Startin' over… -71ページ目
<第1部より>

奴とは肉体的に距離を置いていた。
しかし、和馬を交えて遊ぶ、正確に言うと飲むことが多かった。
ドイツ帰りの奴、ちっとも変わっちゃいない。
ドイツ語よりも、英語を使い生活していて英語圏の友達を増やしてきたらしい。
半年前しみじみしていたのが馬鹿らしい。
全力で自分は悪くなかったと女子会をするたびに言い聞かせ、強くなっていたつもりだった。
新年を迎え、後期のテスト期間。
やるべきは決して勉強ではなく鍋パ。
大学生は何かと「パ」が多い。
たこ焼き、ピザ、そして鍋。
ただ食べているのに過ぎないのに、みんな集まればパーティーだ。
格安量販店で冷凍の豚肉を買い占め、みそベースのスープを火にかける。
例によって和馬の家。

元気なふりして、また発泡酒の力を借りて楽しくしゃべる。
本当は傷ついていた。
まだ精神的にぶっ壊れていた。
慎吾への依存心も消えていない。
体でつながれないと、自分の価値を噛み締めることができない女だった。
所詮自分は一番になれない、特別にはなれても。
「先生?」
「なした?」
「これ…。」

高校入試の模試の結果を見せた。
かつて半分もとれなかった苦手だった数学は、8割を越えるようになった。
しかし国語で大きく失点した。
朝図書館に向かい、夜は塾に行く。その生活が崩れ始めていた。
それに伴い、勉強時間も激減。
自分で決断し選んだ道なのに、無責任で怠惰な日々を送っていた。
今でこそ自棄になることもできるが、その当時は16歳。
自己嫌悪が募り、押しつぶされそうだった。
両親の仲も悪くなり、家を抜け出したい。
そんな気持ちも募るばかりであった。

「うーん、でも今回は仕方が無いから、しっかり復習しておこう。」

わかってる。
そんなこと。
ただ気にかけてくれる大人が欲しかった。
先生の声を聞いていたかった。
そうだろう。塾講師として言えるのはその一言につきる。

私は特別じゃないけど、特別になりたかった。
まだ日は上っている。
気怠い。ふとんの中でごろごろしているうちに、二度寝。
時計は五時をさしていた。
そろそろシャワーを浴びないと髪を乾かす時間が無くなる。

昨日は缶コーヒーを4缶空けてしまった。
給料が出ないにもかかわらず、教室が閉まる22時を過ぎても働いていた。
教室長が代わり、男性になった。
女の子の生徒さんを置いて帰るのは気が引ける。
以前の教室長は新卒入社の23歳の女性。私より3つも若い。
自習に来る生徒、基礎学力が定着していない生徒、
大学受験でとりわけフォローが必要な生徒。
彼女は自分ができる限りのことはすべてやっていた。
それ故彼女を慕う生徒も多かった。
だが異動になってしまった。
私に彼女の代わりができるかわからないが、
やれることはやろうと、その日も授業後フォローを続けた。

ネイビー、グレー、今日は黒を着る。
3年前から講師リーダーを任されている。
あと、画一的なファッションが嫌いな故、インナーに白シャツを使ったことはない。

生徒さんに、私の姿はどう映っているのだろう。
恋愛では未だ甘えることをやめられずに、あてつけで
彼氏の親友と寝るなど安定して人を愛したことはない。
本当に好きなのは慎吾だけであったけど、これからどうなるのか。