Startin' over… -42ページ目
本当は、近くにいるから触れたくてたまらない。
心だけならすれ違うのが必然なのだろう。
だからこそ、触れてつながろうとするのではないか。

「先生。」
「何?」
「人差し指曲がってる。」
「え?そうかな?」
「見て、だってさここ、第二関節から、ほら。」
必死に見せつけてくる。
確かにまっすぐではない。
「言われてみればそうだね。」
あいつの指を撫でる。
「指ぽきぽき鳴らしてたらこうなった。」
わざとなのか、癖なのか、恐らくわざとであると思うが、
授業終了時、頻繁に指を鳴らしている。

「ねぇ。」
「ん?」
「模試申し込んだ?」
「あ、忘れてた。」
「何回目?」
「4回目。」てへぺろでは済まされない。
数えるな!と言いたい所だがあえて言わない。
「あとで携帯もっておいで。」
「今あるよ。」
「どれ。」

あいつの手が、軽く私の手に触れる。
不自然極まりないが、もし何か伝えようとしていたなら
無視したかったわけじゃない。
夜の8時過ぎから、閉店の23時まで居座った。
格安コーヒーチェーン。
ブラック企業と言われているが、客層もブラック企業勤務なのではないか?

私大の問題をナメてかかっていたことに反省する。
正直、ガチで志望校の過去問ばかりをやっていたあいつに
出題傾向の知識は勝てる気がしない。
自分のやり方では通用しなくなっている。
商品として失格だ。

ひとまず一年分は解いた。
このペースで行けばあと4年分は行ける。いってやる。
同時にセンターとネクステ分析さえすれば、少しは今っぽい感覚はつかめるだろうか。

だけど、講師として自信が無い。
実を言うと今までの担当生徒さんの志望校は皆、あいつが受けたいところよりも
下のものばかりだった。
いけないことだが、ぶっつけで授業することも可能だった。
今時期になってやっと、与えられた仕事の重さを思い知る。
またあいつが行きたいのは私の母校でもある。
足下をナメていた。

先日も、英語と現代文で地雷を踏んだ。
恥ずかしいことだが、ぶっつけで臨んでしまった。
前回授業で、何も指示しなかった自分が悪い。
しかも、そんなに出来は悪くなかった。いや良かったのだ。
論点整理も解答と本文の結びつきも十分に説明できなかった。
お金を頂く資格が無い。
糞講師である。

信頼は失っただろう。
それがわずかなものだったとしても、許されないことだ。
これを取り戻すのに半年はかかるだろう。
もしかしたら一生無理かもしれない。
ただただこの休み期間、問題を解き続けるしかない。


かれこれ、大学受験をしたのは8年前だ。
確かに同世代が社会人一年目の時に、大学へ行こうと発企した。
ただ勉強法や教材は、自分が現役だった時と同じ。
実際にそれで何とかなったが、時代の変化について行けているかと言うと
疑念が残る。

今までの授業は英文法にしろ単語にしろ、
自分が見たことあるかどうかで重要度を判断していた。
それで何とかなっていた。
と思っていた。

ただ今年はほとんどの担当が高3の大学受験生。
志望校の過去問を見ても、なんでこんなもの聞くか?と自分の時代と比較して思う。
研究不足他ならない。

某私大の過去問を解く。
長文内に前置詞を穴埋めする問題。
また文法問題でも、いわゆるイディオムとして暗記させるようなものが多く出題されていた。
授業中、「イディオムは例文で覚えればいい、長文読解時にいっしょにチェックする。だから対策不要。」と断言していた自分が恥ずかしい。
確かに例文集のDUOにはお世話になった。あれのおかげで単語の丸暗記なんて苦痛からは解放された。

思えば私大の赤本なんてろくに解いていなかった受験時代。
確かに国公立の記述対策はいろいろ打ちのめしてくれて、力にはなった。
今の大学にいるのもそのおかげである。
売り物にするためには、解くしか無い。
新たな皮膚感覚を養わなければならない。

ネクステージのテスト範囲を振り返り後悔する。
「語法問題も盛り込めばよかった。」
不定詞と動名詞の範囲があまりにも薄すぎる。
母校の英語科も、桐原の1100から切り替えた理由がわかった。