「あ、見せて下さい。」
「ここ置いておきます。」
「いや待て。明日やることは?ほら、さっき渡した紙。」
「え?あれ書かなきゃいけないの?」
午前3時に作ったto doリスト。
からかうのもほどがあるだろう。
「そうだよ。だって決まったでしょ?」
面談時、前日にやるべきことをあいつの口から宣言してもらい翌日チェックするというもの。
「あれはお父さんが決めたことで俺が決めたことじゃない。」
え?
初っ端からこれは無いだろ。
面談、そして伊藤先生が熱く語ってくれた意味はすべて水の泡。
「いやいや、待って。チェックせずには帰すことができない。
もう遅いし決めて。明日やること。」
「えーー、ネクステ。」
「それだけ?古文は?日本史は?現代文のあれ書き終わった?」
「まだ。」
「あと模試の復習は?どこまで行った?」
今日塾に来てここまで終わらせると宣言した部分まで終わってない。
これもアウト。
「じゃ、現代語訳まだなのね。」
「うん。」
「じゃあやらなきゃいけないよね。」
「うん。だけど待って、こんなに厳しいとは思ってなかった。」
「いいから書いてよ、さ、ほら。」
頑に書くのを嫌がる。
まるで反抗期の中学生、いや小学校高学年のようにも見える。
「えー、ちょっともう一回父と話してきます。」
そこだけ大人。今までちゃんと計画的効率的に勉強できた事実があっただろうか。
「何?納得いってないってこと?」
「うん、あんまり。」
「わかった。それはわかった。つまりこのやり方に不満があるってことね?」
「・・・うん。」
「じゃあ、
なんでその時に言わなかったの?」
他にも生徒さんがいたが構わず厳しくゆっくり問いただした。
「え、だって。」
「今お父様に電話して。」
「帰ってきてるかわかんない。つながるかもわかんない。」
「じゃあ明日やること教えて。」
「文法、単語。」
思いつきで言っているようにしか見えない。
「それだけ?」
K大のボロボロだった長文の復習が優先ではないか?
「わかった。今日はもう遅いから帰っていいけど。」
「はい。」
あいつがクスッと笑った。
「ちょっと、笑ってる場合じゃないでしょ。
できるの?」
あいつを非常階段まで送り出した。
なぜか終始笑顔。
「私さ、今日仕事しないで帰ることになるんだよ。
いやそれはどうでもいい。
ただ、今まで勉強できてたの?」
「いや、」
「だよね?受からないよこのままじゃ。」
反抗期の少年の顔をしている。どこか嬉しそうにも見える。
なぜ?
「家に電話するから。」
あいつが階段を降りていく。
「さようなら。」
「さよなら。」
目を合わせずに返してくれた。
誰とも会話せず、一日を過ごしてみた。
案外苦ではなかった。
普段は授業、つまりしゃべる仕事で食いつないでいる。
確かに大学へは最近行っていないし友達とも前ほど会ってはいない。
一週間の多くを、生徒さんと話している。
その内容は、
笑ってしまうが英文法の内容が多いだろう。
昨日、伊藤先生に投げ出されて、あいつと二人きりになった。
久しく、普通の会話をせざるを得ない状況になった。
彼と違って、講師業を離れての、それまた生徒との、会話。
二重の条件に縛られ、いかに自分が無趣味か思い知った。
暇さえあれば酒、タバコ、時折おいしいもの。
食いつく話題と言えば性風俗、ヤクザ、ブラック企業とか貧困。
それらをつまみに大学のメンツと朝まで飲み明かすこともちらほら。
とても生徒さんに話せるものではない、例え成人しようとしている浪人生でも。
「先生どっちですか?」
いつもフェイクで曲がる角をあいつが曲がろうとするが、
私はまっすぐ歩き続けた。
もう斜め後ろには自宅がある。けれどそのような素振りを見せず(見せてないつもり)、
あいつの話を聞き続ける。
もう少し、漫画やアニメについて勉強した方いいのだろうか。
だけどそれならまだ安保闘争とか冷戦について勉強した方まし。
「え、あなたそっち?」
「はい。この通り沿いなんで。」
聞いていない。
いつもの経路と違うではないか。あいつが去るまで家に入れない。
「先生は?」
「この辺なので。」
ていうか、ここです。
「じゃ、さようなら。」
「さようなら。」
中途半端な交差点で別れ、あいつが去るのを待つ。
セールで買ったコバルト色のコップに、ワインを注ぐ。
ランプに透かして見せるけど、ロゼ色が全くわからない。
久しぶりに自炊した。
古いものを捨てたこの部屋は、少しばかりは居心地もよくなっただろう。
本当は、昨日の帰り際。
「どうしてこう、また。」
もう少し楽しく過ごせていれば、今日と違う今日があったのかもしれない。
案外苦ではなかった。
普段は授業、つまりしゃべる仕事で食いつないでいる。
確かに大学へは最近行っていないし友達とも前ほど会ってはいない。
一週間の多くを、生徒さんと話している。
その内容は、
笑ってしまうが英文法の内容が多いだろう。
昨日、伊藤先生に投げ出されて、あいつと二人きりになった。
久しく、普通の会話をせざるを得ない状況になった。
彼と違って、講師業を離れての、それまた生徒との、会話。
二重の条件に縛られ、いかに自分が無趣味か思い知った。
暇さえあれば酒、タバコ、時折おいしいもの。
食いつく話題と言えば性風俗、ヤクザ、ブラック企業とか貧困。
それらをつまみに大学のメンツと朝まで飲み明かすこともちらほら。
とても生徒さんに話せるものではない、例え成人しようとしている浪人生でも。
「先生どっちですか?」
いつもフェイクで曲がる角をあいつが曲がろうとするが、
私はまっすぐ歩き続けた。
もう斜め後ろには自宅がある。けれどそのような素振りを見せず(見せてないつもり)、
あいつの話を聞き続ける。
もう少し、漫画やアニメについて勉強した方いいのだろうか。
だけどそれならまだ安保闘争とか冷戦について勉強した方まし。
「え、あなたそっち?」
「はい。この通り沿いなんで。」
聞いていない。
いつもの経路と違うではないか。あいつが去るまで家に入れない。
「先生は?」
「この辺なので。」
ていうか、ここです。
「じゃ、さようなら。」
「さようなら。」
中途半端な交差点で別れ、あいつが去るのを待つ。
セールで買ったコバルト色のコップに、ワインを注ぐ。
ランプに透かして見せるけど、ロゼ色が全くわからない。
久しぶりに自炊した。
古いものを捨てたこの部屋は、少しばかりは居心地もよくなっただろう。
本当は、昨日の帰り際。
「どうしてこう、また。」
もう少し楽しく過ごせていれば、今日と違う今日があったのかもしれない。
あいつを真ん中にはさみ、結局閉室までこれからの勉強について話をした。
伊藤先生がいる。だからこそ、私がしゃべることはせずただ横にいた。
仲良く3人で教室を出る。あえてエレベーターは使わず。
おそらくあいつと伊藤先生はこれからごはんでも食べに行くのではと思っていた。
だが出てきたのは意外な言葉だった。
「せっかくだから、先生と帰んなよ。いっぱいお話聞いて。じゃ」
伊藤先生はこれからゼミの会議があるらしい。
教室の前のコンビニで別れた。
私たちは、”いつも通り””いつもの”道を歩いていく。
何も特別なことではない。
「大丈夫?元気?」
「元気ですよ、元気って聞かれたら元気じゃなくなるし、怒ってる?って聞かれたら
怒る。そんな性格。」
「あらそう、ごめん。じゃあもう言わない。別の話しよう。」
明らかに不機嫌な表情をしているとき、帰り際に聞いてしまうことがある。
もし何かあったのなら?私が何かしてしまったのではないか?
そう思って聞いてしまうことがある。
自分本位なのだろうか。
今日だって、昨日だって、出勤し顔を合わせたら寂しそうな表情をしていた。
何に対し、何を感じているのか、ますますあいつがわからなくなる。
言葉を発せず数メートル。
どうしてこうもまぁ、カジュアルな話題ができないのか。
もっと普通の学生だったら、もっと普通の恋愛をしてきたなら、
もっと普通の家庭環境で育ってきたなら、
もっとまともな話ができたのかもしれない。
語るのが面倒な経歴。
聞かれない限り答えないようにしてきた。
また常に聞き役に逃げることで、語らずしてその場をやり過ごしてきた。
それ故事実に盲目な人間からは誤解されてきた。
それで不利な立場に追い込まれることもあった。
そして今後だってそうなるのかもしれない。
そんな時には、一人でいいから、目で見て判断できる人間、
寄りかかる存在、そんなものを渇望するのであろう。
近くにいると思うから欲しくなる。甘えなのかもしれないが。
伊藤先生のように、学生生活の一部を語るのも悪くないだろう。
一部なら
でも無理だ。
「大学に入ったら何したいの?」
「特に無い。」
意図の無い質問。宙に消えるだけだ。
私だってそうだった。
学生生活に何かを求めることには懐疑的だ。
ただ多くは得た方のは否めないが。
「ゲームしたい。」
「何のゲームするの?」
「あれ言いませんでしたっけ?ポケモンの話。」
「あ、そうだった。」
結局私の家の付近まで、ポケモンの話をさせた。
ゲームは全くやらない。
151匹の時代で記憶が止まっている。
聞いてもつまらないリアクションしか返せない。
そこにはただただつまらない女がいた。
伊藤先生がいる。だからこそ、私がしゃべることはせずただ横にいた。
仲良く3人で教室を出る。あえてエレベーターは使わず。
おそらくあいつと伊藤先生はこれからごはんでも食べに行くのではと思っていた。
だが出てきたのは意外な言葉だった。
「せっかくだから、先生と帰んなよ。いっぱいお話聞いて。じゃ」
伊藤先生はこれからゼミの会議があるらしい。
教室の前のコンビニで別れた。
私たちは、”いつも通り””いつもの”道を歩いていく。
何も特別なことではない。
「大丈夫?元気?」
「元気ですよ、元気って聞かれたら元気じゃなくなるし、怒ってる?って聞かれたら
怒る。そんな性格。」
「あらそう、ごめん。じゃあもう言わない。別の話しよう。」
明らかに不機嫌な表情をしているとき、帰り際に聞いてしまうことがある。
もし何かあったのなら?私が何かしてしまったのではないか?
そう思って聞いてしまうことがある。
自分本位なのだろうか。
今日だって、昨日だって、出勤し顔を合わせたら寂しそうな表情をしていた。
何に対し、何を感じているのか、ますますあいつがわからなくなる。
言葉を発せず数メートル。
どうしてこうもまぁ、カジュアルな話題ができないのか。
もっと普通の学生だったら、もっと普通の恋愛をしてきたなら、
もっと普通の家庭環境で育ってきたなら、
もっとまともな話ができたのかもしれない。
語るのが面倒な経歴。
聞かれない限り答えないようにしてきた。
また常に聞き役に逃げることで、語らずしてその場をやり過ごしてきた。
それ故事実に盲目な人間からは誤解されてきた。
それで不利な立場に追い込まれることもあった。
そして今後だってそうなるのかもしれない。
そんな時には、一人でいいから、目で見て判断できる人間、
寄りかかる存在、そんなものを渇望するのであろう。
近くにいると思うから欲しくなる。甘えなのかもしれないが。
伊藤先生のように、学生生活の一部を語るのも悪くないだろう。
一部なら
でも無理だ。
「大学に入ったら何したいの?」
「特に無い。」
意図の無い質問。宙に消えるだけだ。
私だってそうだった。
学生生活に何かを求めることには懐疑的だ。
ただ多くは得た方のは否めないが。
「ゲームしたい。」
「何のゲームするの?」
「あれ言いませんでしたっけ?ポケモンの話。」
「あ、そうだった。」
結局私の家の付近まで、ポケモンの話をさせた。
ゲームは全くやらない。
151匹の時代で記憶が止まっている。
聞いてもつまらないリアクションしか返せない。
そこにはただただつまらない女がいた。