今回の、東北楽天ゴールデンイーグルスの「新応援歌」騒動を見て、
私が真っ先に思い出したのが、2004(平成16)年の所謂「球界再編騒動」である。
あの時は、ファンの声を無視した、近鉄とオリックスの合併に端を発し、すったもんだの挙句、
東北楽天ゴールデンイーグルスの新規参入が決まった。
今、この時期に、あの「球界再編騒動」を振り返るというのは、
「ファンあってのプロ野球」という観点から見て、非常に意味が有るのではないかと、私は思う。
という事で、話をわかりやすくするため、まずは「球界再編騒動」の事実経過のみを記す。
(※下記の出来事は、全て2004(平成16)年のものである)
① 1月31日 大阪近鉄バファローズが、球団の「命名権」(所謂、ネーミングライツ)の売却を発表
② 2月5日 他球団からの猛反発を受け、近鉄が「命名権」売却を撤回
③ 6月13日 マスコミによる報道で、大阪近鉄バファローズと、オリックスブルーウェーブの「合併」画策が表面化
④ 6月17日 パ・リーグの緊急理事会で、近鉄・オリックスの合併に4球団が賛同
⑤ 6月18日 プロ野球選手会が、近鉄・オリックスの合併への反対を表明
⑥ 6月21日 プロ野球実行委員会で、近鉄・オリックス以外の10球団が、近鉄・オリックスの合併を了承(※承認ではない)
⑦ 6月30日 ライブドアの堀江貴文社長(当時)が、記者会見で大阪近鉄バファローズの買収を希望すると表明
⑧ 7月7日 プロ野球オーナー会議で、近鉄・オリックスの合併を大筋で了承。その際に、近鉄・オリックス以外の合併(ダイエー、ロッテ、日本ハム、西武の4球団)も水面下で話し合われている事が判明
⑨ 7月8日 プロ野球選手会の古田敦也会長の「オーナーの方達と話し合いたい」という申し入れを、巨人・渡邉恒雄オーナーが「無礼な事を言うな、たかが選手が」と一蹴し、拒絶
⑩ 7月10日 プロ野球選手会が、「近鉄・オリックスの合併の1年間凍結」「近鉄球団の売却(ネーミングライツを含む)の再検討」などの要望を骨子とする声明を発表。認められない場合はストライキ決行も辞さずと決議
⑪ 8月10日 近鉄・オリックスの両球団が、合併の基本合意書に調印
⑫ 9月8日 オーナー会議により、近鉄・オリックス両球団の合併が正式承認
⑬ 9月9・10日 NPB(プロ野球機構)とプロ野球選手会の団体交渉が開催。ストライキは回避
⑭ 9月16・17日 NPB(プロ野球機構)とプロ野球選手会の団体交渉が開催。選手会によるスト決行が決定
⑮ 9月18・19日 プロ野球史上初のストライキが決行、全試合が中止
⑯ 9月22・23日 NPB(プロ野球機構)とプロ野球選手会の団体交渉により、「選手会が近鉄・オリックスの合併を認める」「翌年(2005年)から、パ・リーグに新球団が新規参入し、パ・リーグ6球団制が維持される」事で、最終合意に達する
⑰ 11月2日 東北楽天ゴールデンイーグルスの、2005年からの新規参入が決定
…というわけで、事実経過を記しただけでも、大変な騒動だった事がわかるが、
上記の経緯について、私なりにまとめてみたい。
<近鉄が大赤字により、SOS!しかし、他球団は助け船を出さず…>
当時、大阪近鉄バファローズは、毎年、大赤字を計上し、球団経営に行き詰まっていた。
そこで、近鉄は窮余の一策として、球団の命名権(ネーミングライツ)売却を発表したのだが、
「そんな話はとんでもない!」と、他球団に一蹴されてしまった。
ちなみに、過去のプロ野球で、ネーミングライツ売却は、何度も例が有った。
例えば、1950(昭和25)年の松竹ロビンスは、球団経営は「田村駒商店」だったが、ネーミングライツを映画会社の松竹に売却したし、
1955(昭和30)年、高橋ユニオンズはトンボ鉛筆を、1969(昭和44)年には東京オリオンズがロッテを、それぞれスポンサーとして、ネーミングライツを売却したという歴史が有った(※ロッテは、球界参入当初は球団を買収したのではなく、命名権のみを買ったのである。その後、正式に球団を買収した)
つまり、プロ野球界に前例が有ったにも関わらず、何故、この時、近鉄の命名権売却を、却下してしまったのだろうか。
いずれにせよ、この時、近鉄球団は、事実上、その命脈を絶たれてしまった。
これが、後の大騒動の発端となるとは、この時は誰も思わなかった事であろう。
<近鉄・オリックスの合併発表!!大騒ぎに発展>
6月13日、突如として、近鉄・オリックス両球団の合併が、マスコミ報道によって明らかとなったが、
これはまさに青天の霹靂であり、球界のみならず、世間は大騒ぎとなった。
まさか、このご時世に、プロ野球の球団が合併してしまうとは…という驚きである。
勿論、両球団のファンをはじめ、プロ野球ファン全体が猛反発したのは、言うまでもない。
そもそも、当時、オリックスには阪急ブレーブス以来、69年間の歴史が、
近鉄にも55年間の歴史が既に有ったわけである。
いくら赤字だったとはいえ、その歴史を簡単に捨て去り、合併で急場を凌ごうというのは、
今思っても、まさにファンを完全に無視した暴挙であると言わざるを得ない。
率直に言って、当時は私も、「こんな事が許されて良い筈がない」と、激怒したものである。
<ナベツネの横暴…「無礼な事を言うな、たかが選手が」という、歴史に残る暴言>
この後、当然の事ながら、古田敦也会長を中心とする、プロ野球選手会も猛反発し、
古田会長は、オーナーへの直談判を申し入れたが、巨人のナベツネこと、渡邉恒雄オーナーは、
「無礼な事を言うな、たかが選手が」
と、言い放った。
この、傲慢極まりない発言により、世論は一気に沸騰し、雪崩を打って、世論はプロ野球選手会へと味方した。
つまり、潮目が変わった歴史的な「迷言」となったわけだが、ナベツネの傲慢さには、呆れるばかりであった。
「たかが選手」とは、お前は一体何様なのかと言いたくなる。
そもそも、ファンは選手や球団を応援しているのであって、オーナーや親会社を応援しているわけではない。
そこを履き違えてはいけないと思うのだが、驕り高ぶったナベツネは、そんな当たり前の事もわからなかったのだろう。
<プロ野球オーナー達の目論見…最終的には「1リーグ10球団制」が目標だった!!>
そもそも、近鉄・オリックスが合併されると、パ・リーグは5球団になってしまい、
普通に考えれば、5球団では試合日程を組むのも無理であろう(常に1球団が余る事になる)
そこで、もう一組の合併を強行し、パ・リーグを4球団に統合、
最終的には、セ・リーグの6球団とパ・リーグの4球団で、10球団の1リーグ制にする、
というのが、当時のオーナー達の目論見であった。
これは、球界の衰退に繋がりかねないので、絶対に阻止しなければならないと、選手会やファン達は結束した。
重ねて言うが、安易な合併や球団削減などというのは、やって欲しくはない。
これほど、ファンを無視した、馬鹿にした話が有るだろうか。
「ファンあってのプロ野球」
という事は、決して忘れてはならない筈である。
<ホリエモンの登場により、球界に大嵐が起こる!!>
この球界再編騒動で、忘れてはならないのが、ホリエモンこと、ライブドアの堀江貴文社長(当時)であろう。
もし、ホリエモンが、近鉄球団の買収を表明しなかったら、あのままオーナー連の目論見どおり、
「1リーグ10球団制」が実現してしまっていた可能性は高い。
ホリエモンが、「私が球団を買いますよ」と表明してくれたお陰で、
「買い手が居るのに、何で売らないんだ」
という声が高まった。
そして、あからさまにホリエモンを拒絶する、オーナー連の古臭い体質や閉鎖性が、より一層、明らかになり、
風向きは、ますます選手会有利になった。
異端児のホリエモンは、この球界再編騒動で、一気に有名になったが(私も、この騒動で、彼の事を知った口である)、
最終的には、球界参入は成らなかったものの、ホリエモンが球界を思いっきり引っ掻き回してくれた功績は非常に大きいと、私は思っている。
<史上初のスト決行…そして、東北楽天ゴールデンイーグルスは誕生した!!>
その後の経過は、上記の表に書いた通りだが、
プロ野球選手会はストを決行したが、圧倒的多数のファンは、これを支持した。
当時、生放送の『すぽると』に出演した古田が、ファンからの圧倒的な支持を受け、
感極まって涙を流していた姿は忘れられない。
そして、近鉄・オリックスの合併凍結こそ成らなかったものの、
最終的にはオーナー連が折れて、新球団の新規参入が決まり、
結局は、三木谷浩史社長の楽天が参入し、東北楽天ゴールデンイーグルスが誕生したのである。
(幻の球団「仙台ライブドアフェニックス」。左は監督就任が決まっていたトーマス・オマリー。右はライブドアの堀江貴文社長(右))
ちなみに、最初に球界参入を表明し「仙台ライブドアフェニックス」という球団名まで決まっていたライブドアは、
色々と難癖を付けられて、参入を断られ、後出しジャンケンのような形で、楽天が球界に迎え入れられた形である。
ライブドアが、その後、色々と問題を起こしてしまったのを見ると、楽天の参入で正解だったとも思えるが、
何度も言うが、もし堀江貴文という男が現れていなければ、今のプロ野球は果たしてどうなっていたか、わからない。
そして、ファンの有り難さ、大切さを、何処よりもわかっている筈の楽天が、
今まさに、ファンを無視した暴挙をしでかしてしまっているのは、本当に残念である。
楽天の三木谷オーナー、そしてフロント陣には、是非とも、球界参入当時の初心を思い出し、
ファンの声を大切にして頂きたいと思い、この記事を書いた。
そして、ファン無視の球団削減など、二度と繰り返してはならないと、私は声を大にして言いたい。
(※なお、近鉄とオリックスの合併により、オリックスバファローズが誕生した事も、付記しておく)