2012/3/24 蘭華 俳句ライブ その1@銀座BRB | 音楽偏遊

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俳句コラボライブ「歌う俳句」@銀座BRB
出演: 蘭華  サポート:小早谷幸(ピアノ)、郭敏/Guo Min(揚琴=ヤンチン)
俳句講師: 薬師川摩耶子先生
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日本が世界に誇る最短詩文学、俳句。そしてポップス。この2つを縦糸と横糸にし、どんな雅を織り出せるだろうか。

そんな試みに挑んだのが、中国と日本という2つのルーツを持ち、「日中友好の架け橋になるために、音楽を作り続ける」と活動しているオリエンタルなシンガーソングライター、蘭華だ。

果たしてその試みは、文化的で知的な刺激に満ち、参加者の誰もが暖かい感動に包まれた。そして何より、強い印象を残したのはやはり蘭華だった。ミニ句会で俳句の世界へ誘った第1部では知性と柔らかな人当たりで共感を呼び、第2部のライブで、四季の歳時記で綴られる俳句の精神を、彩り豊かに美しい声で歌い上げたその才能と情熱に誰もが酔いしれた。桜ほころぶ春宵の銀座の一夜は記憶に残る集いとなった。

また同時に、会の狙いでもあった俳句の現代的な可能性や、親しみやすさを知らしめる事にも成功したといえるだろう。

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俳句。五七五のわずか17音律だけで、3、4の単語と接続詞などで、鮮烈なイメージや感情を紡ぎ出す俳句は、詩歌の究極の形といわれる。世界を描き出すその洗練と美意識の高さは、他言語の文学が及ばぬ日本の誇るべき宝だ。

その俳句とライブを組み合わせるこの企画が実現したきっかけは、ソングライターである蘭華の作詞への求道にあった。2年余り前の事だ。

当時、彼女は「歌詞の表現が単純、単調過ぎる」と関係者らに指摘されていた。彼女の両親は中国人だが、祖父母の代に日本に移り住んだ、いわば3世。九州で生まれ育ち、日本で学校教育を受けてきた蘭華の日本語能力は、決して同世代の日本人に劣っているわけではない。それどころか、詩情あふれる素敵な感性の持ち主で、その言葉づかいは素敵だと思う。

ただ、プロの歌手を目指して上京したが、もう一つ上のレベルへ昇れずもがいていた彼女は、もっと日本語の語彙や表現力を身に着け、作詞力を磨く必要を感じていた。その頃歌っていたのは、ヒット曲のカバーや、軽やかな恋愛ソング。無数の歌手の卵たちのなかにあって、抜け出すには何かが足りなかったのだろう。

思い悩み、自分自身が歌う意味を問い質す過程で彼女がたどり着いた原点が、幼き自分に母親が繰り返し歌ってくれた中国民謡「草原情歌」だったという。この歌をあらためて中国語でうたった時に彼女は何を思ったのだろうか。

一昨年、初めて見た彼女のライブで、初めてこの「草原情歌」を聞き、僕は涙を流した。美しく高く響く美声と二胡の音色が絡み合う。はるか地平線まで広がる緑の草原の情景に、子どもたちを慈しみ朗らかに歌う母親の姿が浮かぶ。その愛情は深く、その調べは悠久の時の流れさえ感じさせた。蘭華自身も、この歌の世界に入り込み、感極まっている姿は感動的だった。

自らのルーツ、「中国」へ思いを募らせるほどに、もう一つの彼女のルーツである「日本」への憧憬も一層深くなったのだろう。和の心に寄り添うこと、それが僕が彼女を知ったころの彼女のテーマであるようだった。

作詞力を磨く。同時に、日本文化をより深く知る。その道を探し彼女がたどり着いた答えが、短歌であり、俳句であったのは自然な流れだ。そして、より少ない字数で、その中に四季の自然を織り込み、世界を描ききる俳句を学びたいと考えたという。

そこからの行動力はさすが。ネットで調べ、楠本憲吉先生の高弟で俳歴60年という薬師川先生を探しだし、一人で訪れ浅草の句会に入門してしまったのだから。以来、彼女は定例の句会に積極的に参加し、自分の世界を広げている。ブログで紹介している句会の様子はとても楽しげなのだ。

もちろん、いずこの句会も、参加者は年配の方々が多い。その中に蘭華のようにまっすぐに人と接することができるキラキラした若い女性が現れれば、みなから大切にされよう。そして感受性豊かな彼女を知れば、きっと彼女のファンになる。中国と日本という二つの原点へ音楽を通じ迫るそのライブは、人の機微や自然の美しさに心を開いた俳人たちに、面白がられるに決まってる。

そして、薬師川先生と蘭華の間で「いつか俳句ライブを」という話になった。慶応大出身国文学者、薬師川先生は浅草の他にもう一つ、慶応OBOGの交友クラブ「銀座BRB」でも句会を開いている。縁がつながり、話は熟し、ついに今夜、「俳句ライブ」がその銀座RBRで実現したのだ。

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「歌う俳句」は、美しい小紋?の着物をまとった蘭華と薬師川摩耶子先生の2人がステージ(段差はないが)に置かれた椅子に腰掛け、始まった。特に紅梅のような色合いの蘭華の着物姿は、品と華が共存していて凛としていた。先生の着物は藤色だったかな?すいません、思い出せません(笑)

慶応のOBOGの交流クラブだけあり、100人は着席で入る会場は落ち着いたたたずまい。見事に満席となったこの会場で、紳士淑女が楽しげに歓談して開演を待っていた。まずは薬師川先生によるスライドを使った俳句入門講座で、初心者だった蘭華の体験談などを交えつつ、時に笑いも起こり、暖かい雰囲気で進む。

「俳句の基本は季語を必ず入れることと言いますが、私がついた先生は季語にこだわらぬ流派でした」など、先生も自身の句歴を語りながら、さりげなく現代俳句の実相を垣間見せてくれる。改めて学ぶことも多い。

そして、句会の説明に。予め提出した句を選する会なのだが、諸々の説明を僕なりに簡単に略すと、これは楽しい「遊び」なのだと思った。その遊びこそが第1部のハイライトに。お客さん全員が参加した簡易なミニ句会だ。

今夜は、通常の句会とは違う形態で、先生から3つのお題が出され、その何れかの言葉を盛り込んだ句を、配られた短冊に書いて、提出するという題詠に。特選に選ばれれば、蘭華から賞品もある。お客さんは、句会繋がりで来られた方も多く皆さん積極的で、次々と先生の元に自句を提出していく。

お題は確か「さくら」「銀座」「蘭華」の3つ。

色々考え、蘭華への相聞のつもりで(笑)、僕も一句提出ダウン


海渡る  東風にはばたけ  春蘭の夢


はい、短時間で作ったので色々稚拙です。夢は羽ばたかないし、季語がダブってる。それにお題の言葉が入ってませんよ、と薬師川先生にご注意されました。お粗末です。

でも、いいんです。蘭華への気持ちをこの言葉で表したかった。

「春蘭」は勿論、これから「夏」を迎えるだろう蘭華のこと。すらりと美しく、華やかだが儚げ。シュンランに彼女のイメージを重ねました。

そして東風(こち)にこだわった。世界の東のはての日本から、東からの風にのって中国へ、世界へと羽ばたけ、という想いを込めて。こちは春の季語。自分で自句を解説するなんて無粋なことですが(笑)

さて選の結果やいかに?それは第2部の蘭華ワンマンの中で明らかに。