名建築に泊まる「雲仙観光ホテル」九州随一のクラシックホテル(長崎県) | ひつぞうとおサル妻の山旅日記

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名建築シリーズ91

雲仙観光ホテル

 

往訪日:2024年4月30日~5月1日

所在地:長崎県雲仙市小浜町雲仙320

■時間:(IN)14時(OUT)11時

■料金:58,000円/人(プレミアムツイン税別)

■客室:37室(各種あり)

■アクセス:長崎道・諫早ICから1時間

■駐車場:無料(車寄せ両脇に約30台)

■設計:相良敏夫(竹中工務店)

■施工:竹中工務店

■竣工:1935年

■国指定登録有形文化財(2003年)

 

《スイスの山小屋風の重厚かつ素朴な外観》

 

旅行五日目。軍艦島上陸ツアーを終えた僕らは一目散で雲仙を目指した。この日の投宿先はクラシックホテルの名門・雲仙観光ホテル。幸いツアーが終わる頃には青空が広がり、素敵なホテルライフが満喫できると喜び勇んだのも束の間、標高が上がるにつれて島原半島はガスガスに。そう。ここは山だった。

 

「最近登山に行ってないからにゃ」サル

 

判っていても抗いようがないけどね。

 

 

雲仙観光ホテルは鉄道省主導による海外観光客誘致事業として計画された国策ホテルのひとつ。大蔵省から低金利の融資を獲得した長崎県は、ゆかりの実業家で堂島ビルヂング社長の橋本喜造に建設および運営を委託した。遠く離れた九州に大大阪のDNAが息づいていたとは。

 

 

ゲートから長い石畳が続いている。昼間はカフェ利用もできる。

 

 

霧に包まれてある意味幻想的。すぐにポーターが現れてロータリーの両脇に止めるように言われた。

 

 

丸太ハーフチンバーを採用するなどスイス風ログハウスのシャレ―様式を意識しているが、桟瓦葺きなど和洋折衷であり、二年前の1933年に竣工した上高地帝国ホテル(設計:高橋貞太郎)の初代と較べると落ち着いている。一階は鉄筋コンクリート造。二階三階が木造。異素材の継ぎ目に違和感を与えない工夫だろうか、一階外面は玉石を積んで重厚な仕上げになっている。

 

大阪繋がりで決まったのか、竹中工務店が設計・施工を一手に引き受けた。そこでチーフを務めたのが設計者、早良俊夫(さがら としお)である。

 

早良俊夫(1895-1982)

 

代表作はジェームス邸(1934・兵庫)。他にも朝日堂(1928・大阪)、日本簡易火災保険(1931・大阪)など、ジェームス邸のスパニッシュスタイルや雲仙国際ホテルのシャレー様式とは趣を異にした初期モダニズムの傑作を関西中心に多数手がけたが、残念ながら現存しない。もっと知られていい建築家だ。ちなみに聴竹居など住宅建築で名を馳せた藤井厚二と同期入社。

 

 

それでは荷物を預けてチェックイン。

 

 

中央に階段を設けてシンメトリーを構成。

 

 

手摺の素材も重厚な一本丸太。

 

 

フロント周辺。鉄筋コンクリート造だからか一階の天井は低い。

 

 

そこに平行な梁を通すことで奥行きのあるパースペクティブを実現。このあたりの家具は戦後に誂えたものだろう。

 

 

橋本喜造にあてられた孫文の揮毫。

 

 

チェックインカウンターでサインして…

 

 

しばし時間まで待つことに。チェックインは14時。

 

 

ウェルカムドリンクはオレンジカクテルだった。

 

(配置図)

 

こうしてみると実は完全なシンメトリーではないと判る。別館は特別利用。一般は入れない。

 

 

階段を上がっていく。クラシックホテルは大抵そうだが、ここもエレベーターはない。

 

 

階段の鐇跡が美しい。

 

「釘の跡もないよにゃ」サル

 

職人技だよ。

 

 

カーペットは僅かなシミすらない。

 

 

このホテルで観るべきは外観よりも内装だ。

 

 

仕様木材は硬質な輸入材。

 

 

外国人客をターゲットにしただけに階段部は抜け感がある。

 

 

当時そのままの椅子かは判らないが、今の内装にしっかりあっている。

 

 

廊下の隅角に注目。圧迫感が生まれないようにアール処理されている。そして細いラインが消失点目掛けて走る。余計な装飾がないのもいい。

 

 

この日の僕らの部屋。プレミアムツイン(全8室)。ちなみにドアノブと錠は堀商店(東京・新橋)の輸入品だそうだ。堀商店も名建築で本社時代は朝夕この建物の前を歩いていたものだ。

 

「早く開けてちょ」サル

 

客室はVIP対応の特別室(1室)に始まり、ウィリアム・モリスのデザイン溢れるプレミアム、スーペリア以下、スタンダード(13室)まで各種調度や広さの違う部屋が用意されている。

 

 

割とシックな壁紙の部屋だった。

 

 

ハーフチンバーの装飾も控え目。

 

 

反対から。こんな感じだ。

 

「のびのびしよう」サル

 

チェックアウトも11時だしね。

 

 

広縁にあたるスペースを採用している点も折衷的。

 

 

窓外の景色。

 

「ホテルかにゃ」サル

 

手前は郵便局で奥は観光案内所らしい。景観を壊さない配慮だね。

 

 

広縁といっても広く使える。

 

 

バスルームは乳白色のタイル張り。床面の市松格子の装飾が映える。

 

 

2004年からの大規模改修で取り換えられた猫足。

 

「泡風呂にはいゆ」サル~♪

 

 

では再び一階の共用施設を探検。

 

 

ロビーには往時の資料が展示されている。開業後の1944年に堂島ビルヂングが合併。そのためカトラリーにも「堂」のマークが入っていた。かつて堂島ビルにもホテル(堂ビルホテル)があり人気だったという。その後、2020年に再び独立。堂ビル傘下のグループ企業となっている。

 

 

共用トイレから映像室や撞球室に続く導線は、曲線と直線による立体感のあるレイアウト。

 

 

撞球室

 

暫く遊ぶことにした。世代なので。

 

「サルめっちゃ得意!」サル ケケケ

 

 

天井の装飾はシャレ―風だが、窓やランプシェードのセセッション風ステンドグラスがエレガントさを添える。

 

 

誰も来ないので貸切状態。結局ナインボールを2時間以上プレイ。何しに来たのか(笑)。

 

 

図書室

 

天井のブレースのデザインが素晴らしい。美術全集に文学全集。どれもズッシリと重厚でちょっとページを捲るという感じじゃない専門書ばかり。

 

「長逗留するお客用かも」サル

 

庶民にはムリ(笑)。

 

と云いつつ人間国宝・田村耕一の『陶芸の技法』(雄山閣)を取り出す。田村の素朴な文体と、飽くまで実際的な記述に人柄が透けて見えて暫く時を忘れて拾い読みした。アート好きにはたまらない空間だ。

 

続いて温泉。

 

 

温泉へは通路向かって右奥まで進む(温泉と食事は別途報告)。

 

 

ダイニングルーム。食事の時間は鑼で合図。

 

 

ダイニング前のラウンジ。ティータイムはここで。絨毯とチェアの色が美しくマッチ。

 

 

バーの窓の装飾もさえていた。夜が愉しみだ。

 

「クラシックホテルのナイトライフはバーだよにゃ」サル

 

ということで続きは次回。

 

(温泉&食事篇につづく)

 

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