Windows11からDolby ATMOSのビットストリームを送り再生する話 | 音響・映像・電気設備が好き

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「ヒゲドライバー」「suguruka」というピコピコ・ミュージシャンが好きです。

Windows11からDolby ATMOSのビットストリームをHDMI経由で送り再生する話です。

 

まず大きな前提として、この記事でのDolby ATMOSとはホームシアターフォーマット(Dolby Atmos for Home Theater)の事を指します。

制作側の話を筆者は理解していないのですが各資料から読み取れる大まかな概要としてはDolby Atmosは従来のサラウンドの延長上にあり、スピーカと音の記録トラックが1:1であった方式から、空間上での位置情報を持ったオブジェクトを扱える点が新しい技術です。

この、スピーカに対して1:1をベッドやチャンネルベースと呼び、スピーカ配置(つまり劇場)に依存しないその空間に合ったデコードを行う方式をオブジェクトベースと呼びます。どの劇場でも制作者の意図に沿ったサラウンド効果が得られる・・・ここまで売り文句です。

※サラウンド効果・・・と書いてしまうと誤解を招きそうですが、音のひとつひとつをオブジェクトとして扱えば、その空間での移動表現が可能になります。観客の周りを音がグルグル回るんでしょう?と思われるかもしれませんが、それだけでは無く、例えば町の雑踏のガヤのベース(こちらは単なるアンビエント)に数人の話し声をオブジェクトとして扱いその中を移動させる表現をカメラと共に音響で再現を行うとあたかもその空間にいるように錯覚させる事が可能です。これが没入感の向上に貢献する、というのがドルビーの見解です。近年のアニメは背景が3Dになっており、少しのカメラ移動にパースが追従しますが、音でも似た事が可能になります。重要なのは制作者側に選択肢が増えた点ですね。
但し、VRとしての立体音響も並行して歴史があり、ヘッドトラッキングを伴う能動的な没入感と比較すると、座席が固定の映画館は受動的になると筆者は考えています。(そもそも映画はそういうものですしね)

 

大元であるDolby ATMOSは128トラックを扱え、従来のチャンネルベース用にベッド10chをリザーブ、残り118chを制作側はチャンネルベースでもオブジェクトベースでも自由に選択できるとの事です。

この仕組みが根底にあり、その家庭用がDolby Atmos for Home Theaterです。扱えるオブジェクト数上限は不明ですが、家庭用でも9.1.6chを再生可能な枠組みを提供しています。

※現実には家庭用は7.1.4chあたりが上限である。

 

 

今回はこのDolby ATMOSのビットストリームをWindwos11から送出してみよう、という記事です。必要な物はDolby ATMOS対応のHDMI入力機器です。

 

 

このBlog内の、音響のオブジェクトベースの話は下記で読めます。

 

 

 

本記事の続編です。

 

 

 

 

9.1.6chのスピーカ配置

 

 

AllRADecoderでの9.1.6ch配置再現(今回の記事には関係ありません)。水平から上方にかけてのスピーカ配置しか無く、Dolby ATMOSは映画館フォーマットであることが伺える。つまりは制約下にあり本質的な立体音響では無い、ということ(視線より下側の音源の方向性を何度まで人が検知できるのか?は意見が分かれる話らしい)

 

 

設備用デコーダでのDolby ATMOS

 

 

AVアンプでのDolby ATMOS

 

 

バースピーカでのDolby ATMOS

 

 

まず、Dolbyが提示している正攻法です。Microsoft StoreでDolby Accessをダウンロードします。Dolbyのライセンス上、マイクロソフトアカウントが必須です。

 

 

 

インストール後、画面を進むと「ドルビーアトモスヘッドフォン」と「ホームシアター向けドルビーアトモス」が選べます。2024年9月現在、前者はHRTFで畳み込んでいるバイノーラル再生で有償、後者は無料で使用できます。今回使用するのはこの後者の「ホームシアター向けドルビーアトモス」です。このアプリ内でデモコンテンツ再生を行うとそのままATMOS再生が可能です。コンテンツを持っている場合は、「映画&テレビ」アプリケーションで再生を行う、と説明書には書いてありますが、このアプリでは再生できる形式が限られており後述の通りVLCで再生を推奨します。

 

 

「ホームシアター向けドルビーアトモス」を選択すると、グラボ直HDMI出力の先に繋がれたEDIDを読み、対応の可否が表示される

 

 

Dolbyのガイドに従うと、最初は設定に失敗しましたと表示される

 

 

サウンドのプロパティで排他モードを解除する

 

 

これでDolby ATMOS再生が可能です!!

 

 

この状態ではOSからのオーディオ出力がDolby ATMOS扱いになるので、単純にリニアPCM 2ch送出したい場合はWindowsの立体音響をオフにする必要がある

 

 

詳細は手間なので、ざっくり書きますがこの上記の方法では設備用デコーダ、AVアンプ、バースピーカでの再生が可能でした。

但し、本当にオブジェクトがデコード出来ているのか?はオブジェクト専用スピーカが無いと確実にデコード出来ていると判断が出来ません

※一般ユーザ側では鳴っている音源がベッドなのかオブジェクトなのか判断する術が無いのです。

 

 

やや強引な解釈ではありますが、筆者調べでは映画用BDでは下記のようなチャンネルレイアウトになっています。(もちろん任意にベッドに変更も可能)

 

Dolby ATMOS 9.1.6ch

1.L(ベッド&オブジェクト)
2.R(ベッド&オブジェクト)
3.C(ベッド&オブジェクト)
4.LFE(ベッド)
5.Ls(ベッド&オブジェクト)
6.Rs(ベッド&オブジェクト)
7.Lrs(ベッド&オブジェクト)
8.Rrs(ベッド&オブジェクト)
9.Lw(オブジェクトのみ)
10.Rw(オブジェクトのみ)
11.Ltf(オブジェクトのみ)
12.Rtf(オブジェクトのみ)

13.Ltm(ベッド&オブジェクト)
14.Rtm(ベッド&オブジェクト)
15.Ltr(オブジェクトのみ)
16.Rtr(オブジェクトのみ)

※対象コンテンツのオブジェクトチャンネルのみを再生すればオブジェクトの音源だけを聴くことが可能である(敷居は高い・・・)その中でも、Ltm、Rtmがベッドとして使われているのを筆者は複数確認している

 

 

設備用デコーダやAVアンプはハイトチャンネル(オーバーヘッド)設定をして、そのチャンネルだけを聞けばオブジェクトデコードが確認できます。しかし、バースピーカではハイトチャンネル(オーバーヘッド)が物理的に存在しない為に、機材はDolby ATMOSを再生していると言っているが本当にDolby ATMOS再生なのかはユーザ側では確認のしようがありません

 

まぁ、なんかこれDolby ATMOSらしいよ、ってところで手を打ってください・・・。

 

 

他の手段はないのか?

 

筆者の環境ではオーディオ排他モードオンで非Dolby Accessインストール環境にも関わらずVLCからHDMI経由でDolby ATMOSビットストリームを送れました。但し、このDolby ATMOSビットストリームを業務用デコーダでは受け取ることが出来ず、AVアンプとバースピーカのみが対応しました。(どうしてなのか追求する時間は無く・・・ただし、2台のメーカ違いAVアンプで可能でした。「映画&テレビ」アプリケーションで再生しなくても良いのは楽!)

※しかし、バースピーカは前述の通り、本当にオブジェクトがデコード出来ているかの判断が出来ないジレンマ・・・

 

 

VLCでHDMIオーディオオパススルーを有効にするとHDMI出力からDolby ATMOSビットストリームが送れる

 

 

AC-3 & dts 5.1chを経験してきている方々には説明不要ですが、S/PDIFではリニアPCM 2ch、Dolbyデジタル5.1ch、dts 5.1chが限界で、さらに上位フォーマットやリニアPCMマルチチャンネルは送れません。従って上記の設定をしても、S/PDIF経由ではDolby ATMOSビットストリームは送れません。(ちなみにRMEのオーディオI/FはS/PDIF or ADAT端子からAC-3とdtsが出力できます。誰が使うんだ・・・)

 

こんな簡単に送出できるなんて・・・・・・と思いましたが、そもそもDolby ATMOSビットストリームが出力できる映像ファイルをさっと用意できる環境なんてなかなかありませんですし、これを読んで、よし試そう!!とはなかなかなりませんよね~・・・

余談ですがこれを書いている筆者は、専門学生時代からVHSでのドルビーサラウンド、DVDでの5.1chで遊んでいました。この経験が今の仕事の一部に繋がっています。

 

 

おまけ

 

AVアンプのEDID。対応オーディオフォーマットが沢山ある

 

 

主な種類

 

LPCM, 2-Channel, 24-Bit, 20-Bit, 16-Bit
(リニアPCM2ch、非圧縮、S/PDIF・ARC・eARCで伝送可能)


LPCM, 8-Channel, 24-Bit, 20-Bit, 16-Bit

(リニアPCM8ch、非圧縮、eARCで伝送可能)


AC-3, 6-Channel, 640 k Max bit rate

(Dolby AC-3、旧来のDVD 2ch・5.1chサラウンド規格、非可逆圧縮、S/PDIF・ARC・eARCで伝送可能)

※当初は448kbpsだった

 

DTS, 8-Channel, 1536 k Max bit rate

(dts、旧来のDVD 5.1ch・7.1chサラウンド規格、非可逆圧縮、S/PDIF・ARC・eARCで伝送可能)

※DVDで7.1chタイトルあったかな・・・?

 

E-AC-3, 8-Channel

(Enhanced AC-3、Dolby Digital Plus、Dolby ATMOS、非可逆圧縮、eARCで伝送可能)

 

DTS-HD, 8-Channel

(dts-HD、dts:X、可逆圧縮、eARCで伝送可能)


MAT/MLP/Dolby TrueHD, 8-Channel

(Dolby TrueHD、Dolby MAT、Dolby ATMOS、可逆圧縮、eARCで伝送可能。AC-4はMAT形式でデコーダに受け渡すことも可能)

 

 

MPEG4-AAC 6chもあるのですがいつ使うのか・・・

※ARIB STD-B32定義、BS4K放送だそうです。最大22.2ch対応で、対応機種は2024年9月では限られています。

 

 

外部参考リンク:

 

 

 

 

HDMI経由でリニアPCM 8ch送出が可能な為、Maxでマルチチャンネル送出ツールを作ってみた

 

 

沢山のスピーカを鳴らすのは楽しい!!!!