温泉寺でじっくりと湯に浸かり、体の芯まで温まったあと、その余韻のまま湯の平湿原へ向かいました。
「もう今日はこれで十分じゃないか」
と心のどこかで思いつつも、せっかくここまで来たのだからと自分に言い聞かせての散策です。
空は相変わらず重たい雲に覆われ、小雨と霧が交互に現れる天気。
案の定、周囲に人影はなく、
「あれ、今日は休園日だったかな?」
などと小さく呟きながら歩き出しました。
気温は低いはずなのに、湿原に足を踏み入れた途端、空気がやけにぬるい。
地面のあちこちから湯気が立ち上り、湿気も高めで、寒さ対策に着込んできた上着が少し暑く感じられます。
「山の天気と温泉、完全に温泉の勝ちだな」
などと、誰に聞かせるでもなく納得していました。
しばらく進むと、源泉である古屋(コヤ)が見えてきます。
「おお、あれが噂の本拠地か」と、思わず足を止めて見入ってしまいました。
木造の小屋の周囲は温泉成分が厚く析出し、石や地面が独特の色合いに染まっています。
さらにその上には、温泉に適応した緑色の細菌がびっしり。
「すごいな、完全にここで暮らしてるな」と感心しつつ、「自分は長居できないな」と苦笑い。
霧と湯気に包まれ、他に誰もいない湿原。
古屋の姿は幻想的で、しばらく言葉を失いました。
「これは写真より記憶に残るやつだな」
と呟きながら、自然と温泉の力強さに圧倒された静かなひとときでした。




