶ。

ずっと寂しかったんだろうか。
奴の本質を見たような気がした。
ずっと、ずっと誰かに受け入れてもらおうとして、裏切られたり、見捨てられたりして、そのたびに傷ついた気持ちを封印して、ここまで来たのではないか?
必死に私の胸にしがみつく。

「シアワセ…あったかい」

この腕の中にいるのは、小さな男の子。
ずっと包んであげたいと思った。
過去に何があったのか、すべては知らない。
だけど、ずっとこうしてもらうことを奴は望んでいたのではないか?
そんな気持ちを、こんな私にさらけ出してくれたのが、この上無い幸福感をもたらした。


「私くらいには、甘えていいんだからね。」


やがて小さな男の子は、私の胸に顔を押し付けたまま、眠りについた。全体重をかけたままで。
髪を撫でる。悪い夢を見なくていいように。

窓の方に目をやると、もう東の空は、朱く焼けていた。