ウクライナの危機は、ウクライナについてではない。ドイツに関する事だ
2022年2月16日(水) 記入者: ニュース編集部

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「第一次、第二次、そして冷戦と」

「何世紀にも渡って戦争を繰り返して来た

米国の原初的な関心は」

ドイツとロシアの関係であった」

「そうならない様にする為だ」

 

ジョージ・フリードマン、シカゴ外交評議会(STRATFOR)CEO

 

  

 


ウクライナ危機はウクライナとは関係ない。

 

ドイツと、特にノルドストリーム2というドイツとロシアを結ぶパイプラインの問題だ。

 

 

米国は、このパイプラインを欧州に於ける自国の優位性を脅かすものと考え、事有る毎にこのプロジェクトを妨害しようとして来た。

 

それでもノルドストリームは推進され、現在では完全に稼働し、準備が整っている。

 

ドイツの規制当局が最終的な認証を与えれば、ガスの供給が開始される。

 

ドイツの家庭や企業は、クリーンで安価なエネルギー源を手に入れ、ロシアはガス収入を大幅に増やす事ができる。

 

両者にとってWin-Winの関係である。

米国の外交政策は、この様な動きを快く思っていない。何故なら、商業は信頼を築き、信頼は貿易の拡大に繋がるからだ。

 

関係がより温かくなれば、貿易障壁は更に取り除かれ、規制は緩和され、旅行や観光が増加し、新しい安全保障構造が展開される。

 

ドイツとロシアが友人であり、貿易パートナーである世界では、米軍基地も、高価な米国製兵器やミサイルシステムも、NATOも不要である。

 

又、エネルギー取引を米ドルで行う必要も、収支を合わせる為に米国債を備蓄する必要無い

 

ビジネスパートナー間の取引は自国通貨で行う事ができ、ドルの価値急激な低下経済力の劇的なシフトを引き起こすに違いない。これがバイデン政権がNord Streamに反対する理由である。

 

それは、欧州とアジア巨大な自由貿易圏へと接近し、相互のパワーと繁栄を増大させる一方で、米国は外野に追いやられるという未来への窓なのである。

 

ドイツとロシアの関係強化は、米国が過去75年間支配してきた「一極集中」的な世界秩序に終止符を打つものである。

 

ドイツとロシアの同盟は、現在、奈落の底に近付きつつある超大国の衰退を早める恐れがある。

 

だからこそワシントンは、ノルドストリームを妨害し、ドイツをその軌道に乗せる為に、あらゆる手段を講じようと決意しているのである。

 

それは生き残りの為である。

 


そこで登場するのがウクライナだ。

 

ウクライナは『Nord Stream』を妨害し、ドイツとロシアの間に楔を打ち込む為のワシントンの「選択兵器である。

 

この戦略は、米国の外交政策ハンドブックの1ページ目から引用されている。「分断と支配」である。

 

ワシントンは、ロシアが欧州に安全保障上の脅威を与えていると云う認識を植え付ける必要がある。

 

それが目標だ。

 

ーチンは血に飢えた侵略者であり、気性が荒く、信頼できないことを示す必要がある。

 

その為に、メディア「ロシアはウクライナに侵攻する積りだ」と、何度も繰り返し伝える事を任されている。

 

しかし、ロシアはソ連邦崩壊後一度も侵略していない事、米国は同じ期間に50カ国以上に侵略し、政権を転覆させている事、米国は世界各国に800以上の軍事基地を保有して居る事等が語られないままになっているのである。

 

メディアは、これらの事を一切報道せず、代わりに「悪のプーチン」に焦点を当てている。

 

彼は、ウクライナの国境沿いに推定10万人の軍隊を集結させ、欧州全体を再び流血の戦争に巻き込むと脅しているのだ。

ヒステリックな戦争プロパガンダは全て、ロシアを孤立させ、悪者にし、最終的には小さな単位に分割する為に利用できる危機を作り出そうという意図で作られたものである。

 

しかし、本当の標的はロシアではなく、ドイツであるアンズ・レビューのマイケル・ハドソンによる記事からの抜粋をご覧ください。

 

米国の外交官が欧州の購入を阻止する為に残された唯一の方法は、ロシアを煽って軍事的な反応を起こさせ、この反応に復讐する事純粋な国家経済的利益を上回ると主張する事である。

 

タカ派のヴィクトリア・ヌーランド国務次官(政治担当)が1月27日の国務省記者会見で説明した様に「ロシアが何らかの形でウクライナに侵攻すれば、ノルドストリーム2は前進しない」のである。

 

(「米国の真の敵は欧州を始めとする同盟国」The Unz Review)

 

プーチン:米国はロシアを「何らかの武力紛争に巻き込もうとする」


そこに白黒をつける。

 

バイデンのチームは、ノルドストリームを妨害する為に「ロシアを煽って軍事的反応を起こさせたい」のだ。

 

これは、プーチンが国境を越えて東部のロシア系民族を守る為に軍隊を送るよう誘導する為の、何らかの挑発行為が行われる事を示唆している。

 

もしプーチンがこれに応じれば、その対応は迅速かつ厳しいものになるだろう。

 

メディアは、欧州全体への脅威として非難し、世界中の指導者はプーチンを「新しいヒトラー」として非難するだろう。

 

詰り、ドイツオラフ・ショルツ首相がノルドストリームを最終承認する事を政治的に不可能にする事である。

 


ノルドストリームに対するワシントンの反対を考えると、読者は何故バイデン政権が今年の初めに、このプロジェクトに更なる制裁を課さないよう議会に働きかけているのか不思議に思うかも知れない。

 

その答えは簡単だ。

 

国内政治だ。

 

ドイツは現在、原子力発電所を廃止しており、そのエネルギー不足を補う為に天然ガスを必要としている。

 

又、経済制裁の脅威は、外国からの干渉の表れと見るドイツ人にとって「嫌なもの」なのだ。

 

「何故、米国が我々のエネルギーの決定に干渉してくるのか」と、平均的なドイツ人は問う。「米国は自分の事だけ考えて、我々の事には口を出すな」と。これこそ、合理的な人なら誰でもが期待する反応である。


次に、アルジャジーラの記事である。

 

 

ドイツ人の大多数はこのプロジェクトを支持しており、パイプラインに反対しているのは一部のエリートやメディアだけである」......。

 

  

 

 

ドイツ外交問題評議会のロシア・東欧専門家であるシュテファン・マイスター氏は「米国が制裁や批判を口にする程、ドイツ社会ではこのプロジェクトが人気を集める」と述べている。

 

 (『ノルドストリーム2:ロシアの欧州向けパイプラインが欧米を二分する理由AlJazeera)

 

 


詰り、世論はノルドストリームを強固に支持しているのであり、ワシントンが新たなアプローチに踏み切った理由を説明する一助となっている。

 

制裁は上手く行かないので、アンクルサムはプランBに切り替えた。

 

ドイツがパイプラインの開通を阻止せざるを得ない様な大きな外的脅威を作り出すのだ。

 

正直な処、この戦略は自暴自棄になっている様に観得るが、ワシントンの忍耐強さには感心せざるを得ない。9回裏に5点差まで追い上げられたが、未だタオルを投げてはいない。最後のチャンスに挑み、少しでも前進できるか否かを見極めようとしているのだ。


月曜日、バイデン大統領はホワイトハウスでドイツのショルツ首相と初めて共同記者会見を行った。

 

 

バイデン氏とショルツ氏が共同記者会見に参加

 

この時の大騒ぎは、正に前代未聞だった。

 

全ては、バイデン大統領がショルツ首相に米国の政策の方向性を迫る為の「危機的雰囲気」を演出する為に仕組まれたものであった。

 

週の初めには、ホワイトハウスのジェン・プサキ報道官が「ロシアの侵攻が迫っている」と繰り返し発言していた。

 

 

ロシアの侵略が差し迫っている」というシナリオを撤回したプサキ、「ロシアをオウム返ししている」と米上院議員を非難
 

彼女の発言に続いて、国務省の広報担当者であるニック・プライスは、情報機関が近い将来ウクライナ東部で行われると予想されるロシアの支援を受けた「偽旗」作戦の詳細を彼に提供したと論評した。

 

 

プライス氏の警告に続いて、日曜日の朝、国家安全保障顧問のジェイク・サリバン氏が、ロシアの侵攻はいつでも起こり得ると主張し「明日でも起こり得る」と述べた。

 

ロシアのウクライナ侵攻は「早ければ明日にも起こりうる」。ジェイク・サリバン
 

これはブルームバーグ通信が「ロシアがウクライナに侵攻する」というセンセーショナルで全く誤った見出しを発表した数日後のことであった。

 

ロシアがウクライナに侵攻したら、ベルリンとワシントンはどう動くか?


このパターンがお分かりになるだろうか?

 

これらの根拠の無い主張が、無防備なドイツ首相に圧力を掛ける為に使われたのが判るだろうか。

 

首相は、自分を狙ったキャンペーンに気付いて居ない様に見えた。

 

 

バイデン大統領、オラフ・ショルツ独首相との記者会見に参加 - 2/7/22


予想通り、最後の一撃は米大統領自身によってもたらされた。

 

記者会見でバイデンは次のように力説した。

 

「もし、ロシアが攻めて来たら......」

「ノルドストリーム2はもう存在しない」

「我々は、それに終止符を打つだろう」


詰り、今、ワシントンはドイツの為に政策を決めているのか?何と云う不届きな傲慢さだろう。

バイデンの発言は、明らかに当初の台本にはなかったもので、ドイツ首相は驚きを隠せなかった。

 

それでも、ショルツは『ノードストリーム』の中止には同意せず、パイプラインの名前に触れる事さえ拒否した。

 

バイデンは、世界第3位の経済大国のリーダーを公の場で追い詰めれば、サンドバッグにできると考えたのだとしたら、それは間違いだった。

 

ドイツは、遠く離れたウクライナでの再燃の可能性に関らず『Nord Stream』の立ち上げを約束したままである。

 

しかし、それはいつでも変わる可能性がある。

 

と云うのも、ワシントンが近い将来、どんな扇動をしてくるか誰にも分らないからだ。

 

ドイツとロシアの間に楔を打ち込む為に、どれだけの人命を犠牲にする覚悟があるのかを誰が知っているだろうか。

 

米国の衰退を遅らせ、新しい「現地主義」な世界秩序の出現を防ぐ為に、バイデンがどんなリスクを取る積りなのか、誰が知っているだろうか。この先数週間、何が起きてもおかしくない。何でもだ。

今の処、ドイツは猫を被って居る。

 

この問題をどの様に解決するかは、ショルツ首相第である。

 

首相がドイツ国民の利益の為に最も適した政策を実行するのか、それともバイデンの執拗な腕創りに屈するのか?

 

賑やかなユーラシア大陸の回廊で新たな同盟関係を強化する道を選ぶのか、それともワシントンの狂った様な地政学的野心に支持を投げ掛けるのか。

 

多くの新興国が『グローバル統治』を等しく担い、多国間主義、平和的発展、全ての人々の安全保障を揺るぎなく追求する新しい世界秩序におけるドイツの極めて重要な役割を受け入れるのかそれとも明らかに賞味期限切れのボロボロの戦後システムを支えようとするのか。

 

  


ひとつだけ確かな事は、ドイツがどの様な決断を下すにせよ、それは我々全てに影響を与えると云う事だ。