Neutrik Audiograph 3300とNTi Audioの歴史 | 音響・映像・電気設備が好き

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「ヒゲドライバー」「suguruka」というピコピコ・ミュージシャンが好きです。

Neutrik Audiograph 3300を手に入れた話です。前半にAudiograph 3300の話、中盤にNTi Audioの歴史、後半にレストアの話と紹介をします。

 

 

Neutrik Audiograph 3300

 

 

ノイトリックの2番目の音響測定器、オーディオグラフ3300は1981年に発売した製品です。今回またヤフオクで落札しました・・・。

 

 

なんと周波数特性をペンで記録する超アナログシステム。外部に測定データを出す手段は紙へのリアルタイム記録以外無い。メモリの関係上、プリンタへの画像出力が簡単に扱えなかった時代はペンプロッタが大活躍した

 

 

現在でも見かけることのないモジュール増設式を採用している非常に珍しい測定器。機能を増やすと幅もどんどん増えて行く

 

 

3202 MAINFRAME(STANDARD)の取扱説明書

 

 

各機器をつなぐバスコネクタの詳細

 

 

バスコネクタの写真

 

 

写真の構成は、

3202 MAINFRAME(STANDARD)

3360 SYNCHRO MODULE

3312 INPUT MODULE(STANDARD)

3322 OUTPUT MODULE(STANDARD)

です。

 

基本機能はすべてメインフレームに収められており、メインフレームから周波数変調(FM)・(電圧)振幅変調(AM)で制御を行う仕組みです。例えば、入力モジュールの抵抗切替・出力モジュールのバランストランスは各モジュールに内蔵、周波数の変調はエンコーダの抵抗値でメインフレームに指示(Voltage Controlled Oscilator)をするといった分担をしています。サービスマニュアルに細かな仕様は書いてあり、数年先を見越した設計は当時から健在していた事が分かります。事実、メインフレームでのオーディオI/Oを廃止した後でも、プリンタとして扱われ製品の寿命を延ばしていました。

 

 

 

メインフレーム。創業当時のノイトリックのロゴが印刷されている

 

 

この製品の為に搭載されたといっても過言では無いDシリーズレセプタクル。当時から2023年現在に至るまで音響計測器での採用No.1のXLRレセプタクル

 

 

Blog内参考リンク:

 

 

 

 

ステッピングモータで駆動するペン

 

 

なぜノイトリックが測定器を?いつ頃の話?と疑問を持たれる方もいると思いますのでNeutrikの歴史と、NTi Audioの歴史を合わせて紹介します。まず、年表と製品一覧を作成しました。

 

 

NTi Audio AGの歴史と製品群

 

上記一覧のPDFファイル:

 

 

 

Audiotracer 3201の特許。1978年に出願されている。これの一番の驚きは「Inventor Bernhard Weingartner」との記載。 コネクタも測定器も同じ方が発明している事実・・・

※Neutrikは、は1975年にBernhard Weingartner(元AKGエンジニア、元HILTI在籍)とNeuElektrik AGの所有者、Gebhard SprengerおよびJosef Gstoehlによって設立された。Bernhard Weingartnerで出願された特許を見ると、AKG、HILTI、Neutrikと3社でそれぞれ発明をしている様子が伺える

 

 

上記特許の外部リンク:

 

 

 

ご存じの方には説明不要ですが、Neutrikは創立翌年より音響計測部門を設立します。コネクタと音響測定器の2本柱でスタートした会社は後に音響計測部門だけ独立を果たします。これが現在のNTi Audioです。

 

 

Neutrik、NTI、NTi Audioのロゴの変移

 

 

Blog内参考リンク:

 

 

 

おおまかな歴史

1975年 Neutrik AG設立

1976年 Neutrik AGにオーディオ測定部門を設立

2000年 Neutrik AGのオーディオ測定部門の経営陣買収によりNTI AG設立
2009年 会社名をNTI AGからNTi Audio AGに変更
※但し、各国の代理店の名称はそのままで、日本はエヌティーアイジャパン株式会社。

※NTIの意味はNeutrik Test Instrumentsだが、NTi AudioのNTiはNew Technologies in Audioとしている。

 

つまり、2000年まではノイトリックは音響測定器を製造販売する会社だった、というわけなのです。ちなみに筆者がNTIを知った当時はまだノイトリックと完全に分かれていない会社でした。日本国内のWebサイトでも、ノイトリック製品とNTI製品が同列に取り扱いがされていた過去があります。

 

 

おおまかな製品年表

 

発売不明

Audio Measuring System TP401
Audio Transmission Test Set TT402A

 

1977年 Audiotracer 3201
1981年 Audiograph 3300
1985年 Audiograph 3300用Analyzer 3337発売
1990年 A1(オーディオ アナライザー)発売
1992年 A2-D(オーディオ アナライザー)発売
1996年 RT-1M(オーディオ アナライザー)発売
1998年 Minirator MR1発売
1999年 RT-2M(オーディオ アナライザー)発売
2000年 Minilyzer ML1/Acoustilyzer AL1発売
2001年 Digilyzer DL1発売
2005年 Talk Box発売
2007年 Minirator MR-PRO/MR2、Digirator DR2発売
2009年 XL2 Audio and Acoustic Analyzer発売
2011年 FLEXUS FX100発売
2018年 DS3 12面体スピーカー、PA3 パワーアンプ、TM3 タッピングマシン発売
2022年 XL3 Acoustic Analyzer発売

 

今回取り上げるAudiograph 3300はノイトリックの歴史上2番目の音響測定器です。

 

 

Audiographの全モジュールリストは以下です。

 

3202 MAINFRAME(STANDARD)
3360 SYNCHRO MODULE
3317 不明
3335 FREQUENCY EXPANDING DISPLAY MODULE
3324 NOISE GENERATOR AND TRACKING SEND FILTER MODULE
3321 OUTPUT MODULE(BASIC)・・・出力BNCのみ
3322 OUTPUT MODULE(STANDARD)・・・出力XLRとBNC
3332 PHASE MODULE
3314 TRACKING RECEVE FILTER
3311 INPUT MODULE(BASIC) ・・・STANDARDに比べて入力レベル範囲が狭い
3312 INPUT MODULE(STANDARD)
3323 COMPRESSOR MODULE

3337 ANALYTZER

 

当時、販売されていたその他オプションリストです。こちらは日本語訳表記としました。

 

3381 1/2インチマイクロホン
3382 1/4インチマイクロホン
3282 疑似耳
3204 音声発生器
CA-2 コンプレッションアンプ
3350 キャリングハンドル
3351 チャートカード
3352 ロールカード
3355 キャリングケース
3356 4色ペン
3383 20dBプリアンプ

 

このAudiograph 3300ですが、1981年に誕生し、元々メインフレームから行っていたオーディオI/Oでは測定精度・アナログに依存した調整の限界が見えたのか、単独でI/Oを持つ3337 ANALYTZERとのセットが1985年に販売されました。この際、メインフレームはプリンタとして機能します。

1990年には2chモデルのオーディオアナライザ A1の販売が開始され記録は紙からデータへと移り、ペン式の3300は3337 ANALYTZERモジュールを最後に1993年に販売が終了します。これを書いているのは2023年ですので実に30年前に販売が終了した製品です。

 

これが販売された1980年頃・・・といえばFOHのスピーカ調整はもっぱらGEQで行われていて、3300で疑似FFTの周波数特性が紙に残せたとしても、調整には限界があったと推測します。80年後半になるとSIMでFFTの結果を見てPEQで調整を行う・・・といった現代にも通じる音響調整方式になるようです。

調整する事は叶わないが、周波数特性を残せるようにする。それも周波数帯域別の位相や群遅延までを含めるといった先進的な姿勢は、今回の調査で知る事ができました。

※3300は紙の走行速度に応じた周波数スウィープをジェネレータから発振する仕組み。ワーブルトーンでオクターブごとの周波数測定も可能で、これは当時はスピーカ測定の際に部屋の定在波の影響を少なくする為に使用された。

(マニュアルには部屋の定在波の影響を少なくすると書いてあるが、GEQしかない状況であればオクターブで区切られた平均値の方が利用価値が高かったと筆者は推測する)

 

 

参考外部リンク:NTi Audio 販売終了製品一覧

 


 

 

Neutrik Audiograph 3300、NTI ML1、NTI MR-PRO、NTi Audio XL2。私物で3社名分の測定器が揃っている

 

 

当時のラインナップにマイクと疑似耳があることから、ヘッドフォン測定にも使用されたと推測する。ファンタム電源は+15Vまで供給可能なのでこの電圧で駆動が可能なコンデンサマイクでヘッドフォンを測定してみた

 

 

実際に測定を行ってみた。上はiLoud MTM パワードスピーカの周波数特性、下はSONY MDR-CD900STの周波数特性(10dBずらし)。右下の部分はカットすると最大40kHzまで測定を行うモードとなる

 

 

 

 

サービスマニュアルが付属していた為、できる限りの再調整を行った。但し、今回取り上げたモデルは1989年製で、サービスマニュアルは基板の構成から推測するに初期モデルの様だった。

※調整できる項目はICに任せることにより減少していた

 

 

アウトプットモジュール。現代では考えられないクリアランス

 

 

出力レベルの調整

 

 

ツマミはなんとアンカ方式で留まっている

 

 

こちらはXLR入力端子のロックが壊れていた為、現在販売されているDシリーズのツメを差し込んだ写真

 

 

信じられないが3300に採用されているDシリーズレセプタクルはリップの薄い特注品で現在販売されている物と丸々交換が不可能だった

 

 

出力レベルは基準値のアッテネータ切り替えだが、部品の精度が凄まじく現在でも通用する事が分かった

 

 

付属品だった+20dB PreAmp 3383。一つはラベルが紛失していた為、完全トレスしテプラで作成した

 

 

専用の3351シートは何度でも印刷が可能なように完全トレスデータを作成した(ダウンロードリンクはこの記事にあります)

 

 

オリジナルの3351シート

 

 

作成したデータを色紙に印刷したシート。すごく良い

 

 

3300はフォトカプラで開始位置を読み込む為、シートの開始位置さえ黒ければ良く、量産は現在でも可能でした。参考までに色紙で印刷した写真を載せておきます。

残るはペンの問題でしたが、NTiジャパンに問い合わせを行うとなんと現在でもペンは購入が可能である事が分かりました。これには本当に驚いてしまい、海外サイトで販売終了していたノイトリックのペンがまさか日本のNTiに在庫があるとは思ってもいませんでした・・・。NTiジャパンに感謝です!!!なお、シートは販売が終了しているそうです。

 

 

Neutrik 3356 4色ペン。本当にあるんだ・・・・・・・・・・(もちろんノイトリックロゴ。何年在庫?)

 

 

夢じゃない、本物だ!!

 

 

入手出来なかった場合は製作も視野に入れていた為、採寸を行っていた。驚愕のM7 P=0.5のネジが切られている(検索すると同型のペンは見つかるが日本国内で入手は不可能だった)

 

 

3Dイメージ。ペンプロッタではこの様な小型のペンが全般的に使用された。現在でも長期ロギングなどでのペンレコーダとして使用される仕組みである

 

 

本来の4本セッティング

 

 

くらくらするほどカッコいい

 

 

2色でのヘッドフォン測定

 

 

一通りレストアも終わり、完全動作品となりました。一部プーリのイモネジが割れてしまい途方にくれましたがそれらも修理を行い、やれることは全て行いました。

どこかで実際の動作を生で見ていただきたいですね・・・。

 

付属していたマニュアルとサービスマニュアル、作成したシートのデータのPDFは下記からダウンロードが可能です。

シートの著作権理は放棄しますのでご自由にお使いください。

 

 

 

ここまで調べてみて、ノイトリック・NTi Audioの凄さを再認識した次第です。

 

こんな記事、誰の役に立つのか分かりませんが・・・このAudiograph 3300は海外でも愛好家がおり、もしかしたらその方々に届くかもしれませんね。