温泉地に到着した瞬間、まず鼻が反応することがあります。
硫黄のような匂い、金属のような匂い、あるいは湿った土を思わせる空気。
その匂いだけで「温泉が近いなあ」と分かることも少なくありません。
温泉地の匂いは、景色よりも先にその土地の個性を伝えてくれる存在です。
代表的なのが、硫黄の匂いです。
群馬県の草津温泉や秋田県の玉川温泉、北海道の登別温泉(写真)では、温泉街を歩くだけで硫黄の香りに包まれます。
この匂いの正体は硫黄そのものではなく、硫化水素という気体です。
地下深くで熱水に溶け込んだ硫黄成分が、地表に出た瞬間にガスとなって放出されることで、あの独特の匂いが生まれます。
玉川温泉の源泉付近で特に強い匂いを感じるのも、このためです。
なお、硫化水素は高濃度になると無臭に感じられる性質があり、匂いの有無だけで安全性を判断できない点には注意が必要です⚠️。
一方、兵庫県の有馬温泉や栃木県の塩原温泉(写真)では、硫黄とは異なる金属的な匂いを感じることがあります。
これらは鉄分を多く含む温泉で、地下では透明だった鉄分が空気に触れて酸化し、赤茶色や黒色へと変化する過程で独特の匂いを放ちます。
有馬温泉の「金泉」で見られる赤褐色の湯や、排水溝の着色は、その証拠とも言えるでしょう。
さらに、別府温泉(写真)や奥日光・湯元温泉などでは、硫黄や鉄とは違う、湿った土や森のような匂いを感じることがあります。
これは温泉の熱と高い湿度に適応した微生物の活動による場合があります。
地熱が地表近くまで及ぶ温泉地は、微生物にとっても特殊な環境であり、その存在が空気に微妙な匂いの層を作り出しています。
温泉地の匂いは、お湯そのものよりも、湯気や地表から立ち上る空気を通して感じられることが多いものです。

早朝の草津温泉街や、雨上がりの別府地獄めぐりでは、匂いがいっそう濃く感じられます。
次に温泉地を訪れる際には、ぜひ鼻にも意識を向けてみてください。
匂いをたどることで、その温泉が地下でたどってきた長い旅路を、より深く感じ取ることができるはずです。


