J.D.サリンジャー『キャッチャー・イン・ザ・ライ』 | ホーストダンスのブログ

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J.D.サリンジャーの『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を読みました。邦題としては『ライ麦畑でつかまえて』の方がよく知られていると思われます。今回私が読んだ白水社の新書版の題名は表題の通りで、村上春樹の訳によるものです。

作品は青春小説の代表作として広く知られており、私も大学時代、たまたまサークルの友人が持っていた本を借りて読んだような気がしますが、卒業後30年以上たった今読んでみて、内容はすっかり頭から抜けていることがわかりました。ちなみに、邦題についても、長年定着した『ライ麦畑でつかまえて』よりも、英語表記をそのまま使ったこちらの方が作品の内容に照らしても正しいことがわかりました。


あらすじは、予科学校を退学処分となった17歳の少年ホールデンが学校の寮を飛び出してから2泊3日の出来事を自らの体験として語るというものです。

ホールデンは弁護士の息子であり、経済的にはかなり恵まれた環境にありながら、学校の試験で落第して退学処分を喰らってしまいます。その理由も本人の能力不足ではなく、なんだかんだと理由をつけて学校が気に入らないから、というもので、私たちのような大人からすればたわいのない理由で人生を棒に振るなよ、とアドバイスしてあげたくなるようなちょっと生意気な青年です。

寮を出た後の現実逃避的な3日間も、知り合いの女の子に電話してデートをしてケンカ別れしたり、宿泊したホテルで娼婦を招き入れ、仲立ちのエレベーターマンとの間で金のトラブルに巻き込まれたり、というしょうもない出来事が繰り返されます。最後には、可愛い妹に別れの挨拶をして自分は自宅には戻らず遠く離れた土地へ行こうと決意するものの、無邪気な妹と動物園デートをする中で人生の幸福を感じて結局、家に戻ることになります。(この物語を語っているのはこの3日間の出来事の翌年で、その時点では別の学校に通っていることが仄めかされますが、それらについては詳しく語られていません。)


まさに若者の一時の気の迷いから生じた行動をロードノベル的に表現した作品ですが、主人公と同年代の読者に大きな共感を持って迎えられ、大ベストセラーとして読み継がれているものです。私も、大学生当時にはかなり感情移入しながら読んでいたような気がしますが、この歳になると、むしろ保護者や作品中に登場する主人公の先生たちのような目線でこの作品に接することができるようになりました。

作品中に登場する「大人たち」は主人公の世代の少年たちから見ると俗物化した救いようもない人間たちがほとんどですが、主人公ホールデンが尊敬する一部の先生たちは、10代後半の青年に対し、含蓄に富んだ言葉を贈っています。我々のように人生後半戦に入って初めてその意味するところが理解できるのでしょうが、10代後半の時点でそうした言葉を聞いておくだけでも人生にとって意味はあるのかもしれません。


大学生など主人公と同年代の青少年はもとより、私のように数十年ぶりに読み返そうかと考えている方にもおすすめしたい作品です。