Startin' over… -24ページ目
明らかに身体で会話をしていた昨日の授業。

夏期講習を終えてから、あいつの授業は週1回一時間。
それでも毎日顔を合わせているから、そのことが不思議に思える。
勝負は、月に4時間しか残されていない。
私大入試、センター試験。
模試の結果からしたらセンター対策を優先するべきだが、カリキュラム構成で迷走していた。


久しぶりにこんなに近くに座った。
自習席でとなりに座ることはあっても、周りの視線もあるから、
距離をとって座っている。
仕切りがつくる陰もあり、いつもより、というかこれが本来の距離だったのかもしれない。

「第一段落での重要文線引いて。」
「えっと・・。」

また変な所で文を切っている。
なぜそこからOになるのに、スラッシュを入れてるのか。
that以下の節の理解がめちゃくちゃだ。Vを無視して後ろに注視した結果、失点している。

肘がふれた。

身体が大きい男の子となら、よくあることだけれど
あいつは細身。
最近にしては珍しかった。

英文をみつめるあいつ。
頭がこちら側に近づいてくる。

明らかに他の生徒との距離感とは違う。

触れてはいないものの、体温を感じる。

「ここ?」
「そう。訳」
「え、ちょっと待って。」
「Sはどこまで?」
「stateの手前まで?」
「じゃあそっちのhave declinedは?」
「そっか、えっとー。」

また手前の単語から適当に訳していくあいつの悪い癖が再発した。
センター長文ならその力づく読みでも片付けられるが、私大となったら別である。
頭の中で整理して内容を整える。それもできるようになってほしい。

「はい、設問いきます。」

とりわけ、良くも悪くもない授業であった。
だけどそんなの上の空で、一番近くにいられた。
それだけでに、一週間で一番の幸せを見出だす。
単語帳を塾に忘れた。
文法問題集のテスト範囲をコピーしてくるのを忘れた。
故に帰宅後の現在、作業ができない。
明日は久しぶりの大学の授業。たまには学校くらい行きたい。

つんだ。

どうやら明日朝一で教室を開け、単語テストを作成。
その後大学へ向かい授業を受ける。
そして本屋に行き、かの文法問題集を買い、
即座に教室に戻り文法テストを作成。

ただでさえ推薦入試の英語の問題の解答作成を頼まれている。
あと明後日は代ゼミの模試の現代文の解説授業。
だからこそ今日の夜のうちに、ある程度の仕事は片付けておくつもりだった。

明日は、こんなに忙しくなるはずじゃなかったのに。

そういえば、眉墨ペンも切らしてる。

テストも顔も、つくる準備さえできていない。
今日も二時間前に出勤した。
例によって自分で教室を開ける。
大学4年、というより労働者。

どれも重い上、連コマ。
最後のコマはあいつの授業だ。
センター予想問題を解かせてみたが、際立って弱い部分は見当たらない。
だけどトータルするとかなりの失点。標準的レベルとも言いがたい。
日本史、古文の現状を踏まえると英語くらいは得意科目になってもらわなきゃ困る。

他の講師より4~5倍の宿題を出してる自負はある。
用意とチェックに時間が取られるのは言うまでもない。
もっと早く出勤するべきだったのだろうか。
授業開始まであと20分。基礎英語の問題集のコピーをとりながら、
センター系の大問3くらいは目を通しておきたかったなどと後悔する、
そして現代文の解説コピーをしなければいけないのを思い出す。

「先生!」
「へ!」



ビックリした。

振り向くとあいつがいた。


机の上には生徒用バインダー、センター過去問、某予備校の模試、
iphone,USB、そして飲みかけのブラックコーヒーとレッドブル。

決して疲れているわけでもないし、眠いわけでもない。
一部プライベートを見られたような、恥ずかしい心地。
ライ麦カンパーニュは完食しておいてよかった。


「もう入ってもいいですか?」
「う、うん、いいよ。早かったね。」
「今日早く出てきたから、戻るのもあれかなと思ったんで。」

どこに戻ろうと思ったのかしらないが、まぁいいや。


「そうなんだ。K大、復習した。」
「あ~、まだやってない。」

おい。