Startin' over… -78ページ目
「試験開始30分が経過したので、すでに終わった方の退出を認めます。」


ジャーナリズム入門の試験。原発事故と絡めて、現況の報道について考察し、あるべきジャーナリズムの姿について意見を述べよ。
書けない。
散々だ。


結局昨日図書館で、試験対策をするふりをしながら原稿用紙に自分の混沌とした感情を書きなぐっているうちに、閉館になってしまった。
途中PCエリアで、ラグビー部の部員と一緒の琴美に会ったが、何が起こったかは言えず仕舞い。
帰り際に一緒に帰ろうとメールしたが、すでに彼女はバスに乗ってしまっていた。



試験時間の60分まるまる使って、一般大衆である私たちはマスメディアが発する情報を介してしか出来事を知ることはできないということを繰り返し論じた。無理に原発事故とつなげようとしたため、大学生とは思えぬ稚拙な文章となってしまった。


「大学生ってこんなに幼稚だったっけ?」

正解がわからない試験を通し、自分の情けなさを反省した。


「これからはもっと勉強しよう。」


しかし、そう思うことで昨日から変わってしまった状況を何とか切り抜けていく強さにしようとしていた。

その時は、目を背けるために偽る何かが必要だった。

山の起伏を忠実に利用して建てられたキャンパスでは、図書館まで行くにも坂道を登らなければならない。


日が傾く前の太陽は、さんさんと輝きながらもどこか寂しげな表情をしていた。




「もうじき、オレンジ色になるのだろう・・・。」




これから私がやることは、気丈に日々を過ごすこと。




もっと奴にふれてよけばよかった。


もっと奴を感じておけばよかった。




奴はもう着いたのだろうか?


今朝勉強できねぇじゃねぇーかと言いながら乱暴に私を抱いた。






案の定、去年まで喫煙可能場所であった図書館前のベンチで煙草をふかしていた。


出会って間もない頃でもなく、一つになった朝でもなく、また新たな形になった私たち。




「おう、遅かったな。」




こうして、明日からも何事もなかったように言葉を交わしていくのだろう。




私が泣くのを見てそんなに嬉しかった?


ただ、その時は自分の傷ついた感情を完全に隠すことが、最後に奴の”甘えたい”という欲望を満たしてあげるために私ができる唯一のことだと思っていた。



電車からバスに乗り換え、いつもの通学路を行く。
テスト期間と言えど夏休み同然。ましてや休日。バスの中に学生らしき者の姿はなく、まばらに高齢の方々の姿があるだけだ。
各駅停車のバス。

昨日まで恋人のように思ってた男と、これから友達として会いに行く。
なんだかおかしな感覚だった。
こんな日に限ってシフォンのピンクのワンピース。昨日の夜から着てるもの。決してフェミニンなデザインではないけど、男友達からは評判が良かった。


どうしたらいいかよくわからない。とりあえず自分の女である部分を全否定したくなった。


バスに親子連れが乗り込んできた。30代後半とおぼしき母親と4~5才の娘。

しばらくすると母親は、何度注意しても落ち着いて座ってられない娘の頭を叩いた。
娘は泣き出した。

なぜかその時は、叩いた母親ではなく娘に嫌悪感を抱き、睨みつけてしまった。

やがてその親子は、大学のいくつか手前のバス停で降りた。


子供なんか、私に産む資格は無い。
故郷で、慎吾を愛し始めたと同時に心に言い聞かせてた。
どうせ未来なんか無いから、愛し合えるその一瞬を精一杯分かち合いたくて、私は・・・私は・・・。


だけど奴には届かなかった。



「はい、終点大学前です。」