私を癒す音楽 | ほうしの部屋

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 普段は「スーパーフライ最高!」などと騒いでいるロック好きだから、私はさぞガチャガチャした音楽ばかり聴いていると思うことでしょう(笑)。
 しかも分裂症的に神経過敏で敏感関係妄想的で、危ない言説ばかり垂れ流しているから、私は「癒されることのない人間」と思われがちです(笑)。
 しかし、しかーし………私も人並みに繊細なのです(笑)。
 私を癒す音楽、それは、ずばり、デビッド・シルビアンの一連のソロ作品群です。
 私が世界で最も愛するバンド(アーティスト)は、ロキシーミュージック(ブライアン・フェリー)ですが、その影響をもろに受けてデビューしたのが、デビッド・シルビアンをリーダーとして、先日、早逝したミック・カーン(フレットレスベース担当)など抜群のテクニックを持つメンバーを擁した、ジャパンというバンドでした。
 ジャパンは、YMOや坂本龍一やピーター・バラカンなどともつながりが深く、デビッド・シルビアンの妻が日本人ということもあり、日本で非常に人気がありました。美しいルックスで、前衛的で暗鬱なニューウエーブ・ロックを演奏するバンドでした。とはいえ、ジャパンの音楽は明らかに、ロック、ポップ・ミュージックの範疇です。
 しかし、ジャパン解散後、ソロになったデビッド・シルビアンは、内省的な側面は維持しつつ、非常に芸術性の高い音楽を追求していきます。ロックのテイストは(キング・クリムゾンのロバート・フリップとの共作などではロック的ですが)ほとんど薄れて、ジャズ、フォーク、前衛クラシック、実験音楽の方向性に傾いていきます。しかし、あの低音の美しい、ボーカリストとしての側面はずっと保っているのです。歌詞は現代の吟遊詩人のような浮世離れした芸術性を持っています。
 結果として、最近では、「よくこんなオケで、まともな音程で歌えるな」と不思議になるほど、変な職人芸的なボーカルの技術を発揮しています(笑)。
 この、デビッド・シルビアンのソロ作品群こそが、私を癒す音楽の筆頭なのです。
 特に好きなのは、ジャパン解散直後から作り始めた(坂本龍一、ロバート・フリップ、ホルガー・チューカイ、デビット・トーン、シルビアンの弟のスティーブ・ジャンセンなど一流ミュージシャンが参加した)3部作、そして最近の2作です。
 最初の3部作は「ブリリアント・トゥリーズ」「ゴーン・トゥー・アース」「シークレット・オブ・ザ・ビーヘイブ」です。この3作品は、普通に聴けて、落ち着ける、メロディアスな秀作です。メロディーがしっかりしていて、それでいて、バックの演奏には前衛的なジャズやクラシックの要素がちりばめられています。
 最近の2作は「マナフォン」「ダイド・イン・ザ・ウール」です。「マナフォン」は、電子楽器の静謐なノイズの断片が、まるで深い森林のような情景を生み出し、その中で、たった一人でデビッド・シルビアンが朗々と歌っているといった感じです。その「マナフォン」からの何曲かと新曲を合わせて、ブーレーズ(現代フランス最大の前衛クラシック音楽家)の弟子だった日本人がオーケストラ編成の前衛的なオケを作り、それをバックにシルビアンが歌うのが「ダイド・イン・ザ・ウール」です。デビッド・シルビアンは生前の武満徹と共演したがっていましたが、まさに本作は、武満の遺志を継いだかのような日本人作曲家(ブーレーズの弟子)が前衛的かつ有機的なクラシック編成のオケを作り、デビッド・シルビアンの神秘的な低音ボーカルと見事に調和したものです。
 この5作を聴いていると(特に夜中)、非常に落ち着きます。
 誰に対しても自信をもっておすすめできます。多忙で躁鬱的な現代人にとって「聴く鎮静剤」です(笑)。
 輸入盤なら安いので、絶対に買って損はないと保証できますが、特におすすめは、初期3部作の最後の「シークレット・オブ・ザ・ビーヘイブ」と最新作の「ダイド・イン・ザ・ウール」です。
「シークレット・オブ・ザ・ビーヘイブ」は、まさに初秋の月夜あたりにばっちりはまる作品と言えます。これが気に入ったら、初期3部作全部を聴いてみると良いでしょう。どれも、普通の美しい落ち着いた音楽として聴けます。
「ダイド・イン・ザ・ウール」は前衛的ですが、前衛クラシック音楽をバックに天才ボーカリストが歌うとどうなるかという興味深い作品です。前衛音楽でありながら、不思議に鎮静効果を持っています。これが気に入ったら「マナフォン」も聴いてみると良いでしょう。