音楽偏遊 -15ページ目

音楽偏遊

最近見たライブや気になるアーティスト、気に入った店や場所など偏った嗜好で紹介してまいります。アーティストさんへの言及などは、あくまで私個人の見解であり、特に中傷や攻撃を意図したものではないこと、ご了解下さい。

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俳句コラボライブ「歌う俳句」@銀座BRB
出演: 蘭華  サポート:小早谷幸(ピアノ)、郭敏/Guo Min(揚琴=ヤンチン)
俳句講師: 薬師川摩耶子先生
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第2部は、ピアノとヤンチンの調べで始まった。そこに現れた蘭華の麗しいことといったら!そのチャイナドレス姿に、会場の中からため息がもれる。今夜はまた一段と艶やかだ。

4ヶ月ぶりの東京ライブ。注目の1曲目は、なんと意表をつく「あなた」。この曲は彼女が俳句を始める前から歌っていた、軽やかな恋愛ポップス。しかも、和でもオリエンタルでもなく、ボサノバ調。どっしりした近作を想像していたファンの力を抜くように、柔らかい。飲食や歓談していたお客さんの耳にすっと入り込む。

そして2曲目も数年前の明るくポップな作品「夢の途中」だ。歌手活動をするために上京してきたが、様々な壁にぶつかり、思うようにいかない日々。挫けそうになることも多かったろう蘭華が、自分自身を励ました応援歌。あの頃も今も、彼女にとって大切な歌だ。

音譜何度諦めかけたでしょう 沢山のもの犠牲にして それでも私はここにいる 夢は逃げないから 立ち止まればそこで終わるだけ 答えなどまだ見えなくても 私だけの道探すの どこまでも続いていくから 信じて 輝く明日を音譜

本日のお客さんの多くは句会関係者。蘭華のライブを見るのは始めてという人も多い。この軽やかな2曲は、そんな彼らの心をほぐすと共に、自己紹介でもあった気がする。

そして、ここから一気に、彼女の今を形作る曲たちへと移っていく。その枕に彼女は、昨年3月の大きな転機について語りだした。

大震災と父の死が相次ぎ訪れ、自分自身が落ち込んだこと。その中で大分にひとり残される母親への思いや、周囲からもらった優しい心使いのこと。そして、縁あって参加した東北各地での炊き出しボランティアでみた被災地の現実や自分の胸に去来した想い…

その一言、一言に、会話や飲食しながら蘭華の歌を聞いていた客席が、徐々に静まり、彼女の言葉に耳を傾けていくのがわかる。沢山のベクトルが、ステージの蘭華に収斂していくなかで、彼女は福島県の避難所の中心となった郡山市のビッグパレットを訪れた時の体験を語った。

真夏の陽炎が立ち昇るような暑い日に、駐車場に設けたテントで彼女らが被災者のための炊き出しをしていると、一人の老人が何時間もその周辺に水をまき続けてくらた。おかげで涼を取れた彼らが、撤収する際に声をかけると、それは市の職員とかではなく、被災者の方だった。「僕らにはこんな事でしか、感謝を伝えられないので」と。ふるさとに、いつ帰れるか分からないが、人への感謝の念をひとしお大切にする姿に感じるものがあったという。

その想いを曲にした。「あの街を離れて」だ。その明るい曲調に、蘭華が被災者の方々に、元気と希望を抱いて歩き続けようとメッセージを込めていた。歌い終えた彼女に、明らかに前の2曲と違う盛大な拍手が起こった。会場は、いよいよ彼女のワンマンらしい雰囲気を湛えはじめた。

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「絆が強かった昭和という時代。このアルバムを聴いて古き良き時代を思い出し、懐かしい気持ちになってほしい。そして大切な人を思い出してほしい」という蘭華にとって大切なものは「家族や応援している人、そして支えてくれている人」だという。

先月、読売新聞がWEBで蘭華へのインタビューを掲載。その中で最新アルバム 「昭和を詠う~大切なものへ~」について蘭華が語っていた言葉だ。
https://yorimo.yomiuri.co.jp/csa/Yrm0402_C/1221802672716

そんな昭和の思い出を蘇らせるような「黄昏のビギン」「蘇州夜曲」を力強く。中高年層の多いお客さんには当然馴染み深い曲たちで、一緒に口ずさむ方々も目に留まった。ここで、彼女はいったん楽屋に。

代わって日本の琴の原型のような揚琴(ヤンチン)の見事な独奏があり、美しくも激しい調べに酔いしれた。

その間に最終選評を終えた蘭華と薬師川先生が再び登場し、ミニ句会の結果を発表。先生が2句、蘭華が1句を読み上げ、その都度、客席からは歓喜の声がひろがった。賞品を授与する今夜の俳人らの顔は、嬉しげで楽しい時となった。

もちろん、僕は選外(笑)しかしながら、「選外にも素敵な作品がいくつか」、と蘭華がわざわざ読み上げてくれた。望外な幸せ。

俳句ライブの醍醐味?で盛り上がったところで、いよいよ今宵の成否さえ左右する大事な一曲を歌う時が…。そう、俳句に曲をつけて歌うのだ。

といっても、即興ではない。薬師川先生が句会の作品から候補を選び、蘭華が歌詞の並びやつながりなどを考慮して選びぬいた9句を、一曲の歌にしたもの。多くのお客さんが、もしや自分の句が歌われるのではないか、そんな期待感を抱き、息をつめて見守っている。

五七五という音律は、1000年以上前から日本人には馴染み深いもので、若手ミュージシャンのヒット曲でさえも歌詞を意識して五七五にして、覚えやすくしているものがある。おのずと俳句と歌は、親和性が高いはずなのだ。

ただ、全て作者が違う、題詠でも連歌でもない作品リストを前に、最初は一つの曲に何句も盛り込めないだろうと想像していたという。ところが、それは杞憂で、メロディに詩をのせていくと、いくつもの作品があたかも自らの定位置を知っているかのように、曲中にはまっていく。結果として、なんと9句も織り込むことができたそうだ。

蘭華が唄ったその曲は、一つの作品として違和感なく、まさに連歌のように言葉が連なった。巧みにオリジナルの歌詞で繋ぎ、韻を踏み、大きなメッセージを込めたさびで多様なベクトルを持っていた9句を一つの方向に収斂させた、蘭華の才能を強く感じる作品に仕上がった。

そんな歌詞を、美しい高音と見かけ以上に強い発声で、感動的に歌い上げた。さびでは確か、音譜なぜ人はみな生まれ 消え行くの 生きている今だけでも ぬくもりを感じて音譜と思いを込め、スケールの大きい歌詞の曲に昇華させたのだ。

俳句と歌謡、これまで試みられてこなかったというが、親和性は高いのも当然。俳句のルーツをたどれば、連歌にあるのだから。平安朝のころからあったという連歌は、発句に後の人々が次々と句を付けていき、結果として一遍の長大な歌になる。その作為の工程は、現代のソングライターが脳内でしている創意と変わることはないのではなかろうか。

今回はバラバラの句を集めて曲にしたが、次回は五七五七七の連歌ではなく、五七五を連ねる十連句を2チームが競作して、それを1番、2番とする歌を蘭華に歌ってもらうとかどうだろう(笑)伝統的な句会もいいが、新しい座を模索してみるのも「遊び」の醍醐味ではなかろうか。無責任に言ってしまいますが(笑)

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そしてライブは、ここから一気にクライマックスへ。

この1年、実は蘭華はライブの本数を絞っていた。先に書いたが大震災と最愛の父の死が相次ぎ昨年3月に訪れ、いろいろな思いを胸に歩いてきた。その間は創作などに励み、昨秋からはメディア露出を増やし、年末には海外華人文化社団という中国の財団?による海外在留の中華の才能や技芸を磨く研修に、中国政府から招聘されて参加するなど、一段上のステージへと踏み出し始めた。

その中で産み出されたのが、昭和歌謡のカバーCDであり、作曲家でもあるピアニストの村松崇継さんとの共作である「希望という花を」だった。その曲を収録したコンピレーションアルバム「Lovely Notes of Life」は昨年11月に発売されている。

ライブは昨夏に一度、言霊音楽スタジオに出演して以降、10月12日に東京では8ヶ月ぶりという調香師とのコラボライブがあり、続いて11月18日に開かれ村松崇継さんの渋谷・Hakujuホールコンサートにゲスト出演したくらい。ただどちらも出番の時間が短く、物足りなさが残った。昨10月には大阪のミナホに出演、今年2月4日の大分凱旋ワンマンでは、涙、涙の大きな感動に包まれたというが、どちらも行けなかった。だからこそ、この4ヶ月間、彼女のライブを待ち焦がれていたのだ。それに、がっつり蘭華を聞けるのは、それこそ昨年2月の代官山ライブ以来なのだから。

何より待望していたのは、彼女がその歌で紡ぎ出す感動だ。父母への感謝や強い愛情、命への敬意、そして自らの夢…。エモーショナルかもしれないが、そうしたテーマを雄大な情景の中に優しく描き出す彼女の歌に、癒されるのだ。ライブは、ここからラストまで、そんな曲が連なり大きな感動と満足感に浸してくれた。

まずは新曲「ゆれる月」。彼女には新古今和歌集を題材にした「花籠に月を入れて」という佳作がある。そんな日本の歴史的な文芸に想を深め作る曲の第2弾ともいえる新曲で、題材を求めたのは近松門左衛門の「曽根崎心中」ビックリマーク色恋の許されぬ遊女が、かなわぬ恋心を募らせる。そんな女の胸の内を美しく描き、切なさに胸を苦しくした。

そして今夜、最も感動した歌のひとつが、次に歌った「花時」だった。大分で初披露したという新曲だ。

蘭華には彼女の音楽に深い理解を示し、応援し続けてくれていた父親がいた。だが、彼女が親への想いを込めた曲としてまず作ったのが「maama」。母親への感謝に満ちた美しい曲で、父親もたいそうはその曲を気に入っていたという。「父さんにも曲を贈るから」と話していたが、彼は病に倒れ看病生活の末、昨春亡くなった。

身罷る1週間前、父へ贈る歌のAメロとサビがようやく出来あがり、もう話すこともできなくなった父親の枕元でその曲を歌うことができたという。それが「花時」の原形だ。まもなく桜が咲く。満開の桜を見るまでは生きていて、との願いを歌に込めた。

音譜あなたと交わした約束 何一つ果たしてない 桜の花あなたに見せたい どうかどうか叶えておくれ あなたの笑顔が見たい音譜 確かそんなAメロだった。

父の死後、Bメロを書き加えた。音譜夢を叶えていく姿 あなたに見ていて欲しかった もっともっと親孝行できたはずなのに 父の笑顔 愛しています あなたの娘でよかった音譜

その歌を聞いて、末期がんだった父親は安らかになれただろうと思う。昨年3月22日逝去。ライブ前々日に大分で1周忌の法要を努め、昨日東京に戻ってきたという。

MCでその経緯を話す彼女の目には涙があった。そして、その優しく情緒に訴える曲調に、聞いているこちらも思わず涙が出そうになる。周囲は初めて会う人ばかりなのだから、こらえず泣いてしまえば良かったな。こらえたのは、蘭華が頑張って歌っていたからかもしれない。

そして、続けて「maama」と「大切なものへ」。

「maama」はもともと感動的な曲だったが、「花時」が作られた背景を聞き、二つの曲を合わせて聞くことで、歌が深い意味を持って迫ってくる。つくづく、作品と作者は不可分なのだと思う。

そして、その2曲を包み込み、より普遍的な愛のメッセージを込めたのが「大切なものへ」。この歌は希望だ。

「大切なものへ」はPVがYouTubeで公開されているので、ぜひ聞いてほしい。

こちらから画面が切れてないPV見れますhttp://youtu.be/tOPSvD7Tpq0

音譜だから未来を捨てないで あなたを愛する人がいる音譜その言葉に、癒され、救われ、立ち上がる勇気を得る人も、蘭華のうたが広く知られるようになれば、きっと出てくるだろうと思う。

最後を締めくくったのは、まさに「希望という花を」。これはピアニストの村松氏が作曲し、彼のリクエストで被災者へのメッセージを込めた詩を蘭華がつけた。

音譜この地に愛の花を咲かそう 希望という花をまた咲かせたい いつか必ずあなたの夢がかなう日がくる きっと来るから音譜

目頭がじわっと熱くなった。心が真っ白に、ピュアになった気がした。それは、この日、この会場に集まった皆が共有する感覚だったことだろう。僕のテーブルには蘭華を始めてみるというお客さんが何人かいたが、感極まっていた。「なんて素敵なの」と感嘆の声も聞かれた。

歌い終えた蘭華が深々と頭を下げて、感謝の言葉を述べて、すそに下がると、大きなアンコールの拍手が続いた。


リクエストに応えて再びステージに現れた蘭華が歌ったのは、あの「草原情歌」。

揚琴の悲哀に満ちた調べが、中国の草原の風を呼び起こすように空気を震わすと、細く美しい声が天から降りてきて響きわたる。中国語で歌われるAメロの意味を分かる客は多くなかったろう。だけれど、記憶の奥底の何かが呼び覚まされる。その切なさといったら。(二胡バージョンはこちらhttp://youtu.be/du3BCp1UgoE

大きな余韻を残し、幕となった蘭華の俳句ライブ。美しいものを体験したなあ、と感慨深し。

印象強く感じたのは、言葉の持つ美しさだ。大切に丁寧に紡いだ言葉は、伝わるのだ。それが五七五の17文字だけだとすれば、なおさら一言ひとことに気を配る必要がある。世上は言葉遣いの乱れを指摘する声が溢れているが、つくづく、この言葉の美しさを取り戻してもらいたいと思う。蘭華の歌には、そんな力もある気がする。

次のライブ、決まってないようだが、早く開いて欲しい限り。楽しみに待っていよう。


蘭華のホームページはこちら
http://www.rankaweb.com/index.html


<第一部 ミニ句会>
蘭華+薬師川先生のトークセッション「俳句とは」
来場者の作句タイム
 お題は「蘭華」「さくら」「銀座」だったかな?

<第2部 蘭華ワンマン>
1)あなた
2)夢の途中
3)あの街を離れて
4)黄昏のビギン
5)蘇州夜曲
~~~~ヤンチン独奏~~~
~~~~俳句表彰~~~~
6)俳句コラボ曲
7)ゆれる月(new)
8)花時(new)
9)maama
10)大切なものへ
11)希望という花を
en. 草原情歌





 
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俳句コラボライブ「歌う俳句」@銀座BRB
出演: 蘭華  サポート:小早谷幸(ピアノ)、郭敏/Guo Min(揚琴=ヤンチン)
俳句講師: 薬師川摩耶子先生
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日本が世界に誇る最短詩文学、俳句。そしてポップス。この2つを縦糸と横糸にし、どんな雅を織り出せるだろうか。

そんな試みに挑んだのが、中国と日本という2つのルーツを持ち、「日中友好の架け橋になるために、音楽を作り続ける」と活動しているオリエンタルなシンガーソングライター、蘭華だ。

果たしてその試みは、文化的で知的な刺激に満ち、参加者の誰もが暖かい感動に包まれた。そして何より、強い印象を残したのはやはり蘭華だった。ミニ句会で俳句の世界へ誘った第1部では知性と柔らかな人当たりで共感を呼び、第2部のライブで、四季の歳時記で綴られる俳句の精神を、彩り豊かに美しい声で歌い上げたその才能と情熱に誰もが酔いしれた。桜ほころぶ春宵の銀座の一夜は記憶に残る集いとなった。

また同時に、会の狙いでもあった俳句の現代的な可能性や、親しみやすさを知らしめる事にも成功したといえるだろう。

§ § § § §

俳句。五七五のわずか17音律だけで、3、4の単語と接続詞などで、鮮烈なイメージや感情を紡ぎ出す俳句は、詩歌の究極の形といわれる。世界を描き出すその洗練と美意識の高さは、他言語の文学が及ばぬ日本の誇るべき宝だ。

その俳句とライブを組み合わせるこの企画が実現したきっかけは、ソングライターである蘭華の作詞への求道にあった。2年余り前の事だ。

当時、彼女は「歌詞の表現が単純、単調過ぎる」と関係者らに指摘されていた。彼女の両親は中国人だが、祖父母の代に日本に移り住んだ、いわば3世。九州で生まれ育ち、日本で学校教育を受けてきた蘭華の日本語能力は、決して同世代の日本人に劣っているわけではない。それどころか、詩情あふれる素敵な感性の持ち主で、その言葉づかいは素敵だと思う。

ただ、プロの歌手を目指して上京したが、もう一つ上のレベルへ昇れずもがいていた彼女は、もっと日本語の語彙や表現力を身に着け、作詞力を磨く必要を感じていた。その頃歌っていたのは、ヒット曲のカバーや、軽やかな恋愛ソング。無数の歌手の卵たちのなかにあって、抜け出すには何かが足りなかったのだろう。

思い悩み、自分自身が歌う意味を問い質す過程で彼女がたどり着いた原点が、幼き自分に母親が繰り返し歌ってくれた中国民謡「草原情歌」だったという。この歌をあらためて中国語でうたった時に彼女は何を思ったのだろうか。

一昨年、初めて見た彼女のライブで、初めてこの「草原情歌」を聞き、僕は涙を流した。美しく高く響く美声と二胡の音色が絡み合う。はるか地平線まで広がる緑の草原の情景に、子どもたちを慈しみ朗らかに歌う母親の姿が浮かぶ。その愛情は深く、その調べは悠久の時の流れさえ感じさせた。蘭華自身も、この歌の世界に入り込み、感極まっている姿は感動的だった。

自らのルーツ、「中国」へ思いを募らせるほどに、もう一つの彼女のルーツである「日本」への憧憬も一層深くなったのだろう。和の心に寄り添うこと、それが僕が彼女を知ったころの彼女のテーマであるようだった。

作詞力を磨く。同時に、日本文化をより深く知る。その道を探し彼女がたどり着いた答えが、短歌であり、俳句であったのは自然な流れだ。そして、より少ない字数で、その中に四季の自然を織り込み、世界を描ききる俳句を学びたいと考えたという。

そこからの行動力はさすが。ネットで調べ、楠本憲吉先生の高弟で俳歴60年という薬師川先生を探しだし、一人で訪れ浅草の句会に入門してしまったのだから。以来、彼女は定例の句会に積極的に参加し、自分の世界を広げている。ブログで紹介している句会の様子はとても楽しげなのだ。

もちろん、いずこの句会も、参加者は年配の方々が多い。その中に蘭華のようにまっすぐに人と接することができるキラキラした若い女性が現れれば、みなから大切にされよう。そして感受性豊かな彼女を知れば、きっと彼女のファンになる。中国と日本という二つの原点へ音楽を通じ迫るそのライブは、人の機微や自然の美しさに心を開いた俳人たちに、面白がられるに決まってる。

そして、薬師川先生と蘭華の間で「いつか俳句ライブを」という話になった。慶応大出身国文学者、薬師川先生は浅草の他にもう一つ、慶応OBOGの交友クラブ「銀座BRB」でも句会を開いている。縁がつながり、話は熟し、ついに今夜、「俳句ライブ」がその銀座RBRで実現したのだ。

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「歌う俳句」は、美しい小紋?の着物をまとった蘭華と薬師川摩耶子先生の2人がステージ(段差はないが)に置かれた椅子に腰掛け、始まった。特に紅梅のような色合いの蘭華の着物姿は、品と華が共存していて凛としていた。先生の着物は藤色だったかな?すいません、思い出せません(笑)

慶応のOBOGの交流クラブだけあり、100人は着席で入る会場は落ち着いたたたずまい。見事に満席となったこの会場で、紳士淑女が楽しげに歓談して開演を待っていた。まずは薬師川先生によるスライドを使った俳句入門講座で、初心者だった蘭華の体験談などを交えつつ、時に笑いも起こり、暖かい雰囲気で進む。

「俳句の基本は季語を必ず入れることと言いますが、私がついた先生は季語にこだわらぬ流派でした」など、先生も自身の句歴を語りながら、さりげなく現代俳句の実相を垣間見せてくれる。改めて学ぶことも多い。

そして、句会の説明に。予め提出した句を選する会なのだが、諸々の説明を僕なりに簡単に略すと、これは楽しい「遊び」なのだと思った。その遊びこそが第1部のハイライトに。お客さん全員が参加した簡易なミニ句会だ。

今夜は、通常の句会とは違う形態で、先生から3つのお題が出され、その何れかの言葉を盛り込んだ句を、配られた短冊に書いて、提出するという題詠に。特選に選ばれれば、蘭華から賞品もある。お客さんは、句会繋がりで来られた方も多く皆さん積極的で、次々と先生の元に自句を提出していく。

お題は確か「さくら」「銀座」「蘭華」の3つ。

色々考え、蘭華への相聞のつもりで(笑)、僕も一句提出ダウン


海渡る  東風にはばたけ  春蘭の夢


はい、短時間で作ったので色々稚拙です。夢は羽ばたかないし、季語がダブってる。それにお題の言葉が入ってませんよ、と薬師川先生にご注意されました。お粗末です。

でも、いいんです。蘭華への気持ちをこの言葉で表したかった。

「春蘭」は勿論、これから「夏」を迎えるだろう蘭華のこと。すらりと美しく、華やかだが儚げ。シュンランに彼女のイメージを重ねました。

そして東風(こち)にこだわった。世界の東のはての日本から、東からの風にのって中国へ、世界へと羽ばたけ、という想いを込めて。こちは春の季語。自分で自句を解説するなんて無粋なことですが(笑)

さて選の結果やいかに?それは第2部の蘭華ワンマンの中で明らかに。

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「すぎえのラブレター2通目~ホワイトデーも近いことじゃし!」@高田馬場Cafe mono
出演:oa工藤昌之 →篠原佳奈子from The Characters →中前伶音 →杉恵ゆりか
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春の日差しでにわかに気温が上がったこの日、杉恵ゆりかプレゼンツ「二通目のラブレター」、行ってきました。

場所は高田馬場にある、こじんまりしたLive Cafe mono。ステージから全てのお客さんの顔が分かる近さと狭さが逆に魅力といる箱。そこに今夜はなんとmax80人のお客さんが詰め掛け、席はぎゅうぎゅう、立ち見もゾロゾロ。おのずと室内は熱気ムンムンの満員御礼状態。もう、それだけで企画は成功したようなもの。さらにこの日の出演者4組が皆、まっすぐで上手いPOPSうたいばかりで、最初から最後まで楽しいイベントでした。

それもひとえに杉恵ゆりかが、小っちゃい体だけど、おっきな人間的魅力とその音楽で、人を惹きつけているからに他ならないのだな。アンコールが終わった後に、素直にそう思えた愛のある一夜だった。

イベントのトップを飾ったのが、本日唯一の男性、工藤昌之くん。まだ20歳だって。若けーなー。しかし、だからといってボーカリストとして未熟かといったら、そんなことはない。若さはあるけど、歌はうまいし、いい声を出すんだ。見た目はそこらの何も考えてない学生風なんだが、歌声は優しく、高音まできれいに割れたり、ひっくり返ったりすることなく響かせられるなかなかの実力。彼は結構、将来が楽しみな歌い手だった。

オープニングアクトを彼が努めている間に、お客さんの数も続々と増え、この時点で後方は立ち見客がずらり。転換中に前の方の空席をいくつか、それらの客が埋めたが、それでも最後まで立ち見がいなくなることはなく、終盤にかけて数は増えるばかりだった。

工藤くんのステージが終わったところで、杉恵ゆりかが登場し挨拶。ほんと、かわいい。そこでせっかく素敵な出演者が揃ったのだからと、まずは4人でセッション。出演者を順番に呼び込むが、3人が並ぶと大中小。それぞれが違う存在感を滲ませている。

セッション曲は福耳「星のかけらを探しに行こう」。おいらが大好きな名曲で、すっかりテンション上がりまくり。しかも、佳奈子も伶音も工藤くんに劣らずというかそれ以上に、いい声で歌うねー。本編の予告編としては、期待感を十分盛り上げる効果大。会場もかなり盛り上がり、いい空気に満ちていた。


メインの歌姫3人の先頭をきって登場したのが、篠原佳奈子。The Charactersではステージを見たことあるが、彼女のソロは初めて。まずは、一人でギター弾き語りで2曲。「猫じゃらし」と昨年イギリスに留学した大親友のために作ったという新曲「キャンバス」。声がいい。張りがあって、明るくて、洋楽っぽいテイストもある。王道のポップスを歌うのに正しい声があるとすれば、こんな声かもと思わせる。

この日のステージのテーマは「伝える」こととのこと。1曲1曲、フレーズごとに大切に、今目の前にいるお客さんに伝えたいと力。確かに、まっすぐな歌いっぷりに、想いが伝わってくる。

3曲目からはバンドがサポート。The Charactersのベーシスト佐川大志に、パーカッション松野祐太、アコースティックギターJOJO?の3人が入り、佳奈子はハンドマイクに。そこからはアップテンポにお客さんを楽しませる。定番の「何度でも君に恋をする」から、なんと先日見たライブで刺激を受けたと久保田利伸という展開。この久保田がなかなかダンサブルで、グルーブも出ていて、やるなあ。

さらに、その後に歌った「holiday」がまたブラックな感じで、Quincy Jonesを思い浮かべてしまった。こういうテイストの曲は似合っている。

そして、仲良しの杉恵を呼び込み、彼女のキーボードで「transparence」をしっとりと、これまたホイットニー・ヒューストンのようなノリで、歌い上げる。声に力があり、音がしっかりしているから、バラードも聴き応えある。

最後はソロのギター弾き語りで、自分のバースデーイベントのために数年前に作ったという「旅路」を、今夜は4日前に誕生日を迎えた杉恵のために、大切に。うーん、いいねえ。

【セットリスト】
1)猫じゃらし
2)キャンバス
3)何度でも君に恋をする
4)la la la love song (久保田利伸カバー)
5)holiday
6)transparence
7)旅路


続いて登場したのが中前伶音。

パーカッションに加瀬友美、キーボードに藤澤有沙の女性2人を従えて、まずはリオンちゃんはハンドマイクで。これがいい。自由に歌えるからか、彼女の天性のすばらしい声がのびのびと広がっていく。彼女の魅力は、きれいな発声からよく通る声だね。

最初はそうでもなかったが、2曲目のシャインニングガールのキャッチーなメロディラインを歌っている辺りから、ぐいぐい魅力的になってきた。古くて皆知らないかもしれないが、昔大好きだった須藤薫という素敵なポップシンガーを思い出した。須藤薫がそうだが、中前伶音の歌からも、楽しさがあふれてくる。

余談だが、僕のオススメの須藤薫の曲は「RAINY DAY HELLO」と「涙のステップ」。懐かしき1970~80年代のポップス黄金期を彩ってた歌い手の一人だ。佐野元春、大瀧詠一、杉真理、門あさ美とか結構好きだったなあ。

閑話休題。リオンちゃんのステージ、3曲目に歌ったミュージカルのような「僕たちのユートピア」に、がつーんとやられた。すらっとした姿態で、腹の底から空に抜けるような声を響かせ、歌うほどにスケールが大きくなっていく。これは素晴らしい。彼女ならミュージカル女優にもなれるのではないか。

音譜I found my way yesterday,you find your way yesterday~音譜というサビがまた格好良い。

続いてバラード「最高ハニー」をぐっと抑えた歌い出しで、そこからじわじわとドラマを作っていく。今夜の彼女のステージでは、この曲が一番ぐっときた。

最後の3曲はピアノ弾き語り。彼女のオリジナルなプレイスタイルなのだが、ハンドマイクで歌った前半の方が個人的にはすごく良かった。演奏しないで歌だけに集中できるから、やはり声の伸びとかが全然違ってくる。彼女がまたハンドマイクで歌うときがあったら、ぜひ聞きたいな。

【セットリスト】
1)Fly me to you
2)Shining Girl
3)僕たちのユートピア
4)最高ハニー
------key弾き語りsolo-------
5)片恋
6)インフルエンザ
7)From Now On
 

トリは当然、杉恵ゆりか。

キーボード弾き語りで、サポートはいつものイケメンベーシスト西塚真吾に、パーカッション&コーラスの彼女(名前失念すまん)。3人で作り出す音は、どこか親しみやすく、すっと心に入ってくる。それは、メロディーメーカーとして卓越したセンスをじわじわ発揮しつつある、杉恵ゆりかならではの魅力なのだ。

初めて聞く人は、杉恵はアニソン系なのかと先入観を持ちかねない、かわいい声をしている。また、彼女のポップな楽曲たちは、アイドル系とも思える軽妙さを持っている。しかし、しっかり彼女のステージを見ていると、そんな作られた歌手ではない。しっかり地に足がついたシンガーソングライターで、そのポップスの音楽性の高さや深さを思い知る。特にバラード系が絶品なんだよね。

今夜は自らの企画ライブであり、しかも会場を埋め尽くすお客さんの暖かい声援を受けて、いつにもまして力が入っている様子。1曲目の「ふゆ唄」から、熱唱で一気にステージを盛り上げていく。

バラードとアッパーな曲をうまく交えたセットリストがいい。しっとり聞かせたら、ぱあーっと盛り上げて、ステージの中に変化をつけていく。確かに彼女の声質は、どの曲でも似てしまいがちなのだが、「あなたはあたしに嘘をつく」みたいな曲で、心を揺さぶっておいて、明るく「ていたらくSexy Lady」でアゲアゲにする。そのが絶妙。

しかも、そのアッパーな曲が楽しいんだ。

【セットリスト】
1)ふゆ唄
2)お好きにどうぞ
3)あなたはあたしに嘘をつく
4)早く会いたい?
5)なんてね。
6)ていたらくSexy Lady
7)会いたくて
8)風になりたい
en1)花びらのラブレター
en2)ユメに、キミに(出演者全員で)

アンコールは企画のタイトルにもなっている、彼女の代表曲「花びらのラブレター」。この明るく始まりながら、サビにかけてきゅんと切なくなるメロディと歌詞は、なかなか書けるものではない。才能ある。

最後は、出演者全員で杉恵ゆりかのもう一つの代表曲といえる「ユメに、キミに」。みんな上手くて、聞かせる。個人的には工藤くんの声が結構気に入ったなあ。

いやいや、楽しいイベントでした。杉恵ちゃん、改めてお誕生日おめでとう!な夜でした。