結局、志望校2つと、その下のランクの3校、センター利用が2校。
受験校の数としては十分だが、力と安全性には欠ける。
無惨にも、あいつが当初受けることを宣言したスケジュールと、何も変わらなかった。
「ま、だめだったらまた受けるってことで。
次はもう面談は大丈夫ですか。」
「もし万が一の際は受験校に関して心配なことがございましたら、
面談の場を設けさせて頂きます。」
「そうですか。ありがとうございます。では、
あ、これ皆様でどうぞ。」
なんと菓子折りだった!
生徒さんが合格した際に頂くことは何度かあったが、結果を出す前。
確かに伊藤先生の休日出勤、かく言う私も無給での対応。
あいつがなんか言ったのだろうか。
こちらの現状を察して下さったかのようなお父様のお心遣い。
なんて嬉しいこと。頑張るしかない。
「恐れ入ります。ありがとうございます。」
即刻社員に報告。伊藤先生が深々と頭を下げる。
お父様を送り出す。
「あ、お気遣いなく。」
伊藤と二人、エレベーターの前で背筋を伸ばす。
「ありがとうございました。お気をつけてどうぞ。」
エレベーターのドアが閉まり、3秒たって上体を戻す。
それから、
「お疲れ様です。」
「お疲れ様です。」
と締めくくるのが、面談終了時の恒例になりつつある。
不完全燃焼感が半端ない。
もっと言うべきことはあったのではないか。
浮かない表情。
伊藤先生もそう感じていた。
「どうします?結局。」
「センター利用、中期。うーん、このままじゃ危ない。」
「ですよね。」
「締切過ぎたらセンターの得点も水の泡。うまく使えるとこはまだ絶対あるのに。」
「彼の意思を変えるってなると、うーん。」
二人で面談室で話しているのを一瞥し、あいつがトイレに入る。
面談終了後、
伊藤先生と私の出勤時、
よくあることだ。
ろくな仕切りがないこの教室で、少しでも話しやすいようあいつが気を遣っているのか。
変に大人っぽいことをしてくれる。
「僕から言ってみます。」
「助かります。」
「またなんかわかったら、LINEします。」
あいつの意思を変えるのは、ほぼ100%無理なこと。
だけど、だからといって何も手だてを打たないのと、打つのでは、訳が違う。
そう信じている。
志望校に落ちる自分を受け入れることと、その下の大学にさえ落ちる自分を受け入れることは、
前者の方がダメージが小さいに決まっている。
でも、少なくともA判が出ている大学より上に行けることも事実だ。
部分的には。
志望校まで届かなくとも、1年間やってきたことに見合う大学、選択肢は提供したい。
そのためには出願締切まで、もう一押しやれることはすべてやりたい。
いずれにせよ、志望校に合格を目指す、その思いはあいつだけでなく、ご家庭も講師も同じであるのだから。
別に努力家でもないし、朝まで働いて昼に起きているわけではない。
金が発生していない時間は、無為に過ごす。
そのくせ、未だに起こしてもらってる。
たまに奥さんの声が聞こえることもある。
もうどうでもよくなった。
寝ぼけた声で、おはようと言うだけの関係。
そして二度寝。
ちゃんと起きれりゃ予習時間にでも費やせるのに、
もっとまともな食事をとる時間になりうるのに、
ただシャワーを浴び、
髪を巻いて、
化粧水を塗ったくり、
即席で仕事に行ける姿をつくっては、
講師もどきのことをやって、
酒を飲む時間までを過ごす。
強くしてくれたのは、あなただった。
一人にしてくれたのも、あなただった。
そして本当に一人でも平気にしてくれたのはあなただった。
だからこそ思う。
少なくとも私は、あなたのものではない。これ以上。
金が発生していない時間は、無為に過ごす。
そのくせ、未だに起こしてもらってる。
たまに奥さんの声が聞こえることもある。
もうどうでもよくなった。
寝ぼけた声で、おはようと言うだけの関係。
そして二度寝。
ちゃんと起きれりゃ予習時間にでも費やせるのに、
もっとまともな食事をとる時間になりうるのに、
ただシャワーを浴び、
髪を巻いて、
化粧水を塗ったくり、
即席で仕事に行ける姿をつくっては、
講師もどきのことをやって、
酒を飲む時間までを過ごす。
強くしてくれたのは、あなただった。
一人にしてくれたのも、あなただった。
そして本当に一人でも平気にしてくれたのはあなただった。
だからこそ思う。
少なくとも私は、あなたのものではない。これ以上。
「はい、だいたい70パーね。」
お父様がご自身のペンケースからマーカーを取り出し、グラフに書き入れる。
「じゃ、K大は安全なのね。」
「はい。」
伊藤先生がうなづく。
といってもセンター利用。合格発表はまだだ。
「で、これは一般の数値?」
「はい、そうです。今年度のデータがまだ出ていないため、昨年の数値を使用しております。
出典は、東進衛星予備校、代々木ゼミナール、河合塾です。」
「なるほど。で、こっちが?」
「はい、オレンジ色が今回の得点率になります。」
東進は緑、河合は青、代ゼミは赤。
エクセルの某グラフ。
何も設定しなければ、4色目は紫だった。
ただあいつのイメージとはかけ離れていたから、あえて色を変えた。
誰にも言ってないけど、そこそこ面倒だった。
「じゃ、本番はやっぱり5日~16日ですね。」
「はい。ここで、何とか決めたいんですけど、もしものことがあった時のために
こちらの大学はまだ出願受け付けているので、いかがでしょうか。」
T大学とK大学の中期センター利用。
2教科ならば、現代文と英語でうまいこといかないか。
最低合格得点率89.1%の某学科を除けば、受ける価値はないわけでもない。
「どうなの?」
お父様が促す。
「え~、T大一般も受けるし、いい。」
「だけどもし・・・・。」
伊藤先生が説得を試みる。
ただあいつの独特の表情。
これはその場をやり過ごすために、ひとまず相手にしゃべらせ続ける戦法だ。
俺はスルースキルが高い、かつてそう言っていたが、今日もその能力を発動させた。
それから面談の本来の目的がおぼろげになりながら、終了時間へと近づいていた。
「じゃ、とりあえずここが本番で、だめだったら他考えます。」
お父様がご自身のペンケースからマーカーを取り出し、グラフに書き入れる。
「じゃ、K大は安全なのね。」
「はい。」
伊藤先生がうなづく。
といってもセンター利用。合格発表はまだだ。
「で、これは一般の数値?」
「はい、そうです。今年度のデータがまだ出ていないため、昨年の数値を使用しております。
出典は、東進衛星予備校、代々木ゼミナール、河合塾です。」
「なるほど。で、こっちが?」
「はい、オレンジ色が今回の得点率になります。」
東進は緑、河合は青、代ゼミは赤。
エクセルの某グラフ。
何も設定しなければ、4色目は紫だった。
ただあいつのイメージとはかけ離れていたから、あえて色を変えた。
誰にも言ってないけど、そこそこ面倒だった。
「じゃ、本番はやっぱり5日~16日ですね。」
「はい。ここで、何とか決めたいんですけど、もしものことがあった時のために
こちらの大学はまだ出願受け付けているので、いかがでしょうか。」
T大学とK大学の中期センター利用。
2教科ならば、現代文と英語でうまいこといかないか。
最低合格得点率89.1%の某学科を除けば、受ける価値はないわけでもない。
「どうなの?」
お父様が促す。
「え~、T大一般も受けるし、いい。」
「だけどもし・・・・。」
伊藤先生が説得を試みる。
ただあいつの独特の表情。
これはその場をやり過ごすために、ひとまず相手にしゃべらせ続ける戦法だ。
俺はスルースキルが高い、かつてそう言っていたが、今日もその能力を発動させた。
それから面談の本来の目的がおぼろげになりながら、終了時間へと近づいていた。
「じゃ、とりあえずここが本番で、だめだったら他考えます。」