映画「窓ぎわのトットちゃん」
2023年 東宝 114分
<監督>
八鍬 新之介
<原作>
黒柳徹子:窓ぎわのトットちゃん
<キャスト>
トットちゃん(黒柳徹子):大野りりあな
小林先生(小林 宗作):役所広司
トットちゃんのパパ(黒柳 守綱):小栗旬
(ゴジラシリーズ第一作目のテーマ曲の演奏に参加しています。元N響のコンサートマスター)
トットちゃんのママ(黒柳朝):杏
大石先生:滝沢カレン
<主題歌>
あいみょん「あのね」
<内容>
黒柳徹子が自身の子ども時代をつづった世界的ベストセラー「窓ぎわのトットちゃん」をアニメーション映画化。
好奇心旺盛でお話好きな小学1年生のトットちゃんは、落ち着きがないことを理由に学校を退学させられてしまう。東京・自由が丘にあるトモエ学園に通うことになったトットちゃんは、恩師となる小林校長先生と出会い、子どもの自主性を大切にする自由でユニークな校風のもとでのびのびと成長していく。
「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」シリーズなどの国民的アニメを世に送り出してきたシンエイ動画がアニメーション制作を手がけ、「映画ドラえもん」シリーズの八鍬新之介が監督を務める。
(映画COM一部抜粋)
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昨年12月28日、仕事納めの日に鑑賞。
鑑賞中はウルウルの嵐、この作品を昨年レヴューしていたら、ほくとの確実に「ウルウルしたで賞」は受賞していたであろう作品でした。
とてつもなく丁寧に作られた画に、素晴らしい脚本。
原作の世界観をさらに広げた傑作になっている。
期待以上にとっても良かったです。
トットちゃん(黒柳徹子)が、小学校を退学させられてトモエ学園に入る。そして戦争で疎開するまでの出来事を描いた、黒柳徹子さんの自伝的映画。原作をほぼ忠実に再現しています。
この映画は最初から観るつもりではいましたが、TV番組「徹子の部屋」に八鍬 新之介監督とトットちゃんの声を担当した大野りりあなちゃんが出演した回を観て、さらに強く鑑賞したくなったのでした。
なんと構想から7年の歳月を得て完成した作品。昔からからこの小説を映画化したいというオファーはあったそうですが、黒柳徹子さんは断っていたそうです。しかしこの監督の熱意デモ作品を観てOKを出したよう。
そして驚くべきは、原画は通常作品の倍の約12万枚とのこと。背景もキャラクターも全て手書きの水彩画。
とてつもない労力をつぎ込んでいますが、その努力の甲斐あってこの作品の世界観がさらに倍増されていました。
なんといっても小説の挿絵がいわさきちひろさんですから、そのイメージを大切にしたそうです。
声優陣も豪華ですが、トットちゃんのアフレコを行った大野りりあなちゃんがものすごくいいのです。
番組内でも明るくはきはきしている彼女、トットチャンと同じ年。単にアフレコをしたのでははなく、本当に彼女がトトちゃんになったように話したようです。りりあなちゃんは、この本を5歳の時に読んで、作品が好きになり黒柳徹子さんのフアンになったようです。
今作品の試写会では黒柳さんも涙した。
子どもの頃に飼っていたロッキー(犬)に会えたことが懐かしくも・・・。
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ウルウルして印象的だったシーン
もうトモエ学園がスクリーンに登場した時から、またその先の出来事もウルウルの連続でしたがいくつか挙げてみましょう。
トモエ学園で出会った一人、小児マヒで手足が悪い泰明ちゃんとのからみ。
けこう泰明ちゃんとの出来事が多く出てきます。
ある時トモエ学園のみんながプールに入る。
泰明ちゃんは、自分の身体の事を気にして入ろうとしない。
それを見たトットちゃんが
「ねぇ~一緒にはいろうよ。みんな一緒でしょ」
といって自分の着ている服を脱ぎ素っ裸になって、泰明ちゃんの手を引いてプールに誘う。
その後彼もプールに入ると、気持ちよさそうに水遊びをする幻想的なシーンが映し出されます。
この泰明ちゃんを誘うトットちゃんが発した
「みんな一緒でしょ」
この言葉でウルウルしてしまいました。
彼女にとっては、身体的な見た目の問題は全く関係ないのです。
トモエ学園の庭にある木に泰明ちゃんを登らせるシーンは、原作でとっても印象深く覚えていましたが、このプールの出来事は忘れていました。
通常でない社会生活
戦争の影がトットちゃんたちにも影響してくる、その一つが食糧難。
ある時トットチャンと泰明ちゃんが雨の中話をしながら歩いている。
「お腹が空いたねぇ」
と話す二人。
二人は、トモエ学園のお昼の時の歌
「よくかめよ たべものを かめよ かめよ かめよ 食べ物を♪」
を歌う。
この歌も戦争前はトモエ学園の中では明るく歌われているのですが、戦争がはじまり食料が乏しくなってくる頃になると、曲調も暗くなっているのに気が付くはず。
そこを通った大人が、
「みっともない、このご時世にそんな歌をうたうんじゃない」
と怒る。
二人は黙る。
しばらくしてトットチャンは
「だって~お腹が空いているんだもの」
と泣き始める。
TV番組で黒柳徹子さんも、戦争とは本当にひもじい思いをすることを話しておられました。
泣くトットチャンをみた泰明ちゃんが、水たまりに足を入れてタップを踏み、リズムを奏でる。
それはさっき怒られた曲だ。
怒った大人の人は気が付かない。
でもそのタップのリズムにトットちゃんは気が付く。
そしてトットちゃんの泣き顔も笑顔に変わり、映画「雨に唄えば」でジーンケリーが雨の中で踊る名場面と同じようなシーンに画面は切り替わる。
この踊るシーンは、原作をブラッシュアップした素晴らしいシーンでした。
泰明ちゃんのその機転にジーンときてしまいました。
映画では、トットちゃんの妄想がミュージカルになるようなシーンが、数多く散りばめられています。その画のタッチが本編とは少し変わりますが、これがまたいいのです。
原作だけではありえない、アニメならではの世界感です。
他校の子供たちがトモエ学園の前で
「トモエ学園ボロ学校~♪」
とバカにする。
それに対して何も言えなかったトットちゃんたちがその後、
「トモエ学園いい学校~♪」
とスクラムを組んで相手を押し返した。
スカッとした場面でした。
冒頭とラストのチンドン屋さん
冒頭に出てくる、トットちゃんが退学させられる理由のきっかけにもなったチンドン屋さん。
映画のラストでも、疎開するトットちゃんが乗る電車から見えるチンドン屋さん。
このそれぞれの場面で見るチンドン屋さんに、トットちゃんの心情の変化を感じることができるでしょう。
トットちゃん自身が、悲しいときも落ち込んでいる時もあのチンドン屋さんのような精神で、人に笑顔を与えている存在ではなかったのか。
そういえば子どもの頃にリアルなチンドン屋さんを見たことがありますが、確かになんかウキウキしちゃいますよね。
縁日のひよこ
縁日でひよこを飼うシーンが出てきますが、自分もトットちゃんと同じ小学校1年生の時に縁日でひよこを買ったことがあります。そのひよこが死んでしまうところも、トットちゃんと同じで懐かしくもあの時の記憶が蘇りました。
トットちゃんは、縁日のひよこが欲しい、でも父親に反対される。
縁日で売っているひよこは弱いからすぐに死んでしまう。
その時の事を思うと反対する親。
しかしトットちゃんは諦められない
「もうこれからお願い事はしませんから、最後のお願いでひよこを買ってください」
と涙ながら訴えます。
最後は父親も折れて買うのですが、やはり数日で死んでしまう。
これも学びなのでしょうね。
この作品は、日常が日常でなくなる戦争の恐ろしさを、ダイレクトではなく物語の変化の中で感じさせてくれます。
それはトットちゃんという、子供の視線で描かれているから。
そのような状況下では、個性や才能は握りつぶされ、障害者はより疎外されてしまう。
その逆がトモエ学園、個性や才能は延ばされ、そこには障害は関係ない。
書きたいたい内容はいっぱいありますがきりがないので、後はぜひ劇場でご覧くださいね。
原作も素晴らしいですが、それを丁寧に素晴らしいアニメーションに作り上げた監督スタッフに拍手をおくりたい。
反戦へのメッセージも出てくるけれど、絶望だけではなく希望も描かれている。
トモエ学園の素晴らしさを再度認識することでしょう。
トモエ学園の卒業生には女優の津島恵子さん、池内淳子さん(幼稚園のみ)などがいます。そして劇中にも出てきますが山内泰二さんは黒柳徹子さんと同級生で、その後物理学者になられたようです。
トットちゃんが経験したような、悲しい世界・出来事が起きないような社会にしていかなければいけません。
しかし今の世界では、そのことが起きてしまっている。
戦争が起きている国もあるし、戦争がなくても子供たちが食べることができていない国もある。
そのような世界にしないためには、しっかりと正しい事・真実を見極め、一人一人が監視していく必要性があるでしょう。
また困った人がいたら、ごくごく普通に手を差しのべる人間にもなりたいものですね。
ぜひ多くの人に見てほしい作品でした。
5点満点中4.2
(画像全てお借りしました)