Startin' over… -97ページ目
奴の家に入ると、センスのいいのれんで、キッチンと寝室が分けられていた。
以前、家賃の安さと、この物件を自分一人で見つけたこと、家具はリサイクルショップで揃えたことについて語ってた。
部屋自体は新しくはないが、黒い皮張りのソファー、シックな広めのテーブル、様々な酒瓶が並べていたり、細部までこだわりが行き届いておりとても素敵な部屋だった。



そう伝えると、奴はすぐに機嫌が良くなった。
女の子のためにインテリアに気を遣っているそうだ。一言多い。
その女の子の括りに私が入ってることは無いだろう。

牛丼を取り出す。
いつも以上に調味料の加減を調節した。汁がほとんど漏れている。
さっき階段を走ったせいだろうか。


奴は食べてきた、と言い、こんなもの食べてくれるそぶりはなかったので、タッパーについた汁を拭き取り、冷蔵庫に入れておいた。

何かが、この前と違う。
その後、襲われ、私は尽くし、奴は眠りについてしまった。

すべては奴が疲れているからだ、そう思って自分を納得させた。


青い光の中、無性に寂しくなった。
ー午前4時
こんなんでは奴を支えられないと思い、私は米を研ぎはじめた。

「南口で待ってて。」

朝は学生でごった返してるのに、閑散としている。タクシーがやたら多いおかげで、その明かりでまっ暗闇にならずに済んでいる。

奴はまだいない。
喫煙所に向かった。







それにしても遅い。
どうやら着信があったようなのでかけ直す。





「もしもっ」
「どこいんのよ、北口って言ったやろバカヤロー、ふざけんなし」

謝る気も失せたが、小さくごめんと謝りつつ階段を駆け上がる。
でかい荷物、タッパーに入れた牛丼がとてつもなく邪魔で、捨ててしまいたかった。


北口方面の階段を降りる。奴に会うんだ。
笑顔になれそうになかったから、頑張って口角だけ上げてみる。


探す、探す、右も、左も、向こう岸にも見当たらない。


おちょくられているのでは?


結局また電話して、階段を見上げると奴が降りてきた。

「なんやせっかく上まで迎えに行ってやったのに、コイツ~行くぞ。」

少し雑に手を握られ、
奴が行く方に付いて行った。
〈迎えにきてなんて駄々をこねるような女じゃないよ…どうして〉
お兄ちゃんのような態度なので、少し腹が立った。


手をつないで歩く私たち。少し大きな荷物。
傍から見れば、お泊りに行くカップルだ。
そんな風に見えてしまうのに、罪悪感があった。

〈私は奴の恋人ではないし、ふさわしくもない。〉


ときおり私の太股やお尻を触る。
酔いがまわった奴のテンションに合わせ笑い、しゃべったが、楽しい気分にはなれず、軽薄なものに感じた。
奴の家に着くまで、この前の夜みたいな状況をつくらなきゃと考えていた。
奴が、安らいで、甘えられるように。
〈せっかく作ったのに…〉鍋の中にある、まだ温かい牛丼を見て思う。
炊飯器のごはんだって、三合もどうするんだろう…

そんなこと考えるひまもなく、クレンジング、洗顔、化粧水、美白美容液、乳液、日焼け止め、きれいでもない顔のために、こんなにかさばる。
少し苛立つ。
普段使わない大きいバッグを持っていくことに決めた。


さっき通ったばかりの通学路を逆進し、終電へと急ぐ。
通学定期で改札を通る。
奴に抱かれるためにも、学割がきくだなんて。