映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ ウェスト」
または
「ウエスタン」
1968年 イタリア、アメリカ合作 165分
<監督>
セルジオ・レオーネ
<音楽>
エンニオ・モリコーネ
<キャスト>
チャールズ・ブロンソン、
ヘンリー・フォンダ、
クラウディア・カルディナーレ、
ジェイソン・ロバーズ、
ウディ・ストロード、
ジャック・イーラム
<内容>
大陸横断鉄道敷設によって新たな文明の波が押し寄せていた西部開拓期。ニューオリンズから西部に嫁いできた元・高級娼婦のジル(クラウディア・カルディナーレ)は、何者かに家族全員を殺され、広大な荒れ地の相続人となった。
莫大な価値を秘めたその土地の権利をめぐり、ジルは、鉄道会社に雇われた殺し屋フランク(ヘンリー・フォンダ)、家族殺しの容疑者である強盗団のボス、シャイアン(ジェイソン・ロバーズ)、ハーモニカを奏でる正体不明のガンマン(チャールズ・ブロンソン)らの熾烈な争いに巻き込まれていくー。
(公式HPより)
もう少し説明すると
物語は物寂しい西部のアリゾナ州にある駅から始まる。駅のホームで何者かを待ち受ける屈強な三人のギャングたち。そこに現れたハーモニカを吹く謎のガンマンはあっというまに三人のギャングを射殺してしまう。
舞台は変わって荒野の一軒屋、そこでは開拓者のブレット・マクベインが再婚相手を迎え入れるための準備をしていた。
しかし突如として現れたならず者フランクとその部下達によってマクベイン一家は皆殺しにされてしまう。
更にフランクは偽の証拠を現場に残すことで事件を山賊のシャイアン一味の仕業に見せかける。
ブレッドの新妻であるジルは夫を殺した男への復讐と、女一人で西部で生きていく決意をする。
実はフランクがマクベイン一家を殺害したのは、マクベイン一家の土地を奪い取ろうとする鉄道王モートンの差し金だった。事件の真相を探ろうとするシャイアンと、フランクを付け狙う「ハーモニカ」は美しい未亡人ジルと彼女の財産を守るために協力しあう。(ウィッキペディアより)
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革新的な西部劇の世界
さてさて、どのようにこの作品の感想を書こうか迷うところです。と、いうことで思いつくまま記述していきたいと思います。ちょっと長いですがお付き合いよろしくお願いいたします。
西部劇ファンの方なら、この作品を観ている人は多いと思われますがどうでしょうか。
時を経て観ても実に良かった、面白かったですね。
既成のマカロニウエスタンの展開とはまるっきり違い、ゆったりとした時間をかけながら、その時代の流れの中にいる主人公たちが、文明の波に飲み込まれていく様がひしひしと感じられる内容。
この作品は単なるガンファイトではなく、またミステリー的な様子も含む展開になっているので観ていても面白さが倍増します。
また物語の中には、復讐、女性の台頭、友情、親、ラヴストーリー、西部開拓の時代の変貌など色々なテーマがうまく盛り込まれています。その事からも、個人的にはタイトルの「ウエスタン」よりも「ワンスアポンアタイム・イン・ザ・ウエスト」の昔~昔~西部で・・・のほうがピッタリな気がしますね。
主な登場人物は4人。
それぞれが相当癖のある輩。
冒頭から突然出てくるハーモニカを吹く謎のガンマン、ハーモニカ(チャールズ・ブロンソン)。
あの耳にとてつもなく残る単調な旋律。
そのリフレインはなんとも強烈で、ブログを書いている今も耳に残っていますw。
そのメロディーを奏でながら、場面場面とにかくゆっくりと(全編ほとんど動きがゆったりとしていますw)登場するのです。
どうしてハーモニカを吹いているのだろう?と、観客は思うはず。
最後の最後にその謎が明かされます。
本当に最後になってみないと真相がわかりません!!
また、なんといってもあのアメリカの良き人、ヘンリー・フォンダが嫌らしいほどの悪役、殺し屋フランクを演じているのも見どころです。
本当に 憎たらしいく残虐なキャラを演じています。
当時はヘンリーフォンダがそのような役を演じることに対して、拒絶するアメリカ人が多かったらしいです。
強盗団のボス、シャイアン(ジェイソン・ロバーズ)が、とんでもないどんでん返しでいい味出しています。
最初登場した場面では、やべぇ奴!!
これぞまさしくマカロニウエスタンの悪役と思うほどの登場。
しかぁ~~し、しかし、実は・・・だったのです!
「うまい、おふくろと同じだ、熱くて濃くてうまいやつだ!」
といってコーヒを飲みます(観ている方はわかるかも)。
そして、紅一点の未亡人ジル演じるクラウディア・カルディナーレが、男臭い中でスパイスをきかせて要所要所いい潤滑油になっています。
この4名の人間模様にも目が離せません。
セルジオ・レオーネ監督作品では、
「荒野の用心棒」
「夕日のガンマン」
「続・夕陽のガンマン」
をドル箱三部作と呼ぶのに対して、
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ ウェスト」または「ウエスタン」、
「ミスター・ノーボディ」、
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」
をワンス・アポン・ア・タイム三部作と呼んでいます。
その三部作の1作目がこの作品です。
この作品のテーマはウィッキペディアによると、
レオーネは当初本作品を自身が監督する最後の西部劇映画だと認識していた。<中略>映画に登場するハーモニカ、フランク、シャイアンの三人のガンマンたちは単純な西部劇の英雄や悪漢ではなく、時代の流れに抗しきれず居場所を奪われた男たちとして描写されている。
本作品では鉄道が彼らに西部開拓時代の終わりを告げる象徴的存在として登場している。また、『ウエスタン』はそれまで映画中に女性をあまり登場させなかったレオーネが、初めて本格的に女性に焦点を当てた作品でもあるようです。
納得ですね。
西部劇のオマージュがいたるところに登場!
さてさてこの映画、過去の西部劇作品へのオマージュシーンがてんこ盛りです。
個人的には相当古い映画もあるので、全てはわかりませんでしたが・・。
「真昼の決闘」はもとより、「ダニーボーイ」「アイアンホース」「シェーン」「大砂塵」などなど西部劇通には見逃せないですよ。
もっと色々とあるとは思いますが、とにかくどこのシーンがそうなのかなと映画を観ながら楽しむのもまた良しです。
冒頭からひきつけられるシーンもそのひとつでしょう。
冒頭のシーンは映画「真昼の決闘」のオマージュでしょうか。
汽車が2時間遅れと駅舎のボードに書かれている。
ただし「真昼の決闘は」定刻通りに到着しています。
駅で何かを?何者かを待ち伏せする3人。
西部劇の悪党で鳴らしたジャック・イーラム、ジョンフォード映画の常連黒人俳優ウディ・ストロードが登場して、なにやら思わせぶりの冒頭シーン。
ただし、本編に入る前にそのゲストのイーラムとストロードはあっという間に死んでしまいますw
その駅のシーンでは、アブラ切れで鳴っている風車の音がキ~コキ~コと耳残る。
監督はこのアブラ切れの風車の音がたいそう気に入ったらしく、スタッフが油を差しましょうかと伝えたところ、油をさしたら殺してやると言ったとか。
その音も含めBGMは音楽は一切なく、自然音のみの長~い冒頭シーンは何を意味しているのか?
けっして本編のストーリーにはさして重要ではなさそう。
本編に入る前の、無駄に長い冒頭シーンともとらえられてしまいそう。
ただこの無駄の様なシーン、映画を見ている観客は、この冒頭シーンから既成のマカロニウエスタン、そして既成の西部劇の展開とはあきらかに異なることに気づくことになるのです。
監督のこだわりが出ていますね。
そしてこの映画は、先ほども記述したように、それまでのヒット作「荒野の用心棒」「夕日のガンマン」「続夕陽のガンマン」とはちょっと「違ったテイストになっています。
サイレントからトーキーへの変貌の時代、トーキ―になじめなかったサイレント俳優が去っていくのと同じように、大西部を馬で移動しながら開拓していったガンマンたちが、鉄道という新たな交通手段が現れ、それによって財産を築いていく者に追われていくガンマンの姿も描いている。
またその他色々な要素が盛り込まれているだけに、マカロニウエスタンのすかっとしたティストとは異なっていると思われます。
複雑に絡み合って変革していく社会、男女の関係の逆転など未来を見据えた革新的な世界を、ゆったりとした時間の流れの中で、展開される物語を堪能できることでしょう。
個人的にはこの作品は、もっと評価が高くても良いのではと思ったりもします。
他の有名どころの西部劇映画より、評価が低いのではと感じているのは私だけでしょうか?
新しい技術に乗って開拓地に来た者と、時代に取り残された者の大河ドラマ!!
見ごたえのある作品でした。
(おまけ)
クリントイーストウッドの出世作レオーネ監督作品「荒野の用心棒」。
この作品については当初、主役をチャールズ・ブロンソンに依頼していたよう、しかし彼が一蹴してイーストウッドに、そしてまた今作品で悪党を演じるヘンリーフォンダにも熱望していたらしいのです。
ただまだその時はレオーネ監督は駆け出しで、夢がかないませんでした。
その後の活躍によって今作品で、その断られた二人が出演して夢がかなったっわけです。
ワイアットアープやリンカーンなど良き人を演じてきたヘンリーフォンダ。
そのアメリカの正義と言わしめたヘンリーフォンダは、悪役としてクラウディア・カルデナーレを犯す役を今作品のなかで演じています。
また彼が家に残された子供を殺すシーンがでてくるのですが、アメリカでの上映時ではカットされたようです。
彼が悪役を演じるところもこの映画の見どころなのですが、どうもアメリカでは駄目だったようです。
そのこともあってかフランスなどヨーロッパや日本ではヒットしましたが、アメリカでもヒットはしなかったようですね。
アメリカでカットーされたシーンでは、ヘンリーフォン演じるフランクの住処のような場面で、先住民の遺跡が映し出されるのですが、そのシーンもアメリカではカットされていたようです。
西部開拓という観点からみると、最初のほうに出てくる頑丈な家そして井戸が、後々この映画のポイントになっていることがわかってきます。
煉瓦の建物とテントが混在する、どちらが発展してどちらが衰退するか・・。
この町が建設されていくシーンなどは、第4回アカデミー賞作品賞の映画「シマロン」を彷彿させます。
こんな俳優さんも出ていました。
駅から馬車でクラウディア・カルデナーレを送る男サム演じるパオロ・ストッパはビスコンティ映画の常連のイタリアの俳優さんです。
どこかで見たことあるなと思っていたらでしたw
ハーモニカとフランクの最後の決闘シーンは、映画「ガンファイター」と似ていますね。
その決闘シーンですが、ブロンソンのアップシーンがこれでもかと映し出されます。
ハーモニカの視線と観客が一体になるがごとく、
ゆっくりと、
セリフはなくゆっくりとフランクとの間合いをつめる、
ハーモニカの記憶が映し出される、
若きフランクが近づいてくる、兄の姿が・・・・・
ここで全容がわかります。
兄は吊るされていて、
子供の頃のハーモニカの肩に乗って一命をつないでいる。
このシーンは映画「続夕陽のガンマン」の拷問のシーンにも似ています。
フランクは叫びます。
お前は誰なんだ・・・。
ハーモニカがフランクの口に自分の吹いていたハーモニカを押し込む。
いやぁ~たまらないシーンの一つでもありました。
最後は、ハーモニカもシャイアンもこの街を出ていく。
その後、いやぁ~なんでそうなるの??というようなどんでん返しがあります!!
これまた見どころの一つです。
フロンティアが消滅しつつあった西部開拓時代末期。
彼らの生きる道はないのでしょう。
しかし気丈な未亡人ジルは新しい社会に適応したくましく生きていくのでしょう。
めでたしめでたし~~!
5点満点中4.2
冒頭のシーンご覧ください。風車がキーコキーコなっています。