慰安旅行の経費性について | 中小企業の経営参謀「税理士星川」の戦略、税制、法務、海外展開のお役立ちブログ

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久しぶりに税金の話をしましょう。

正解があるのかと言われれば、
法律、法令には明確な正解が明記されるわけではないので解釈の世界になる、そんな一例について綴ります。
近頃、同様の質問を受けることが多いので。

家族のみの慰安旅行は経費?
個人事業主が、唯一の従業員である妻と2人で行った慰安旅行。
その経費が、所得税法上の福利厚生費に該当するか?という論題。
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・国内旅行で、年に一度の2泊3日、費用は1人あたり10万程度
・2人の子供も同行したが、その子供の旅費等は経費からは除外している

このような条件下で、支出した慰安旅行の費用は、必要経費に該当するか? 

税法の世界で著名な某教授は、この事件について、納税者側の鑑定所見書を出され、
要旨以下のように主張されていました。

・実定法上、福利厚生という概念は、特に会社の規模に関係するとは規定していないのだから、家族経営の会社が例外となるものでない。
・家族従業員のみという零細企業は日本に多く、これらの企業の慰安旅行を認めないと大多数の企業で福利厚生が認められなくなる。
・プライベートな家族旅行は、これとは、別途行われており、本件慰安旅行は明確に区別されている。
・よって、相当な金額の慰安旅行は福利厚生費として必要経費となる。

これに対して裁判所はどういう判断を下したか。

裁判所の判断の枠組みは、
必要経費性の判断は、「業務の遂行必要なものであったか否か」を事業者の主観的意思のみにより決すべきものではなく、客観的に決すべき、というものでした。
(高裁のレベルで、必要経費とは認められないと結論づけられています。)

必要経費性の判断に、社会通念という客観的な要素が入ってくるのは当然のことです。
そこには旅行の目的についての社会通念が問われると考えます。


ちなみに所得税基本通達は、社員旅行が参加者の給与として課税されない場合について、目的や、旅行の行程(4泊5日以内)などの基準を規定しています。(この程度の社員旅行であれば、参加した人に給与課税をしませんという基準となるルールで、これを満たせば福利厚生費になるというルールではないです。)

社員旅行に係る社会通念
この問題の解を得るには、なぜ従業員の慰労が企業にとって必要なのか?その根本の議論が必要でしょう。上記の前段の社会通念とは何か?の検討ということです。

仕事の場とは離れて、飲食、宿泊その他のレクリエーションを提供することが、従業員の職場に対する満足度を向上させる、仲間同士の親睦を深める、さらに業務に専念してもらえる。企業はこのような好循環を期待して資金を拠出します。企業としての支出の目的がここにあります。そして、客観的にもその必要性が観念される。今後の貢献や、これまでの感謝を給与以外のカタチで示したものが、福利厚生費となるのでしょう。

では、家族従業員だけの慰安旅行は、上記の支出の目的を、客観的に観念し得るか。

この点、家族が仕事の場を離れて、飲食、宿泊、その他のレクリエーションをするというのは、まさにプライベートな家族の時間に過ぎず、そのレクリエーションを経て、やる気を引き出すということはあり得るにしても、そもそも事業主と一体となって業務に専念することが、直接自己の生活の糧を得ることと直結しているという立場は、第三者である従業員等と大きな違いとして認識すべきと考えます。
そこに、事業のお金を費やすことに疑問の余地があるでしょう。つまり、社会通念上、家族の為の慰安旅行ということが妥当ではないと考えられると思うのです。

確かに法律上、福利厚生の概念を明記する規定はありません。
しかし、これを根拠にプライベートな支出を必要経費と主張するのは根拠が薄いと指摘せざるをえないでしょう。
一線を画されるべきでしょう。

第三者の従業員がいる事業者と本件のような家族従業員の会社との平等を訴えることは、的外れと考えます。

論点はその旅行自体の目的が、上記検討のような必要経費性のフィルターに耐えうるかどうかです。

ちなみに、上記は、法人の場合であっても、経営者及びその家族従業員のみでの慰安旅行の場合には同様に解され、それが実施された場合には、参加者への賞与となるべきです。

形式的に家族の旅行が全て経費にならないというわけではないはずです。家族だけが参加する旅行であっても、その旅行の目的が、事業の遂行上必要なものと考えられ、実態が伴えば、それは必要経費性を観念し得るということです。いろいろ考えられますよね。

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