そんな「野望」(by本人)を声を大にして訴え続け、最高の笑顔と思いっきりの元気、そして感動的な歌の数々で、この数年間のライブシーンを盛り上げてきた女性シンガーソングライターがこの日、音楽活動から身を退いた。
廻田彩夏。
開演時間ちょうどにたどり着いた恵比寿天窓スイッチは、まだ入りきらない人の行列が階段の上まで伸びていた。中に入れば、彼女のラストステージを一目見ようと押し寄せた100人を超すだろうファンや友人らで、最前列以外の椅子を全て取り払った会場を埋め尽くしていた。聞こえてくる会話から、みなが様々な想いを抱いて彼女の登場を待ち望んでいる様子が伝わってきた。
少々押して始まったそのライブは、とても楽しく、時に初恋のような甘さにドキドキし、時に青春の勢いに学生時代を思い起こさせ、旅立ちの夢と希望があり、大人への階段に戸惑う緊張感が漂い、そして最後は涙溢れる感動に満ちるという、熱いドラマだった。こういう風に心を震わせてくれるアーティストは、僕も多くのアーティストを聞いているが、めったにいない。ファンの1人として今、彼女の「卒業」が惜しくて寂しくて堪らない。今日のブログはちょっとウエットだよ。
先に書いてしまえば、ライブ後の出口のシーンも印象的だった。一人ひとりに丁寧に挨拶するマワリーに、ファンは口々に感謝の言葉を述べ、その引退を惜しみ、彼女の「野望第2章」への応援の言葉を贈っていた。友人らも彼女を称え、明るく励ましていた。誰もが彼女のフレンドリーさに、魅せられていたのだと思う。
少し時間巻き戻して、ライブの印象を記したい。まず冒頭、いかにもマワリーらしいハプニングで始まり、本人もみんなも笑いで始まった。
流れていた音楽が止まり、暗転したステージにマワリーバンドの面々と彼女自身が登場。映像が流れる中で伴奏が始まり、暗いステージにライトが当たると、満面の笑みでピアノを弾くマワリーが現れる………はずだったのだろう。ところが、いつまでたっても映写機が稼働しない(笑)ざわつく会場。
そのまま数分、スイッチのスタッフも試行錯誤していたのだが、「えーい、やっちゃえー」とマワリーが、そんな事件を吹き飛ばす元気さで歌い始めてしまった。結局、映像は見れぬままで、何が映っていたのかな?
しかし、歌い始めたら、もうマワリーのペース。いつものように快活明朗に「カシグレ」で一気に会場を明るくエキサイティングな空間に変えた。思えば僕が彼女を初めてみて惹かれたのも、この「カシグレ」だった。
そこからは、たたみかけるようなドラマだった。
セットリスト
1)カシグレ
2)ひとりぼっちでワルツ
3)Sweetie
4)買い物袋とあたしの右手 (cho. 洋美)
5)さくらの下
6)月
7)I'm still the moon
8)Love Story (cho.杉恵ゆりか)
9)星降る夜に
10)夢鳥
11)トウェンティ・ハーツ (cho.中山由衣)
~休憩~
~マワリーバンドによるインスト(ハートノランプ/Everlasting Love)~
12)20日のかなしばり
13)カプチーノ探し (cho.飯田舞)
14)I'm with you
15)私は今日も絵を描いて
16)キンモクセイ (cho.木下直子)
17)チャルラララ
18)Piglet
19)地球の迷子
en.1)イチバン
en.2)The Colored Rainbow
聴き惚れていて書き留め忘れた曲もあったので、このセットリストで間違いないかやや自信ないけど(曲名も一部不確か)、こんな感じでほぼ2時間半の熱唱だった。(追記:後からマワリー自身がブログでセットリスト含め書いていましたが、間違ってなかった)
彼女の伸びやかで元気な声、意外にも(笑)切なささえ表現する歌唱力、はじけるようなピアノ、ここぞという時に決めるポーズやウインク、どれもとってもチャーミング。さらに最も僕が好きなのが、そのポジティブな感受性の豊かさ。そしてみんな彼女の期待に応えたくなり、客席もすごい一体感に包まれるのだ(笑)
特に終盤の「チャルラララ」。Bメロで皆が「パート2」と掛け声を上げるところがあり、「皆が大きな声出すまで止められないよー」と何度も客席に練習させる。そして恥やてらいを捨て去って、みんなが参加できるようになった時に、彼女の歌に合わせて歌う快感。彼女のライブで、これまで何度、チャルラララのパート2を一緒に歌ってきたことか。チャルラリーメリクリや最強レディースなどいくつものライブを回想してしまい、感極まった。
彼女は勿論、その歌だけでも十分に魅力的なアーティストなのだが、それに加えてこれだけのファンや友人に応援されている理由は、彼女が野望へひたむきに邁進する姿が感動的だったからだと思う。
彼女がその途方もない「野望」を抱くきっかけは7年前のイラク戦争だったそうだ。その不条理に怒りを抱き、神奈川の地方都市で始めた反戦運動。当時、16歳の女子高生ひとりの呼び掛けが大きな波になるわけもなく、彼女は挫折した。でもそこで終わらなかったのがマワリーだ。
改めて自分にできることを問い直す中で、「音楽に国境はないはず。自分の音楽を通じ、1人ひとりを笑顔にできれば、その1人の友人・家族らへと笑顔の輪が広がる。やがて世界へその連鎖が広がれば、世界から戦争を無くせるはず」と思いつき、歌い始めたのだ。
それから少しずつ活動エリアを広げ、都内のライブハウスに出没し始めた。CD販売の収益を寄付したり、チャリティーイベントなどにも精力的に出演してきた。
一方でピース・ウィンズ・ジャパンというNGOに参加。音楽親善大使という肩書きを背負って世界各地の貧困地帯へ赴き、ボランティア活動に従事。その先々でも鍵盤さえあれば歌って、希望を抱けぬ子ども達を励まし、笑顔の大切さを伝え、メキシコやアジアの底辺から笑顔の連鎖を巻き起こす活動に力を注いできた。
その当初から歌い継いできたのが「The Colored Rainbow」という今回も、そして過去の大多数のライブでもラストを飾ってきた曲だ。本人のいう「野望」=大志を抱き始めた高校時代に書いたというその曲の詩は、彼女が抱いた強い強い平和への希求に満ちている。



世界中にかける虹を彩ろう
ここに今、確かにある夢と希望、いつかかないますように
私、明日もきっと笑うんだろうな
こんな幸せ誰にでもあるわけじゃない

そんな想いを抱き、並の大学生には考えられぬ程の行動力で世界を巡り、国内外で活発に音楽活動をしてきた彼女の周りには次々と人が集まった。ひたすら前を向いて進んでいくエネルギーに、みな感化されたのだ。マワリーバンドという、実は廻田彩夏自身はメンバーでないバンドをその友人たちが組み、活動を続けているのも、「マワリー」という言葉が何か希望のシンボルのように響いているからだろう。
マワリーへの共感は音楽仲間にも広がっていた。彼女の最後のライブを一緒に盛り上げたいと何人もの女性アーティストたちが駆けつけた。洋美、杉恵ゆりか、中山由衣、飯田舞、木下直子。それぞれが現在ライブシーンで活躍しているシンガー達だが、彼女の歌に単にコーラスとして友情出演した。いかに彼女がみなに愛されていた存在だったか。
特に木下直子さんがコーラスをつけたキンモクセイには鳥肌がたった。直子さんも大好きだったと話す廻田彩夏の代表曲で、彼女が一人で歌っても感動の名曲なのだ。そこに木下直子の素晴らしい低音の響きが加わることで、恐ろしくアーティスティックな音楽に。これはやばかった。マワリーは勿論素晴らしいのだが、木下直子の音楽センスと実力のすごさを、あの短いコーラスで改めて印象付けた。
この1曲を聴くためだけでも、このラストワンマンの模様を収録した映像DVDを購入する価値はあると思う。あ、発売するそうですよ、聞き逃した皆様。発売期間限定なのでお早めに。
アンコールの一発目に歌った「イチバン」は僕がもっと好きな曲のひとつ。YOKOHAMA HOODという神奈川県ナンバーワン・ラブソングに選ばれたこの曲を聴くと、あまりの切なさにこみ上げるものがある。マワリーも残された自分の歌手活動を想い、時折、こみ上げる涙を止められない様子。それでも素敵な笑顔で誠心誠意、思いを込めて最後まで歌い上げた。
そして、本当に本当の最後はやはり「The Colored Rainbow」。

生きる喜び感じていま 手をつないで
歌を 愛の歌を YEAH
好きな色になって YEAH
世界中にかける虹を彩ろう

音楽活動のすべてをここに出し切って、終えた彼女を讃える拍手は、それはそれは大きかった。
廻田彩夏が、春一番のように暖かく吹き抜けていった。
そして、彼女の野望第2章がここから始まる。
「ビジネスのスキームを活用し、貧困を撲滅し世界に平和を」
大学卒業後の進路をそう定めた彼女が選んだ第一歩は、まず商社で国際貿易と経済の実態を知ること。
その大それた野望wも、彼女なら何とかしそうに思える。おおいに期待を抱かせる彼女のこれからも、チャンスがあるなら応援していきたいと思う。