マニアックな話 | ほうしの部屋

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 ミニコンポを買い換えた話題から、編集者のC氏とやりとりしていたら、相当マニアックな世界にはまりこんでしまったので、笑えるので、下記に転送します。
 ちなみに、C氏も相当なオーディオマニアで、バイトでデパートの屋上などでミニコンサートなどのPA屋をしていたこともあるので、音響機材には相当詳しいです。

[houshi111メール]
お気に入りのパナソニックのCDミニコンポが故障したので(CDの音飛びが生じたので)、新宿のビックカメラで修理に出したのですが、その帰りがけ、オーディオ売り場で、同等のCDミニコンポが非常に安く売られていたので、考えました。
 そのまんま考えて、いったん自宅へ引き上げ、即座に決断して、再び新宿のビックカメラへ(笑)。
 CDの音飛びという故障は、たいていの場合、ピックアップの故障ですから、交換修理するとたぶん1万円ぐらいはかかります。しかし、私のパナソニックのコンポは3万5000円ぐらいで買ったものです。それも、2002年に買ったので、10年近く経っていますから、仮に今回修理できても、部品の供給がもうなくなる可能性大です。
 オーディオ売り場で見つけた新品は、ビクター製で、2万7000円ぐらい。これなら、修理なんかやめて買ったほうが良いでしょう。
 というわけで、新品を買ってその箱を片手にぶら下げて、もう片手には引き取った修理品(修理やめ)をぶら下げて、重たい思いをして帰ってきました(笑)。
 修理断念したパナソニックのミニコンポですが、スピーカー関係の構造と音質は非常に気に入っていました。小さいのに、バイワイアリング(バイアンプ)構造、つまり、低音と高音を別々のアンプで鳴らす構造なので、非常に音の解像度が良く、透き通った音質でした。
 まあ、私は元々、ビクターのオーディオは(日本製では)ヤマハの次に好きなので、新しく買ったコンポも、まさにビクターらしい堅実な音(バランスの良い音)をしているので、良しとします。
 私は、かつてのドデカホーンラジカセやBOSEのようないわゆるドンシャリ(低音ブリブリ高音シャカシャカ)系の音質が嫌いで、ナチュラルで抜けの良い音が好きなのです。プロの録音エンジニア時代は、スピーカーは一般的なヤマハNS10Mやタンノイなどですが、アンプは、アメリカのボルダー社の200万円するやつを仕事では使っていました。このアンプは素晴らしく、どんなスピーカーでも、ナチュラルで生音に忠実な再生、奥行きのある再生を可能にしました。
 私がCDミニコンポを買う場合、どうしても外せないのが、いまさら「カセットデッキ」なのです(笑)。昔、作曲・録音したカセットがたくさんあるせいです。それを早くデジタル化すれば良いのですが、パナソニックのコンポを2002年に買ったときも、MDにダビングしようと思っていて、結局、怠慢のまま現在に至る(笑)。
 今度新しく買ったビクターのミニコンポは、CD、MD、カセット、ラジオ、外部入力(アナログ)、そしてUSBが付いています。つまり、パソコンを介さずとも、USBメモリーやUSB機器(iPodやウォークマン)に音楽をダビングできるのです。自作曲のカセット音源もUSBにダビングできます。これなら、この先、相当に怠慢しても、USB規格そのものは絶対に無くならないから、安心でしょう。こうして、私はまた、この先、怠慢を続けて、自作曲のデジタル化を怠るのです(笑)。

[C氏メール]
Superfly(スーパーフライ)のボーカルは希な美声だと思います。艶もあるし。
わたしはじっくり聞くものは、全部カセットテープに落として聴いています。CDの音の窮屈さ、表情の乏しさは信用できない。CDソースからアナログに変換したからといって、理屈からみればなんにも変わらないはずだけど、聴きやすくなる(気がする)。
ちなみにカセットデッキはナカミチしか所有したことはありません。

[houshi111メール]
 たしかにナカミチのカセットデッキは最高です。私も仕事では使っていました。
 Cさん、相当なオーディオマニアですね。ナカミチのデッキは高いから、私はかつて必死で中古品を探したものです。
 あとは、オープンリール(6ミリテープ)のポータブルデッキである、ナグラとか(笑)。
 デジタル音源をアナログメディアに落とすとなぜ聴きやすくなるかというと、単純には「エッジが取れる」からです。リニアに処理されていた音質、音像が、ノンリニア(アナログ)的なグラデーションを帯びるようになるので、実際には周波数特性などは劣化しているのですが、人間の心理的には聴きやすくなるのです。
 そういう意味で、CDをカセットに落として聴くのは正解です
 実際、CDの録音規格は悪徳企業のソニーが作ったもので、本当に優秀な録音技師が収録した本当に良質なアナログマスターテープの音質をキープできるものではないのです。妥協の産物です。
 CDは44.1キロヘルツで録音されていますが、CDが発売されて以降、DATなどの個人用デジタルメディアでは48キロヘルツというCDよりも高音質な録音規格が用いられていました。それも結局、技術者たちは、CDの録音規格が充分なものではないと認識していたからです。
 何か、福島原発の不備をわかっていながら隠して安全を唱え続けた東京電力と似ています。

[C氏メール]
東京に来て、まずオーディオを揃えようと思って、秋葉原に行きました。それまではカセットなんか馬鹿にしていたけど、店でナカミチを試聴した時は衝撃でしたね。他のメーカーのものとは根本的に種類が異なる、という感じでした。これでダビングしたテープは音楽家も驚いていましたね。振り返ればもう30年前のことです。
わたしは電気的な音が嫌いで、硬質な音が特徴のソニーははじめからきらいだったですね。
問題はスピーカーですよ。今はダイヤトーンを聴いていますが、やっぱり駄目。日本のメーカーは電気製品としてスピーカーを設計するけど、欧米は楽器として設計しているんじゃないかと思うんですね。ガキのころ、札幌のジャズ喫茶が導入したJBLを聴いたときも衝撃。10代でした。現状のボロアパートでは、さほどのスピーカーは意味ないし、これでいいや。
わたしは高音がスカッと抜けて天まで届くような音が好きなので、そもそもCDとは相性が無い。CDでもっともひどいのは、昔のアナログソースをデジタルで復刻したものです。これはひどい。

[houshi111メール]
 CDが世に出回り始めた頃、多かったものですが、アナログマスターテープや、ひどい場合は、ラッカー盤(レコードのマスター盤)から、何も処理せず、そのままデジタル録音したものです。これは、ダイナミックレンジが広いまま、ピークレベルに合わせて単純にレベル設定しているため、異様に細くて小さい音に聞こえます。この頃の、いわゆる、アナログレコードで出ていたものを単純にCDで再販売したものは最悪です。
 その後、CD化する場合、リマスタリングが当然になり、それ用の機材も発達したので、音質は良くなりました(特に、録音レベルが大きくなり、コンプレッションのきいた音になり、聴きやすくなりました)。
 スピーカーにこだわるのは素人にありがちなことです。
 本当に重要なのはアンプ(パワーアンプ)で、優れたアンプはスピーカーをほぼ選びません。どんなスピーカーでも良い音で鳴らしてくれます。
 とはいえ、私は、家庭で聴く場合、それほど機材にこだわりません(金もないですし)。音楽制作の仕事をしていた頃も、家庭のシステムは貧弱なものでした。それは、「最悪の家庭環境でも、できる限り良い音で再生できるようにスタジオで録音する」ためです。スタジオで録音、ミックスしたものを、必ず、家庭の貧相なステレオで再生してチェックしたわけです(笑)。
 私は、音楽の録音、ミキシングだけでなく、マスタリング(マスターテープをCD規格に仕上げる作業)を手がける場合もありましたが、その時、CDの録音規格の中でいかに「アナログ録音の最良の部分」を生かすかという、空しい抵抗(笑)を試みたことが何度もあります。
 私の時代、ミキシングしたマスターテープは、アナログのハーフインチあるいは6ミリのオープンリールテープかDATで納品するのが普通でした。まあ、直接、CD規格の周波数でUマチックテープ(通称・弁当箱)のデッキにデジタルでミックスダウンして録音するエンジニアもいましたが。
 アナログテープで納品する場合は、極力、そのままいじらないでCD規格に変換することを要求して、あとはマスタリングのエンジニアに任せました。
 DATテープで納品する場合、私自身でマスタリングする場合も少なくありませんでした。
 DAT→CD規格というデジタル→デジタルの変換だと、やはり「エッジのきつい(それでいて薄っぺらい)音」になりがちです。そこで、まず、DATのミックス音源を、マスタリングスタジオに置いてある、ハーフインチのオープンリールにダビングします。ただし、ただのダビングではありません。テープコンプレッションというアナログテープの圧縮効果を生かすため、例えば、磁束密度(録音レベル)320で調整した状態で、520のレベルで音源をぶち込むのです。ハーフインチのデッキのレベルメーターはもちろん振り切れた状態になります。後は、自分の耳が頼りで、チリチリというテープが歪む音が聞こえる寸前まで、録音レベルを上げていきます。
 こうして、アナログテープによるコンプレッションをかけると、音は格段に分厚く聞こえるようになります。こういう処理をしてから、CD規格の周波数でデジタルへダビング(変換)します。
 たぶん、カセットテープでも、録音するときに、できるだけ大きいレベルで(歪まない程度にレベルメーターが振り切れるぐらいに)音を入れると、音質が良くなるという経験が、一般の人々にもあるはずです。
 それを生かした技術が、テープコンプレッションです。レコーディングの時も、私は主にアナログのマルチトラックレコーダーを用いて、テープの品質上で磁束密度限界一杯のレベル520で、各楽器やボーカルを録音しました。この場合も、狙いはテープコンプレッションをかけることで、普通のコンプレッサーも用いましたが、アナログテープに過大レベルで録音することで、音を太くすることができました。特に、ボーカル、エレキギター、エレキベース、アコースティックギター、ドラムスなどの録音で有効でした。

[C氏メール]
わたしのささやかな夢は、地下室でも作ってそこで思う存分アナログレコードを聴くこと。
アンプは、現状では真空管かソリッドステートかは、あんまり変わらんと思っています。
スピーカーはやっぱりJBLだな。クラシックもJBLの方がいい。タンノイはしっかり聴いたことはないけど、ピンときたことはない。
なにかの間違いで実現したら、聴きにきてください。

[houshi111メール]
 再生用のパワーアンプで真空管を用いるのは、オーディオマニアの自己満足に過ぎません。
 実際には、トランジスターのアンプのほうが優秀で、しかも耐久性があります(特にプロの現場では耐久性も大切なのは御存知の通りです)。私がリースで愛用していた200万円~300万円する、ボルダー社(アメリカ)のパワーアンプもトランジスターで、真空管ではありませんでした。どんなスピーカーでも良い音にする魔法のアンプでした(さすがに右翼街宣車のようなラッパスピーカーじゃ無理ですけど……笑)。
 真空管方式が威力を発揮するのは、レコーディング(録音)作業においてです。私は、プリアンプ(マイクの音を録音用に増幅するアンプ)、イコライザー(各楽器やボーカルの録音用のパラメトリックイコライザー)、コンプレッサー(電気的な圧縮装置)、マイクロフォンにおいて、真空管方式の機材を愛用しました。
 プリアンプとイコライザーは、デンマークのチューブテック社の製品を愛用しました。真空管は当初、ドイツのシーメンス社製でしたが、純正品が製造中止になり、香港製になると、真空管によって音質にばらつきが出てくるので、何本も買って交換してチェックしなければなりませんでした(香港製ではハズレが3割ぐらいありました)。
 コンプレッサーで真空管方式のものとしては、やはりチューブテック社のものと、アメリカのフェアチャイルド社の古いものを好んで使いました。ノイズが多いのが難点ですが、1960年代~70年代の雰囲気の音になります(例えばビートルズの音みたいな)。
 マイクはそれこそ多種多様に用いましたが、真空管方式で好きだったのは、ドイツのノイマン社のU47、U67、それからノイマンの前身のテレフンケン社製のマイクでした。意外に、新製品として出てきたソニー製の新しい真空管マイクも良い音がしていました。
 ただし、最も重要なのは組み合わせです。それを見いだすには試行錯誤と経験を積むしかありません。いくら真空管機材の音が良いとは言え、そればかり重ねて使いすぎると、ノイズが増えてしまいます。
 マイクに真空管方式を使ったら、あとはせいぜいプリアンプに真空管方式を用いる程度で、イコライザーやコンプレッサーは新式のもの(トランジスター方式)を用いるとか、マイクをノイマンのU87とかベイヤーとかAKGとかの、比較的新しいトランジスター方式のコンデンサーマイクにするなら、プリアンプとイコライザーとコンプレッサーを真空管方式にするとか、そういった組み合わせの工夫が、録音する音源の特性(例えば楽器の音質とかボーカルの声質とか声量とか)によって違ってきます。