武田泰淳『ひかりごけ』 | ホーストダンスのブログ

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武田泰淳の『ひかりごけ』を読みました。

4つの短編からなる作品集ですが、最後に収録されているタイトル作が最も有名で、内容も衝撃的です。


数年前、当時長男が通っていた高校の文化祭に行った時、たまたまこの作品中の戯曲部分が演じられていたものを観劇し、衝撃的な内容とともに、セリフを完璧に覚えて演じ切った高校生たちに驚いたことを覚えています。

その時も、機会があれば原作を読んでみたいと思ったのですが、ずっとそのままになっていたところ、先日、たまたま次男の机の上にこの文庫本があるのを目にし、次男に聞いてみたところ、高校の課題図書に指定されたそうで、すでに次男は読み終えたとのことです。

早速次男から借りて、当時の観劇の記憶をたどりながらタイトル作を読み始めると、あっという間に読み終えてしまいました。


作品の大半を占める戯曲部分の第一幕は、太平洋戦争末期、北海道知床半島の先端部で座礁した船の乗組員たちが番屋で風雪をしのぐ中、次々と命を落とし、生き残った船員たちが死んだ仲間の死肉を食べて飢えを凌ぎ、最後に一人船長だけが救出されるというものです。生き残った船長は、当初は奇跡の帰還者として崇められるものの、次第に仲間の人肉を食べて生きながらえたのではないか、という風説がたち始めます。やがて船長が一冬を過ごした番屋近くで人骨が発見されるに至り、裁判にかけられた船長は最終的に懲役1年の判決を受けることになりますが、戯曲の第二幕は、船長の裁判の法廷が舞台となっています。

注目すべきは、第一幕では生き延びるために仲間の人肉を食うという非人道的行為も厭わない野獣性を帯びた人物として描かれている船長が、第二幕では全てを達観してしまった、俗世を超越したかのような人物として描かれている点です。


扱われたテーマがあまりに衝撃的で、かつ、実在した事件に基づいていることで、大きな反響のあった作品のようです。未読の方にはぜひ一度読んでいただきたいと思います。

また、この作品は三國連太郎主演で映画化されているようです。いずれ見てみたいと思います。