空海さんの宝号である「南無大師遍照金剛」の中にある「遍照」という名前のお寺なので、空海さんに会えるのかな? と、予備知識ゼロで行ってみました。
駐車場に車を停めると「見返弘法大師」という「のぼり」が、ずら〜っと並んでいます。
見返弘法大師ってなんだろう? と思いつつ境内に入りました。
本堂内は、はるか向こうに仏様が安置されています。
「うわ〜、遠い〜」と思いましたが、ご本尊は空海さんなので、境内で呼べば来てくれるはずです。
なので、外でお話を聞こうと思い、サクッと本堂を出ました。
すると、出口のところに「拝観無料」と書いてあったのです。
「拝観させてもらえるんだ~♪」とそちらに行ってみました。
本堂は横から入れるようになっていましたが、ご本尊は秘仏でした。
ガックリ、となりましたが、戒壇院の拝観が300円と書かれています。
戒壇院だけでも拝観させていただきたい! と思いましたが、受付には誰もいません。
勝手にお金を置いて入るのかな? と思いましたが、いや、それは違うだろうということで、お堂の外陣(お賽銭箱の横のところです。私がいるのはその奥の内陣です)の、授与所にいたおじさんに、内側から声をかけました。
すると、おじさんが「はい、はい」と外陣の授与所から、本堂内へと上がってきてくれました。
拝観料をお支払いしたので、「どうぞ」と言ってくれるのかと思ったら、「〝ここ〟の戒壇院に来たことある?」と聞きます。
戒壇院はあちこちで何回か体験したことはありますが、〝ここ〟は初めてです。
「いえ、初めてです」
「わかってる? やり方」
え? やり方? 戒壇院は暗闇の中を歩いて行って、奥に祀られている仏様を拝むということは知っているけど……やり方とは、何か特別な方法があるのかも? と思ったので、「やり方は……知らないです」と答えました。
壁に手をついて歩いて行き、後方に弘法大師さんがいるから、そこにある車のハンドルみたいなものを3回まわす。
その後、お願いをして、ちょっとだけハンドルを反対にまわして戻す。
そしてまた暗闇の中を戻ってくる……という説明をしてくれました。
なるほど〜、ここはハンドルのようなものがあるのね、よし、行ってみよう! と、地下へ行こうとしたら(戒壇院は地下にあるのです)、おじさんが本堂にある仏像の説明を始めました。
すごく親切な対応で驚きました。
各仏様の説明をしてくれて、地下に下りる階段のところに安置されているお釈迦さんの仏像の話もしてくれます。
このお釈迦さんがガリガリに痩せているのは、修行をたくさんしすぎてね、周囲の人が、もう死んでいるのでは? と思った時のお姿を再現しているんだよ、みたいなことを教えてくれました。
が、暗くてよく見えません。
するとおじさんは、そこにあったロウソクを手に取って、仏像のそばまで手を伸ばし、ロウソクの光をかざしてくれたのです。
おぉ〜、たしかにガリガリに痩せているお姿だ〜、と思ったので、「うわぁ、本当に痩せていらっしゃいますね!」と言うと、
「ありがたいお釈迦さんだね。向こうにもお釈迦さんがあるよ」
「へぇ〜、そうなんですね」
みたいな会話をしつつ、地下へ行く階段の1段目に来ました。
「では、下りましょうか」
えっ? 戒壇院、ひとりで行くんじゃないの?
どこのお寺も戒壇院はひとりで行きます。
あの? というか、おじさん、授与所大丈夫ですか? 授与所にはひとりしかいなかったから、地下に下りたら授与所が見えないわけで……。
お金とか大丈夫? おふだがほしいとか、御朱印がほしいって人も来るのでは? と思いましたが、おじさんはスタスタと階段を下りていきます。
なので、余計なことは言わずについていくと、地下はちょっとした広間のようになっていました。
ここにも仏像があります。
「どこから来たの?」
「東京です」
そう言うと、ここ知立市(愛知県)には空海さんのお寺が3つあることを地図で教えてくれました。
3つをまわるといいそうです。
3ヶ所をめぐると、何がいいのか、どんなごりやくがあるのかという話ではなく、「行くのが普通」みたいな感じでした。
ここでも丁寧に説明をしてくれます。
なんて親切! なんて優しい人! と感激するくらいです。
空海さんのおそばで働いている人だからかな、ということも思いました。
戒壇院に入る前に、手前に安置されている弘法大師像に手を合わせる、それから戒壇院めぐりをして、戻ってきたらまた弘法大師像にお礼を言う。
最後に左に置かれている仏様を拝むという説明をしてくれました。(うろ覚えです)
最後にお賽銭箱のところにある、巨大な数珠をさわるといい、全部をさわるのは無理だから「親玉」をさわるんだよ、親玉とは端っこの大きな玉のことね、これを頭とか足とかにつけるといいからね、とのことでした。
オーケー! おじさん、ありがとう! よし! まずは手前の弘法大師像に手を合わせるところからね、やるぞ〜! と思ったら、
「はい、そこから入って」と言います。
え? 戒壇院の中も一緒に行くの?
でも、私、手前の弘法大師像にまだ手を合わせてないんだけど? いいの? と思っていたら、
「後ろからついて行ってあげるからね。心配しなくてもいいよ」と言います。
えっと〜、できればひとりで参拝したいかも〜、と戸惑いつつ、でもこの親切な案内は空海さんの歓迎でもあるので、「では、お願いします!」と言われた通りに戒壇院に入りました。
当然、中は真の暗闇です。
他のお寺で、数回経験がある私は、慣れているのでスタスタ歩きます。
「はい、そのへんで右に曲がるよ」
「はい」
奥には空海さん像がありましたが(ぼんやりとした灯りで照らされています)、それがものすごく小さい! のです。
石?だったと記憶していますが、それに空海さんの姿が彫られていました。
横を向いたような見返りポーズです。
それはもう、小さっ! というサイズなのです。
あ、お願いしなきゃ、ハンドルを3回まわしてからだっけ? いや、お願いが先? と考えて、「ハンドルをまわすんでしたっけ?」と聞くと、
「そうそう。はい、まわして〜」というので「はい〜」と従います。
ハンドルをまわすとリンリンと鈴が鳴るようになっていました。
さて、ここでお願いだな、と思ったのですが、おじさんがずーーーっとしゃべっています。
小さな弘法大師だけどありがたいんだよ〜、というお話です。
おじさんが話し続けているので、相槌を打たないといけないのですが、儀式通りにやりたい私は、「あの? ハンドルを反対にちょっと戻すんですよね?」と聞きました。
自分の話を中断されたのに、おじさんは、「そうそうそう!」と、明るく答えます。
ああ、本当にいい人だなぁ、と思いつつ、また暗闇を進みます。
「そこ3メートルくらい行ったら曲がるところがあるよ」「はい〜」
「曲がったら出口の明かりが見えるから、もう大丈夫」「はい〜」
出口を出たら右に行って、と言われ、先ほどの広間っぽいところに戻りました。
「お大師さんの前に行って」「はい〜」
知立市の3つのお寺の弘法大師像は、空海さんがみずから彫ったものだと伝わっているそうです。
ここのご本尊は秘仏ですが、毎月3日だけ、見られるらしいです。
空海さん像の前に五鈷杵も置かれていました。
これがむちゃくちゃ重たくて、「持ち上げてみて」と言われましたが、持ち上がりません。
「持ち上がらないので撫でます〜」と、撫で撫でしていたら、おじさんは「30秒くらいなら持てるよ」と片手で、腕をぶらんと下げた状態で10秒くらい持っていました。
どう? すごくない? という表情でした。
左に安置されている仏像は「鼻が高い」と説明をしてくれます。
いや、この暗さでは鼻の高さまではちょっと確認が難しいんですけど……と、目をこらして見ても、よくわかりませんでした。
仏様はインドから来た、インドの人は鼻が高いから、この仏像は鼻が高く作ってあるんだろう、というのはおじさんの説です。
インドの人って、鼻、高いん? と、初めてインドの人の鼻について考えました。
その横に石像の阿弥陀さんが置かれていて、重量は100キロあるそうです。
万が一、お寺が火事になったら、この阿弥陀さんを持って出るように、と言われているんだよ、とおじさんが言います。
「え!」
「火事という緊急事態の時に、この石像を持って逃げられると思う?」
「いや、ひとりじゃ絶対に無理ですよね」
2人で抱えても、ひとり50キロの負担です。
火が迫っていて、煙も充満しているところでこれを運ぶのは無理なのでは……? 3人でも無理かも、と思っていたら、おじさんがクックックッと笑っていました。
え? あら? 今のもしかしてジョーク?
ここ、私も笑うとこ? と思いましたが、真相はわからずです。
最後に「以上で説明は終わりだからね。ま、ゆっくりして」と、言い残し、階段を上がっていきました。
は?
えええーっ! 今の全部、前フリやったん!? と驚きました。
ああ、そうか、あとからひとりにしてくれる予定だったから、戒壇院も一緒に行ってくれたんだ、なるほど〜。うわぁ、なんて親切なおじさん!
というわけで、ひとりにしてもらいましたが……それまでたくさんの会話をして楽しく拝観していたので、シーンとなっています。
なんだか寂しいという気持ちになり、「もう1回、戒壇院にひとりで行く?」と思いましたが、特にお願いもないし、せっかくおじさんと楽しくまわったんだし、その楽しかったという印象のままでいたかったので、パスしました。
戒壇院に空海さんが安置されているのは珍しいです。
普通は他の仏様です。
暗闇では他のものはまったく見えないので、意識を自分と空海さんだけに置けるため、身近に感じられるし、わかりやすいと思います。
暗闇で話しかけたり、質問をしたりすると、空海さんは絶対に答えてくれているはずです。
戒壇院だと、その答えを感じやすいように思います。
境内を歩きながら空海さんを呼ぶと、やはりスッと出てきてくれました。
「さっきのおじさんいい人ですね〜」
「だろ〜?」と、すごく嬉しそうに笑っていました。
お弟子さんなのかもしれません。
本堂の裏には小さなお地蔵さんみたいな石仏がたくさんあります。
「これってお稲荷さんでいえば、お塚信仰みたいな感じでしょうか?」
「そうだ」
小さなお堂が作られていて、その正面に表札のようにして、住所と名前が書かれています。
〝人んちのお堂〟という感じです。
「これ、お参りしても大丈夫ですか?」
「かまわぬ」
仏様だから問題ないそうです。
お稲荷さんは気をつけなければいけないけど、仏様は大丈夫とのことでした。
「3ヶ所行ったほうがいいとおじさんは言っていましたけど、3ヶ所まわった場合と、ここだけ参拝したのとでは、ごりやくが違いますか? 願掛けの叶う率が違うとか?」
空海さんはガハガハと明るく笑い「同じだ」と言います。
3ヶ所まわったから願いが叶いやすいとか、大きなごりやくがあるとかではないそうです。
3ヶ所まわらないと、ここに参拝したのが無駄になるとか、3ヶ所行かないと意味がないっていうのなら行こうかと思いましたが、空海さんお墨付きなので、このお寺だけにしました。
最後に! この話もしなくては!
おじさんが「あんた、若いのに偉いな」と言ってくれました。
ウフフ、おじさんからしたら私はまだ若いんだ〜、と素直に嬉しかったです。
空海さんが身近に感じられる、堅苦しくないお寺です。
戒壇院は特におすすめです。