サミュエル・ベケットの三部作の最後の作品『名づけられないもの』を読みました。
サミュエル・ベケット本人は『モロイ』、『マロウン死す』とこの作品を三部作と呼ばれることは嫌っていたそうですが、彼の文学的世界はこの3作品で頂点に達したと評価されているようです。
前の2作もかなり読みにくい作品でしたが、この『名づけられないもの』は、これまで経験したことのないほどの読みにくさでした。
かつて『ユリシーズ』を読んだ時、あまりの難解さに途中で挫折したことがありましたが、それとも全く異なる読みにくさです。
この作品は筆者、あるいは語り手が自分の頭に浮かんだことを延々と語っていくような内容で、物語にある筋書きのようなものは存在しません。
少し精神的に病んでいるような人物が、思いつくままに言葉として発したものを書き留めたようなものです。
したがって、数ページごとに語る内容が変化し、かつ、それらの前後に全くと言っていいほど脈絡がないため、読者としては、文字通り「字面を追っていく」ように読み進めていくしかありません。
ひたすら字面を追っていくことに徹するような受け身の読書スタイルに慣れてくれば、それほど苦痛を感じることはなくなるかもしれませんが、最後まで読み通すのはなかなか大変です。
ただ、「言葉の海」をひたすら漂っているかのような読書体験というのも、それはそれで面白かったような気もします。
頭を空っぽにして、時間も気にしないで、この独特の世界に浸ってみるのも悪くないと思います。