作曲家+俳優の小林亜星(こばやし・あせい)氏が5月30日心不全のため逝去した。88歳だった。

作曲家としては、都はるみ「北の宿から」や日立グループ「日立の樹」、ブリジストンタイヤ「どこまでもいこう」などのCM曲を多く手掛け、俳優としてもTBS系ドラマ「寺内貫太郎一家」に主演するなどマルチに活躍した。

生涯で手掛けた楽曲は6000曲超という。CM曲が多いので、筒美京平とは楽曲数だけでは比較できないが、多作で、かつヒット作が多い。

「パッとさいでりあ」(新興産業)など作曲を手掛け、自らも出演するCMもあった。

 

なお、小林は、東京生まれで、慶応大卒業後、サラリーマン生活を経て作曲家の服部正さんに師事した。1961年、レナウンのCMソング「ワンサカ娘」が出世作となった。以来、サントリーの「夜がくる」や明治製菓の「明治チェルシーの唄」、ブリヂストンの「どこまでも行こう」、日立の「日立の樹(この木なんの木)」など、親しみやすいメロディーのCMヒット曲を多く生んだ。  アニメの主題歌も多く手がけ、「魔法使いサリー」「ひみつのアッコちゃん」「科学忍者隊ガッチャマン」などが知られる。  都はるみさんが歌って大ヒットした「北の宿から」は76年に日本レコード大賞を受賞した。

<CM曲> 1961年 レナウン「ワンサカ娘」  67年 サントリー「夜がくる」  71年 明治製菓「明治チェルシーの唄」  73年 日立「日立の樹(この木なんの木)」

なお、「どこまでもいこう」は代表的CM曲リストには入っていない。 

<歌謡曲ほか> 1972年 「ピンポンパン体操」  75年 「北の宿から」

<アニメソング> 1966年 「魔法使いサリー」  69年 「ひみつのアッコちゃん」  75年 「まんが日本昔ばなし」  79年 「花の子ルンルン」  80年 「怪物くん」  82年 「あさりちゃん」

 <出演ドラマ> 1974年 「寺内貫太郎一家」 2002年 NHK連続テレビ小説「さくら」

 

ところで、小林亜星といえば、音楽業界では、「記念樹」裁判の原告で、最終的に勝訴したということでも有名だ。

これは、2000年代に入って起きた「盗作+名誉毀損」訴訟である。

相手は、大物作曲家の服部克久(故人)であった(服部克久は、服部良一の子息で、その子息は音楽家の服部隆之である)。

 

この事件に関しては、そもそも盗作の立証が困難であるとか、「音楽著作権協会内の政治抗争」の場外編だったとか、楽曲におけるオリジナリティの概念自体が西洋近代固有の音楽システムの一部で、大衆音楽の実践にはなじまないとか、いろいろ言われた。

じっさいこれ以上のパクリが横行する歌謡界で、この問題がここまでこじれたのは、やはり「音楽著作権協会内の政治抗争」という色彩が強かったのではないかと思う。

この裁判以降も、これ以上の巧妙な(巧みな)パクリ(とくに外国曲の雰囲気のパクリ)は一般化(横行)しているような気がするが、その適否や是非については、ここでは触れない。

 

で、この「記念樹」事件での感想だが・・・

 

印象として、たしかに、似てはいるが、そっくり、というほどではない。

小林亜星の「どこまでも行こう」のほうがCMということもあって、印象が強い。

服部克久の「記念樹」のほうは、メロディーラインがスムーズな感じではない。

が、アレンジは似ているようにも思える。

いずれも、youtubeでも聴ける曲なので、一度聴いてみるといいだろう。

 

 

 

せっかくなので、もう少し詰めてみよう。

 

「記念樹事件」は、1992年に発表されテレビ番組のエンディング・テーマとして放送されていた楽曲「記念樹」が、1966年にCMソングとして発表された既存楽曲の盗作であるとして、この既存楽曲の作曲者・小林亜星と著作権者である音楽出版社が、「記念樹」の作曲家・服部克久氏に対して損害賠償を請求する訴訟を提起した事件だ。

 

判決の内容については批判もあるが、実務上東京高裁の判決は相当程度重視されるので、今後同種の案件が訴訟となった場合は、この判例の採用した定義や判断手法が適用される可能性が高い。

 

なお、異なる楽曲として公表された2つの楽曲間の複製または編曲の成否が争われた先例は乏しく、現行著作権法に基づく裁判例で公表されているものとしては、「ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件」*1)(東京高判昭和49・12・24)および、この「記念樹事件」(一審・東京地判平成12・2・18、控訴審・東京高判平成14・9・6)という程度のものだ。

 

 

 

 

 

 

 

  *注 1)  「日野てる子」などの歌で、原告はアメリカの作曲家ハリー・ウォーレン、被告は鈴木道明氏(同曲の作詞作曲者)である。

  鈴木道明のつくった「ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー」が、アメリカのハリー・ウォーレンがつくった「夢破れし並木道 (Boulevard of Broken Dreams)」に依拠しているかどうかが争われた事件である。

  このワンレイニー事件判決により 「偶然の暗合」は著作権侵害にならない、 ということがはっきりと示された。

 

それで、「記念樹事件」の控訴審判決のほうだが、これは、「編曲権侵害」の判断基準および判断例を初めて示したものと理解されていて、その点が重要だとされている。もちろん、「類似性」の判断もなされたのだが。

 

さらに、編曲権侵害の成立要件、や「類似性」の判断手法、などの判例の論点については、またの機会に・・・

 

 

  そこで、一句    「どこまでもいこう」とささやく五月闇    ひうち