出願ラッシュ 8 | Startin' over…
結局、志望校2つと、その下のランクの3校、センター利用が2校。
受験校の数としては十分だが、力と安全性には欠ける。

無惨にも、あいつが当初受けることを宣言したスケジュールと、何も変わらなかった。

「ま、だめだったらまた受けるってことで。
次はもう面談は大丈夫ですか。」

「もし万が一の際は受験校に関して心配なことがございましたら、
面談の場を設けさせて頂きます。」
「そうですか。ありがとうございます。では、
あ、これ皆様でどうぞ。」

なんと菓子折りだった!

生徒さんが合格した際に頂くことは何度かあったが、結果を出す前。
確かに伊藤先生の休日出勤、かく言う私も無給での対応。
あいつがなんか言ったのだろうか。
こちらの現状を察して下さったかのようなお父様のお心遣い。
なんて嬉しいこと。頑張るしかない。

「恐れ入ります。ありがとうございます。」


即刻社員に報告。伊藤先生が深々と頭を下げる。


お父様を送り出す。

「あ、お気遣いなく。」

伊藤と二人、エレベーターの前で背筋を伸ばす。

「ありがとうございました。お気をつけてどうぞ。」

エレベーターのドアが閉まり、3秒たって上体を戻す。
それから、
「お疲れ様です。」
「お疲れ様です。」

と締めくくるのが、面談終了時の恒例になりつつある。

不完全燃焼感が半端ない。
もっと言うべきことはあったのではないか。

浮かない表情。
伊藤先生もそう感じていた。

「どうします?結局。」
「センター利用、中期。うーん、このままじゃ危ない。」
「ですよね。」
「締切過ぎたらセンターの得点も水の泡。うまく使えるとこはまだ絶対あるのに。」
「彼の意思を変えるってなると、うーん。」

二人で面談室で話しているのを一瞥し、あいつがトイレに入る。
面談終了後、
伊藤先生と私の出勤時、
よくあることだ。
ろくな仕切りがないこの教室で、少しでも話しやすいようあいつが気を遣っているのか。
変に大人っぽいことをしてくれる。
「僕から言ってみます。」
「助かります。」
「またなんかわかったら、LINEします。」

あいつの意思を変えるのは、ほぼ100%無理なこと。
だけど、だからといって何も手だてを打たないのと、打つのでは、訳が違う。
そう信じている。
志望校に落ちる自分を受け入れることと、その下の大学にさえ落ちる自分を受け入れることは、
前者の方がダメージが小さいに決まっている。

でも、少なくともA判が出ている大学より上に行けることも事実だ。
部分的には。
志望校まで届かなくとも、1年間やってきたことに見合う大学、選択肢は提供したい。
そのためには出願締切まで、もう一押しやれることはすべてやりたい。
いずれにせよ、志望校に合格を目指す、その思いはあいつだけでなく、ご家庭も講師も同じであるのだから。