私は、Twitterで色々な方とつながらせてもらっています。
アウトドアを楽しんでいる人、ブッシュクラフトに関心のある人、新進気鋭のカスタムナイフメーカーとしてその名が知られるようになってきた人、著名な鍛造作家から手ほどきを受けた経験を持つ人、あるいは狩猟をしその中で刃物を使っていく人……。
本当に挙げていけばキリがないほど、自分にはない経験を持つ人とつながることが出来ています。このブログでもそうですよね。
狩猟など実践での刃物の扱いに長けた経験豊かな人、ナイフの素晴らしいコレクター、なにかとアドバイスを下さる通りすがりのかた……。
そのなかで、最近、ちょっと「ファイティングナイフ」についてのトピックをちらほらと目にするようになりました。
ファイティングナイフとは、読んで字のごとしというヤツで、「ファイティング」=「戦闘」を主目的にしたナイフ、ととりあえずは言えましょう。
実際のところ、私はそういうナイフより「素朴だけれども、実用性が高く、タイムプルーフを経てきているもの」が好きなんですが、ファイティングナイフというジャンルを見ていくことで、ナイフに関して、別の角度から見ることが出来るようになったり、といった効能も大いに認めたいところです。
ナイフのカタログや、本もそれなりに持ってますし、読んでいます。
大体、どの本を開いても、「ファイティングナイフ」について程度の差こそありますが、記述がありますよね。
カタログを見ても、カスタム/ファクトリーを問わず、「〇〇〇ファイティング」とか「〇〇〇コンバット」とか、そういう品番でそれがファイティングナイフであることを示していることも非常に多いです。
で、twitterのほうでチラリと見たのですが、「理想的なファイティングナイフの要件とはなにか?」みたいなトピックがあって、自分も頭の片隅でちょっとづつ考えていました。
今回の記事は、それを少しアウトプットしてみようかな、という趣旨のものです。
何か結論を出したり、というよりは、雑感をとりとめなく書きつける、といった類のものだと思って下されば幸いです。
■主目的をわける
私の場合、ファイティングという特殊な状況(アウトドアユースでは、全く関係がない!)に、どんな目的を持たせるのか、というところから考えたいと思っています。
多分、ファイティングナイフは、
・刺突に重きを置いたもの
・斬撃に重きを置いたもの
・その折衷
・汎用性を持たせたもの
と、大体、4つくらいに大別できるんじゃないかと思うのです。
これ、案外大事で、スティレットのような小型の剣は刃がついていないことも多く、「刺突」を主目的にするのであれば「刃(エッジ)に関してはこだわらなくてもいい」ということも、言えそうだからです。
つまり、何を主目的にするか、で重視する要件が変わってくる、というわけです。
ファイティングナイフとして、各書物に必ずといってよいほど掲載されるガーバーのマークⅡがあります。法的な部分は置いておくとして、これはいわゆるダガータイプで、その原点には、イギリスのフェアバーンサイクスがあるのでしょう。
これらのナイフは「刺突」に重きが置かれていると考えられます。
ダブルエッジの刃は、対象に刺さりやすいというのは誰でもわかります。
これは当然、日本では所持は禁止。
さきほど、刺突を主目的にしたものであれば、刃にはそこまでこだわらなくてもいい、なんて書きましたが、いまだに英軍で使われているフェアバーンサイクスは、ブレードのHRCが51だそうです。
これは相当柔らかいと見ていいでしょう。
一般的に私達がスポーツユース、アウトドアユースで使うナイフが、56~60くらいの範囲に収まるとすれば、かなり柔らかい刃であると言えましょう。
また、刃の硬度があがれば一般的に切れ味も良いわけですから、フェアバーンサイクスのそれは、「エッジの切れ味や、刃保ちはそこまでよくない」ともいえるでしょう。
一方で、硬度が低い故の恩恵もあります。
それは、対象に刃を刺した時、「刃が折れにくい」のです。
堅いブレードであれば、ポキッと折れてしまうことがあります。家庭用包丁で冷凍食品に刃を入れ、ちょっとこじったら刃が欠けた、折れた、という経験を持つ人も多いと思います(我が家でもそれでポイントが欠けたキッチンナイフがあります! ダイヤモンド砥石で修正しちゃいましたが)。
■斬撃用のファイティングナイフはあるか?
と、刺突をメインとしたファイティングナイフをちょっと考えたわけですが、一方で、斬撃……つまりカッティングをメインとしたファイティングナイフ……について考えると、ちょっと行き詰ってしまうんです。
というのは、
2人の男が荒野で向かい合っている。
それぞれが、愛用のナイフを手に取り、互いににらみ合い一触即発の気配がある。
1人がそのナイフをひらめかせ、斬撃を見舞うと、もう1人が、やはり自身のナイフでそれを払う。この一挙動を終え、2人はまた何事もなかったかのように、元の位置に戻り、ナイフを構えたまま互いをにらみつける。
みたいなシチュエーションはどーしても想定しにくいからなんです。
つまり、チャンバラのような状況って現代ではありえないですよね。ま、それは刺突用のナイフにも言えることなんですが。
フェアバーンサイクス、およびガーバーマークⅡは、軍活動のなかで発達したナイフで、よくサバイバル系(というよりミリタリー系か)の本の中に出てくる「音を立てずに歩哨を始末する」なんてシチュエーションでは有用ですが、それで斬りつけるって、ちょっとイメージが違いますよね。
それに、素肌とナイフで斬りあうわけじゃなくて、ファイティングの状況って相手も自分も服を着ています。案外、服の上からナイフで斬りつけて重傷を負わせるって難しいと思いますよ。
それが可能な要件は、
・切れ味がとても良いナイフであること
・重みがあり、切れ味をその重みで増加させることが出来るもの
などでしょう。
すると、簡単に解決できる部分としては、「ナイフを重く、長くして重量を活かせるようにする」という要件がまず浮上してきます。
何しろ、切れ味の増加は、鋼材や刃付けといった部分で労力を割かないといけないのですが、ナイフの重量増加は、「サイズを大きくしてやる」「厚みを多くとり、重量をあげる」といった比較的簡単な方法で実現できるからです(また、ナイフもつきつめれば鉄の板ですから重量があるものをぶつければ、ダメージを与えられます)。
となると、今度はそのナイフは「重く」なり、携行するのが大変になってきます。
「よし、今からナイフファイティングにいくから、この重厚なブレードのものを持っていくとしよう!」みたいな、シチュエーションもなんか変です。
一方で……。
「ナイフを薄くして切れ味を上げる」という方法ももちろん想定できます。
これは「重量を上げ、その重量を切れ味に加算させる」というのと、逆の方法です。
けど、これだとナイフの強度に問題が出てきます。
また、相手が厚手の服を着ていたりすれば、刃が通りにくいということもありましょう。
現実問題、斬撃(及び刺突)を担っているのは、軍活動でのシチュエーションの場合「銃剣」ということになりましょうか。
銃に装着し、槍のようにすることにより、遠心力や重量を斬撃力に加算できますし、刺突だって出来ます。
「ナイフ」単体として、斬撃向けのものデザインするって結構難しいと思うんですよね。
■セレーションは有効か?
ナイフのカタログなんかを見ていると、「〇〇〇コンバット」なんて名前がついていて、見るからにいかめしい感じのナイフがあります。
そういうナイフは、背の部分がセレーション(≒ノコギリ)になっていたりするんですが……私はこのセレーション、ナイフファイティングには向かないと思います……。
というのも、セレーションエッジは「スパッと切る」のではなく、「そのギザギザを利用して、対象をひっかけ、引き裂く」ようなものだからです。
たとえば、こんなナイフがありますが、ブレードバックのかなりの部分をセレーションが占めています。
セレーションは、斬りつける際、相手の服や装備品(バッグやベルトとか)に引っかかり、一瞬動きが止まることが想像できます。すると、やはり……ちょっと向いてないんじゃないかなぁ? という気がしてならないのです。
私達も野外でヤブの中に入ったりする時、植物のトゲが服に引っかかって、動けなくなることありますでしょう? あれと同じことが発生するというわけです。
ガーバーのマークⅡの場合は、ブレードの真ん中くらいにセレーションがあり、また、刺突用と想定されますから、そのセレーションは「傷口を広げる」ためのものと分かります。
なので、セレーションが有効な状況って、「刺突用のナイフ」に限るんじゃないかと思います。また、その場合であっても、ポイント付近にあると抵抗感が増し、刺さりにくくなるので、自ずとその位置も決まってくるような。
■やっぱりシチュエーションが大事
ブレードの形状からあれこれ考えてみたのですが、それ以上に大事だと思うのは、やはり「ファイティングナイフを使用するシチュエーション」ですよね。
ただ、これも現実的でなくて、「いざという時のために、ファイティングナイフを日ごろから持ち歩いておこう」なんてのは、アウトですから。
軍活動に従事していない私達からすれば、ファイティングナイフを身に帯びる必要性がそもそもないんです。
あくまで、コレクション的なものとして考えるならば楽しいものですし、ナイフそのものに対する理解も深まる気はするんですけれどもね。
となると、「汎用性を持たせたもの」というナイフが、私達が手にすることが出来、また実際に使用できるナイフということになりましょうか。
これは定番の品があります。
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ケーバーの名称で知られるこうしたナイフです。
ファイティング、と名前についていますが、実は汎用性を持たせたナイフでして、発売当時の広告に「ジャングルを切り裂き、テントペグを作り、敵を殲滅する」なんて文句が書いてあったそうなのです(参考:『フィールドナイフの使い方』)。
とすると、やはりケーバーも汎用性を持たせたファイティングナイフと言えそうです。
これはアウトドアで使っている人も多いですよね。
以前、ご紹介した北欧のブッシュクラフト系団体のインストラクターの中にも、ケーバーを使う、といっていた人がいました。
日本で「ファイティングナイフ」を考えるとなると、やはり法律の問題だったり、「そもそもそんなことをする必要がない」ということだったりで、考えが小さくまとまってしまいがちです。
一方で、「狩猟」ということを考えると、また少し話は違ってきます。
留めを刺す、解体する、なんていうシチュエーションではファイティングナイフの要素が活きてくるシーンもきっと多くあると思います。
そういう方以外、基本的にファイティングナイフを使う必然性ってないんですよね。
いざ、という時に使える! という主張はありましょうが、「そのいざ! が来ないようにする」ほうがよっぽど大事です。危ないところには近づかないとか、トラブルを避けるとか……。
余談ですが、ナイフの神様ラブレスにもファイティング系のモデルがあります。
ラブレスは、「人を傷つけるナイフは嫌いだった」なんて話もありますが、エッジ方向だけでなく、ブレードバック方向にもホローグラインドされた結果、刺突に向いているナイフとなっているように思えます……。なぜなら、断面図が「十字型」に近くなり、刺しやすいからです……。
ま、戦闘のため、ファイティングのためでなく「ナイフを知るため」に、こうしたナイフについてたまには考えてみるのも面白いものです。
それでは、また。