映画『Dear Evan Hansen』 | HYGGE 創作活動·読書感想

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(画像は公式サイトより)



これは現代らしさの苦痛にまつわる映画だと思う。

広告は広告だ。
広告があなたに与える印象は、映画という体験にまつわる予感に過ぎず、決して家具とかに付く品質保証などではない。

断じて。

だから。

この映画はミュージカルである。
「感涙」と言っている。

だからと言って「ああ、なるほど。主人公がスーザン・ボイルみたく、みんなからその歌声を称賛されるハッピーストーリーなんだな」とか勝手な期待を抱いて、そして映画を観てから勝手に落胆していただきたくはない。(そもそもミュージカルのストーリーに歌そのものが絡むことはほぼほぼ無いので上の想定は別の意味でも的外れなのだけれど。というかポスターで立っている彼の前のマイク、倒れてるんですよね。ここだけでも結構異様ですよ)

この映画は現代の陳腐な苦痛にまつわる救いだ。

孤立した青少年。ネットの炎上。貧富の差。若者の自殺……。

そうした"メンドクサイ"もの、娯楽映画が関わり合いを持ちたがらない絶妙に陳腐でそれでいて確実に現実世界に実在し続ける苦痛について、この映画はわりと真摯に向き合っている。

この映画にはボッチがいる。
いくつもの部会でリーダーを張り、生徒の自殺という痛ましい事件をさっさと追悼クラウドファンディングの案件へと持っていく意識高い系の人間がいる。
自分の生活水準にプライドを持つ母親と無理な残業で日々の生活を食いつなぐシングルマザーとの対比があって、それぞれが振り子のように動き、ぶつかり合う。

だから『Dear Evan Hansen』は単純な娯楽映画にはなりえない。

美形の異性があなたのことを好き好き大好き愛してると言ってくれるようなわかりやすい快楽を映画というコンテンツに求めているならお帰りいただく他ない。

だけど、ありふれた苦痛をミュージカルというファンタジーに織り込んだこの映画はあなたをきっと強くする。

だからこそ、観てほしい。


……とまあ、予告篇をYou Tubeで探そうとしたら「感動系と思ったら胸糞映画!!」とか煽って再生数を稼ごうとしている動画が出てきたので、ついこういう論調になってしまいました。


偶然関わり合いを持っただけの同じ学校の生徒が自殺するが、あることでその生徒の"親友"だと遺族に勘違いされてしまう主人公。

主人公の言葉の足らなさが、嘘がつくきっかけを作り、一度ついた嘘が主人公の境遇と相まって嘘が嘘を呼ぶ。

観ていて苦しい話だと私は感じました。

しかしこの映画の着地点はとても素晴らしいものたと思っています。

(志田佑)