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イタリア語の tedesco は日本語の「ドイツ」と語源が同じだと分かりびっくり( ゚Д゚)
(今日の話は語学マニア向けですので、ご容赦ください)
先日、ロシア語の語源の話をしましたが、その中で話が少し脱線して、ドイツの呼び方が各言語でバラツキが大きくて 草 という話をしました
もし、興味がありましたらお読みください
「ロシア」の語源を調べたてたらフィンランド語のぶっ飛びぶりに気を取られ話が入ってこなかった
これは、「ドイツ」という国の呼び方が各国語でバラツキがあるという話でしたが、実は、同じ言語なのに、イタリア語では「ドイツ」という国名は「Germania」であるのに、「ドイツ語」「ドイツ人」は「tedesco」「tedesca」と、これまたおかしなバリエーションとなっているのです
で、「tedesco」の語源を調べてみたのですが、その結果、思わぬ形で新しい発見があったので、今日はそれについてみなさんに共有させていただこうと思います
まあ、ご存じの方も多いのかもしれませんし、既にご存知の方にとってはつまらない記事になると思いますので、その場合はどうぞスルーしてください
まず、話を整理すると・・・
イタリア語の話ですが、「ドイツ」という国はGermania(ジェルマーニャ)です
それに対して、その国の国民や言語を表す言葉といえば、ちょっとそれに似た言葉だと思うじゃないですか
たとえば、英語で言えば Germany という国の国民や言語であれば German みたいに
フランス語で言えば Allemagne (アルマーニュ)という国の国民や言語であれば allemand (アルマン)みたいに
しかし、イタリア語の場合はどうかというと・・・
「ドイツ」という国は Germania(ジェルマーニャ)であるから、国民や言語は germano(ジェルマーノ)とかgermanico(ジェルマーニコ)だと思いきや、tedesco(テデースコ)という離れ業なのです
ちょっと想像できませんよね
もちろん、germano とか germanico という言葉はあるのですが、これはドイツの形容詞ではなく、「ゲルマン民族」という意味になります
私がイタリア語を勉強し始めたとき、これはちょっとした衝撃の事実でした
これはどういうこと? なぜ、こんなふうな不揃いが生じたの??
なにこの「ステテコ」みたいな単語は?
なにこの「どどすこ」って?
なぜ、イタリア人はドイツ人を germano と呼ばないの?
これはずっと自分の中で疑問でしたが、疑問を抱き始めて20年以上、放置していた事実でした
で、先日のロシアの記事を書いたときから、今回は調べよう!と思って調べてみたのです
すると、このtedescoの面白い語源だけでなく、さらに面白い事実が(芋づる式に)見つかりました
Photo by Maheshkumar Painam on Unsplash
まず、このtedesco(テデースコ)という言葉の語源は、ラテン語の theodiscus
これは「一般庶民の」(of the poeple / del popolo) という意味だそうで、初期中世のラテン語で普通に使われていた言葉でした
どう使われていたかと言うと・・・
当時のドイツをはじめとするヨーロッパでは、学術用語や宗教儀式などではラテン語が使われていました
ヨーロッパでは、公の場ではどこでもラテン語が使われていたようです
まあ、乱暴に言えば、今の日本で公式の場では標準語が使われていたという感覚でしょうか・・・
ともかく、その「ラテン語」に対して、一般庶民の使っていた(ドイツの)言語という意味での theodiscus だったようです
イタリア語での「ドイツ語」は、当時の þiudisk (þは先日も話したとおり th の音)
要するに「庶民の言葉」という意味合いです
だから、「ドイツ語」というよりは、「庶民語」という意味合いだったようで、当時は「ラテン語」に対する言葉だったようです
ですから、Germania (当時の今の地がGermaniaと呼ばれていたわけではありませんが)で話されていた言葉のことを、「ラテン語」に対して「tedesco」と呼んでいたということで、今でもその呼び方が続いているというわけです
これで、なぜイタリアでtedescoと呼ばれているかが納得いきます
当時、イタリアでは、日常語も「ラテン語」だったわけです
もちろん、当時の庶民のラテン語は「俗ラテン語」(vulgar latin)だったわけですが、まあお察しのとおり、ラテン語の地元であるローマ帝国で話されている言葉ですから、それは「tedesco」と呼ばれずにlatinoと呼ばれていたわけです
ドイツで話されていた、ラテン語とは別の言葉がtedescoだったというわけです
ですから、その後、国は「Germania」にまとまりましたが、言語の呼称はずっと変わらずにtedescoを保ったというわけです
ちなみに、Germany という呼称はカエサル・シーザーの時代からの呼称だそうです
Germania (ゲルマニア) です
一方で、tedesco は初期中世、具体的には8世紀から11世紀くらいの中高ドイツ語、つまりフランク人の言葉で「庶民の」という意味で、それは今のドイツ語の「ドイツ」 = Deutscheland(ドイチラント)の由来となります
つまり、ドイツには、カエサルの時代からの「ゲルマン」「ジャーマン」という呼び方に対して、中世からの「庶民の~」(Þeudiskaz, theudiskaz)という呼び方があったということになります
これは theodiscus が語源です
で、ここからが面白い話なのですが・・・
この「theodiscus」という言葉は、イタリア語では tedesco になるわけですが、例えばフランスではドイツ語を話す人を「tiois」と読んだそうで、これはtheodiscus、つまり「庶民語」が由来となります
フランスの地ではもちろんフランス語が話されていたわけです、これは、イタリアと同じように、やはり(訛っているけど)「ラテン語」と考えられていたんでしょうね
俗ラテン語のフランス訛りみたいな
やはり、ドイツ語は「庶民語」だったわけです
一方、「ドイツ」という国自体は、歴史をご存じの方は想像に難くないと思いますが、今のドイツが成立したのは1871年のドイツ帝国建国のことでした
ドイツ語では Deutsches Kaiserreich であり、フランス語では Empire Allemand、イタリア語では Impero tedesco、英語では German Empire と呼ばれたわけです
ここに、国名としてのばらつきの由来があるわけです
国民については、これに合わせてallemand、tedesco、German となったわけです
ドイツ帝国はその後、ヴァイマル共和政、第三帝政を経て「ドイツ連邦共和国」が成立しますが、この時の国名がイタリア語では「Repubblica Federale di Germania」、つまり Germania になったわけです
一方、フランス語では「République fédérale d'Allemagne」が採用されます
なぜ、Allemagne を採用したのか、なぜ Germania を採用しなかったのか、確固たる根拠がまだ見つかっていませんが、フランス語では伝統的にあちら側の人のことを「allemand」(アルマン人)と呼んでいたので、ドイツ連邦共和国の訳語としても「allemagne」(アルマンの国)という言い方をしたのではないかと思われます
イタリア語の場合は、Germania を採用したわけですが、それは Alemanni(アルマン人)がこの地方(国)を代表する民族として認識されていなかったということになります
話しは脱線しましたが・・・
ともかく、ドイツでは「Deutscheland」という「一般庶民の土地」という名前になったわけですが、それは「þiudisk」という、中世以来の言葉が国名の由来になり、それが今では言語である「ドイツ語」という意味(Deutsche)にもなるわけです
ところが・・・
この地方で話されている一般人の言葉という意味での Theodiscus は、いわゆる「ドイツ語」を指さないケースも出てきたわけです
つまり、どこの地域の人が話している言葉をTheodiscusと呼んだか、という問題です
英語では、Theodiscus という言葉は Dutch に変化していきます
そして、この言葉が指す言語は、みなさんもご存じのとおり「オランダ語」になるわけです
そうなんです
Dutch は「庶民語」という意味は変わっていないのですが、ドイツの地の人たちの庶民語ではなく、オランダの方の人たちの庶民語のことを指す言葉になってしまったわけです
私は、ずっと昔から、なぜ「Holand「Netherlands」の形容詞が「Dutch」なのか、不思議でした
でも、ここで中学生からの謎が解けたわけです!
Dutch は Dutch でも、オランダあたりの人たちの話す言葉のことが「庶民語」(dutch)と呼ばれてきたということです
ずっと、「なぜオランダの言葉はHolandeseとかではなく、Dutchなんだろう・・・」「ダッチって何?」と思ってきました
その謎が、今やっと解けたのです
(今頃!笑)
私は中学生くらいのころから、ドイツ語でドイツのことを「Deutchland」と呼ぶことを知っていました
ですから、中学で「Dutch」という単語を習ったとき、その言葉は「ドイツ人」の意味だとすっかり勘違いしていました
テストでも「ドイツ人」と書いて間違えました
以来、ずっと腑に落ちなかったのです
それが、いまはすっきりです
そして、Dutch という英語と tedesco というイタリア語の語源が同じと知って、感銘を受けています
この事実を勉強する過程で、あらためてヨーロッパは地続きであることを思い知らされましたし、ドイツ(フランスやオランダ、ベルギー、ルクセンブルク、リヒテンシュタインを含め)の土地の複雑な史実を知ることになりました
ドイツ、Dutch、tedesco・・・
とても深い言葉ですし、各国でバラバラな理由がよく分かりました
ちなみに、フィンランド語では(先日も書きましたが)Saksaなのですが、ゲルマンでもなくアルマンでもなく、まったくの脈絡のなさに笑ったわけですが・・・
まったく笑うポイントではありませんでし
Saksa
これは、「サクソン人」という意味でした
「サクソン人」は、「アルマン人」などと並び、ドイツ連邦を構成する主要な人種のひとつです
「アングロ=サクソン人」とも言いますよね
ですから、フィンランド語やエストニア語などで「サクサ」という言葉が使われているのは、「ゲルマニア」や「アルマン」が国名に使われている他の言語とまったく対等に、歴史に照らし合わせると当然の呼び名であることが分かったのです
もう、ドイツの国名は深すぎます!
ちなみに、ハンガリー語ではNémetország(ネーメトルサーグ)であり、また脈絡のなさそうな「Német」(ネーメト)という呼び名なのですが・・・
これはスラブ系言語が語源だそうで、「話せない人達」「啞(おし)」という意味だそうです
「ドイツ」という言葉の各国語を勉強しただけでも、ドイツ語(ドイツ民族)の長い複雑な歴史を学べそうです
とまあ、「ドイツ人」の話をし出すときりがないわけですが・・・
イタリア語でなぜ tedescoなのか、tedesco って何?という疑問を紐解いてみたら、ドイツの歴史が丸裸になってしまったというお話でした
そして、最後にもう1つ、私にとっては目から鱗だったことがあります
「ドイツ」という日本語は、ドイツ語の Deutsche (ドイチ)だと思っていたのですが・・・
今回、調べていると、Dutch つまり(現代)オランダ語では Duits (ドゥイツ)だそうで、歴史的に照らし合わせても、日本に入ってきた外国語としてはオランダ語が最も古い言語の1つであることを考えると、「ドイツ」という国の名前はオランダ語から入ってきたということが分かります
これも1つの大きな驚きでした
つまり、オランダ人は自分たちの言葉を「Dutch」とは呼ばず(もちろん)、あっち(ドイツ)側で話されている「庶民語」がやはり「Duits」だったわけです
つまり、「ドイツ」とは、どこにいっても「庶民語」という意味であり、「ドイツ」(dutch)という言葉が指す言語は場所が変われば変わってくるという変な状況にあるわけです
ちなみに、ドイツ語でオランダ語は「Niederländisch」であり、「ドイツ」ではありませんでした
話はどんどん広がってしまい、キリがないので、これ以上の話はまた別の機会にしたいと思います
tedesco の語源を探ってみたら、長年の疑問であった Dutch の不思議が解けました
結局は同じ言葉ということで、イタリア語ではドイツ語、英語ではオランダ語、オランダ語ではドイツ語の意味だったという、とてもややこしい話だったのです
そして、私は「Dutchがドイツ語だと勘違いしていた」ことは、当たらずとも遠からずだっということも判明したわけです
今日も最後までお読みくださり、ありがとうございました
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