こんにちは、内科医 ひとちゃんです![]()
8月になりました。
相変わらず、暑い日が続きますね。
本格的な「夏の日」が続きますと・・・若い頃であれば「海」に行きたいなどと、反射的に思ったりもしたのですが・・・
今では、年齢のせいか、そのように思わなくなりました。
あの有名な「ひまわり」の作品を描いた(えがいた)オランダの画家
ゴッホは次のような言葉を残しています。
The heart of man is very much like the sea, it has its storms, it has its tides and in its depths it has its pearls too.
人の心は海とよく似ていて、嵐があって、潮の満ち引きがあって、
深さがあって、そして真珠もある。
ゴッホ(フィンセント・ファン・ゴッホ )の絵画は、誰でも1度はもにしたことがあるかもしれませんね。
「ひまわり」は、最も有名ですが・・・「星月夜」、「夜のカフェテラス」などと素敵な絵画が多いですよね。
少し調べてみますと・・・ゴッホが生きている時に売れた絵は、
たった1つしかないそうです。その絵は「赤い葡萄畑(ぶどうばたけ)」という絵なのだそうです。
ゴッホの死後、彼の弟テオも半年後に亡くなってしまったそうですが、テオの妻ヨーという方が、ゴッホの絵の回顧展(かいこてん)を開くなどして、ゴッホの絵の価値を高めるための努力を続けたそうです。
このことが、のちに「ゴッホ」が世界的な画家として認められることにつながったのだとか。
前回は「動脈硬化」の話題とさせていただきましたが、今回は「癌細胞」に「ウイルス」を感染させて、「癌細胞」を破壊する・・・
という新しい癌の治療が報道されていますので、その話題をご紹介してみたいと思います。
先月の31日に東京大学と信州大学の研究チームが、皮膚癌の一種である「悪性黒色腫(メラノーマ)」の患者さんに対して、ウイルスを使って「癌細胞」を破壊するウイルス療法が高い有効性を示すことができたことを発表しました。(毎日新聞内記事より)
その詳細な内容は、同紙の内容をお読みいただくとして、
どうして、「ウイルス」を「癌細胞」に感染させると、
それを破壊できるのか?・・・と疑問を持つ方も多いと思いますので、そのメカニズムについて、お話をしてみようと思います。
この治療の正式な名称は、「がん治療におけるウイルス溶解療法(oncolytic virus therapy)」と呼ばれるものになります。
「癌細胞」の自己複製メカニズムを逆手(さかて)に取った革新的な治療法として急速に発展しているものということになります。
この治療法の原理は、「癌細胞」のみに選択的に感染し、
「癌細胞」のみを破壊することができる特殊なウイルスを用いて、
直接的な「癌細胞破壊」と、それに伴って(ともなって)生じる
「免疫系の活性化」という2つのことが、抗がん作用をもたらすものとされています。
もう少しだけ専門的な話をしますと・・・
この「癌に対するウイルス溶解療法」は、「癌細胞」が持つ特有の分子生物学的な欠陥(けっかん)をうまく利用しているとも言えます。
いったい、どのようなことなのでしょうか?
それは、次のようなことになります。
「癌細胞」の多くでは、p53経路やRB経路などの重要な細胞制御機構が破綻していることが多いとされます。
例えば・・・「p53遺伝子」は、以前にブログ内でもお話をしたことがありましたが、「DNAの守護神」と呼ばれるものでしたよね。
本来であれば、DNAに異常がありますと「p53タンパク」は、「p21タンパク」を誘導して、細胞周期の回転をストップさせます。
この細胞周期の回転がストップしているうちに
異常な遺伝子を修復するのですが・・・癌を発症している方の半数以上が「p53遺伝子」に変異が起きており、そのために正常な「p53タンパク」が作られません。
さらにその状態では、「p21タンパク」を産生することができないために癌細胞は分裂増殖を繰り返していくことになります。
なぜなら「p53タンパク」は「転写因子」でして、「p21遺伝子」を発現させて、「p21タンパク」を産生されることによって、「細胞周期」の回転がストップするからですね。
こうした「p53遺伝子」の異常は、実は「ウイルス感染」にとって、有利な状況をつくり出します。
その理由は、以下のようなものになります。
1)アポトーシス回避
p53が機能しないと、ウイルス感染細胞が本来なら死ぬべき状況でも生存し続け、ウイルス増殖の場を提供する
2)細胞周期制御の破綻
ウイルスが細胞の増殖機構を乗っ取りやすくなる
3)免疫応答の低下
p53は自然免疫応答にも関与しており、その機能低下はウイルスの排除を困難にする
などという理由があるからということになります。
つまり、「癌に対するウイルス溶解療法」は、本来であれば細胞の異常増殖を抑制するはずの「抗ウイルス機構「が、癌細胞では機能不全を起こしていることを利用しているわけですね。
さらに癌細胞内のウイルスは、次のようなプロセスで癌細胞を破壊します。
1. 初期感染:ウイルスが癌細胞に特異的または非特異的メカニズムで侵入
2. 急速複製:DNAとタンパク質が細胞質、または核内で合成される
3. 細胞溶解:感染後48-72時間で感染細胞が破壊され、子孫ウイルスが放出 4. 拡散増殖:放出されたウイルスが近隣の腫瘍細胞に感染し、感染が拡大 する
4.アポトーシス誘導メカニズム 溶解ウイルスは複数の経路を通じてがん細胞のアポトーシスを誘導する。
といったプロセスですね。
これで、「癌細胞」は次々に破壊されていくというわけですね。
そして、実はもうひとつ、大きなメリットがあるのですが、続きは後日の話題にしたいと思います。
素敵な1週間をお過ごしください![]()
それでは、また![]()
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< ブログ後記 > 8月5日
真夏の厳しい暑さが続いてますね。
群馬県伊勢崎市では、気温は41.8℃となり、日本国内の最高気温を更新したというニュースがありました。
ヒトの高熱以上にまで上昇する気温を見ると、これまでの夏の常識が通用(つうよう)しない領域に入っているような気さえします。
今回の話題での「癌」に対する治療に「ウイルス」を用いるという話題は・・・これもまた、癌治療の常識が通用しない摩訶不思議(まかふしぎ)な話であるという印象を持つ方も多いかもしれません。
「癌」の治療にウイルスを用いる「ウイルス溶解療法」に
私が関心を持ったのは、2023年の秋であったような気がします。
同年に目にした、ハーバード大学の論文は、「腫瘍溶解ウイルス」を実際の患者さんの反応を調べた研究でした。
この論文に関連して、以下のような解説文が紹介されています。
ウイルスにより溶解した「癌細胞」から癌抗原に対する免疫反応を利用することで、全ての「癌細胞」を殺せなくても、免疫系を動員して癌を抑制する可能性があると述べられていたと記憶しています。
この治験ではCAN-3110と名付けた「ヘルペスウイルス」がを直接脳腫瘍内に注射する治療が行われています。
有効性が確認された患者さんの「癌病変」から手術時に標本を作製してています。
癌組織への細胞浸潤を調べてみると、壊死した組織の周囲に多くの
「 CD8T細胞」、「CD4T細胞」が浸潤していることが確認されたと報告されています(参考1)
CD8T細胞は、「細胞障害性T細胞」ですし、CD4T細胞は「ヘルパーT細胞」となりますね。
癌治療における「ウイルス溶解療法(oncolytic virus therapy)」は、がん細胞の自己複製メカニズムを逆手に取った革新的な治療法として急速に発展してきているわけです。
この治療法は、「癌細胞」を選択的に感染・破壊する特殊なウイルスを用いて、直接的な「癌細胞破壊」と「免疫系の活性化」という二重の抗がん効果をもたらすとされています。
本文内でも話題としましたが、「ウイルス溶解療法」の主要なメカニズムをまとめてみますと、以下のようになります。
【 1 】直接的ながん細胞破壊(溶解)
ウイルスは、癌細胞に選択的に感染し、その細胞内で増殖します。
最終的にがん細胞を破壊(溶解)してウイルス粒子を放出します(参考2)
この時間は短く、感染後48-72時間で感染した「癌細胞」が破壊され、増殖した子孫ウイルスが放出されると考えられています。
このようにウイルス感染した「癌細胞」が破壊されるメカニズムは、次のようなものになります。
「癌細胞」内で大量に「ウイルス」が、複製されることで、細胞の正常な機能が阻害さたり、細胞質や核の構造が破綻すると考えられています。
さらにウイルスが産生する蛋白質が、「癌細胞」の生存に必要な
蛋白質合成や DNA 複製により- 細胞周期の停止や DNA 損傷応答の活性化により、癌細胞が破壊されると考えられています。(参考2,3)
【 2 】免疫システムの活性化
「癌細胞」が壊れることで、癌抗原や炎症性分子が放出され、これが「免疫細胞」を刺激します。その結果、癌細胞に対する「自然免疫」・「獲得免疫」が強化されます(参考4,5,6)
「自然免疫」とは、「ナチュラル・キラー(NK細胞)」などですし・「獲得免疫」は、「細胞障害性T細胞(CD8+T細胞)」や
「ヘルパーT細胞(CD4+T細胞)などということになりますね。
【3】癌関連線維芽細胞(CAF)などで形成される「がん微小環境(TME)」の変化
「がん微小環境(TME)」は、「癌細胞」と「癌関連線維芽細胞(CAF)」など多様な細胞で構成され、「治療抵抗性」や「免疫抑制」に関与するとされています。
(図はお借りしました)
「ウイルス溶解療法」は、「がん微小環境(TME)」に対して、
「がん細胞の直接破壊」と「免疫環境の再構築」という2つの
メカニズムで効果を発揮すると考えられています。
例えば、以前にブログ内でもお話をしましたが・・通常の場合、「癌細胞」と「がん関連線維芽細胞(CAF)」など多様な細胞で構成される「がん微小環境(TME)」は、全体的に「免疫」が抑制される
「コールド(cold)」な状態になっていると分かっています。
(図はお借りしました)
この「免疫抑制状態」の特徴的な所見のひとつが「M2型のマクロファージ」となりますね。
この状態では、血液中に「細胞障害性T細胞(CTL)」が多く存在していても、癌病変を認識(にんしき)できずに素通り(すどおり)してしまうとされています。
「ウイルス溶解療法」を施行し、癌にウイルスが感染することで、癌細胞が破壊されることで、放出された「癌抗原」や「炎症シグナル」が、免疫細胞(T細胞など)を活性化させ、免疫抑制的な「がん微小環境(TME)」「免疫活性化型(hot)」に変化させることが知られています。
この「免疫活性化状態」の特徴的な所見のひとつが「M1型のマクロファージ」となります。
この状態になりますと、一部の「腫瘍溶解ウイルス」では、「がん関連線維芽細胞(CAF)」や「腫瘍間質細胞」も標的とし、線維性バリアや免疫抑制因子の分泌を減少させ、ウイルスや免疫細胞の浸潤を促進することも報告されています(参考7)
ただし、癌に対して「ウイルス溶解療法」のみの治療よりは、「免疫細胞療法」、免疫チェックポイント阻害薬であるオプジーボ(ヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体)を併用した方が有効性が高いとする
報告や、また、癌に対する抗がん剤治療を施行する際にも
「抗がん剤」と「ウイルス溶解療法」を併用することで相乗効果が期待できるという研究報告があります。両者は異なる作用機序を持つため、組み合わせることで単独治療よりも高い治療効果が得られる可能性があるというのが理由であると報告されています(参考8)
「ウイルス」というと拒否感を示す方もいらっしゃるかもしれませんが・・・ヒトに感染する「ウイルス」ばかりではありません。
「癌細胞」の表面にレセプターがあるなど、「ウイルス」が「癌細胞」のなかに入り込める仕組み(しくみ)が存在すれば、よいわけですね。また、ヒトのDNAなどの遺伝子の組換え(くみかえ)が起こらないウイルスであれば適応があるということになります。
最近では、「植物」のウイルスが「癌のウイルス溶解療法」が可能である可能性も示され、まさに「ホット(hot)な話題」になっているのですね。
今回も最後までお付き合いいただきまして
誠にありがとうございました![]()
参考)
1)Nature. 2023 Nov;623(7985):157-166.
Clinical trial links oncolytic immunoactivation to survival in glioblastoma
Alexander L Lingら
2)Signal Transduct Target Ther. 2023 Apr 11;8(1):156.
Oncolytic virotherapy: basic principles, recent advances and future directions
Danni Linら
3)Cell Death Dis. 2020 Jan 22;11(1):48.
Characterization of virus-mediated immunogenic cancer cell death and the consequences for oncolytic virus-based immunotherapy of cancer
Jing Maら
4)Int J Mol Sci. 2024 Apr 25;25(9):4691.
Molecular Circuits of Immune Sensing and Response to Oncolytic Virotherapy
Darshak K Bhattら
5) Viruses. 2016 Feb 4;8(2):43.
To Infection and Beyond: The Multi-Pronged Anti-Cancer Mechanisms of Oncolytic Viruses
Kevin A Cassadyra
6)Trends Cancer. 2024 Feb;10(2):135-146.
Integrating innate and adaptive immunity in oncolytic virus therapy
Kristin DePeauxら
7) Mol Ther. 2021 May 5;29(5):1668-1682.
Beyond cancer cells: Targeting the tumor microenvironment with gene therapy and armed oncolytic virus
Peter Kok-Ting Wanら
8)Curr Pharm Biotechnol. 2012 Jul;13(9):1817-33.
Bugs and drugs: oncolytic virotherapy in combination with chemotherapy
Sonia Tusell Wennier
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院長
小笠原 均 (Hitoshi Ogasawara)
医学博士, 内科医
(総合内科、リウマチ専門医)
(新潟大医学部卒)
<今週、なんとなく聞いてみたい曲>
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<JTKクリニックからのお知らせ>
◯外来診療は予約制をとり、待ち時間が生じないようにしています。
◯ ダイエット漢方製剤は、オンライン診療でも可能です。
◯ 線維筋痛症に対するノイロトロピン等の点滴療法、トリガーポイント注射を行なっております。(セカンドオピニオン診療も可)
○自分の皮下脂肪から組織を採取し、「間葉系幹細胞」を培養して、自分自身の組織内に投与する「幹細胞治療」を開始しました。
<JTKクリニック 所在地>
〒102-0083
東京都千代田区麹町4-1-5麴町志村ビル2階
電話 03-6261-6386
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