名建築を歩く「横浜市中央図書館」(神奈川県・横浜市) | ひつぞうとおサル妻の山旅日記

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ひつぞうです。
おサル妻との山旅を中心に日々の出来事を綴ってみます。

名建築シリーズ70

横浜市中央図書館

 

往訪日:2024年3月24日

所在地:神奈川県横浜市西区老松町1番地

開館:〔平日〕9時30分~19時(不定休)

特別展示:2024年3月19日~5月6日

料金:無料

アクセス:京急・日ノ出町駅より約5分

■設計:前川建築設計事務所+ミド同人・永田包昭

■施工:竹中工務店・東急建設・松村組・紅梅組・和同建設JV

■竣工:1994年

 

《魅せる図書館!》

 

ひつぞうです。三月下旬に横浜市中央図書館の特別展示《横浜市の「中央図書館」ができるまで》を観てきました。おサルからの耳寄り情報で。以下、建築散歩です。

 

「ヒツジの眼は節穴」サル

 

★ ★ ★

 

神奈川県立図書館前川國男の代表作あることは建築フリークにはよく知られた事実。しかし、横浜市中央図書館が“建築”という視点で語られることはまずない。ハニカム構造を採用したデザインはどう見ても一流の設計事務所の仕事なのだが。調べてみると(やはり!)前川建築設計事務所だった。だが時は前川の歿後。弟子筋の仕事ということになる。因みに永田包昭氏はお弟子のひとりだ。

 

 

日ノ出町駅から野毛坂方面に緩い勾配を登ると、間もなく路地続きの(更に急な)坂道が現れる。この角度で見る中央図書館はどこか要塞のようで好き。

 

 

トラバーチン一色でエントランスを敷き詰める例はあまり見たことがない。

 

「雨除けだの」サル

 

一本足は前川っぽいけど天蓋のウェブがやや厚めだね。

 

 

ベンチは今なにかと話題の排除アート。寝そべる行為は利用者の属性に関わらず“個人による占拠”だし、それが問題の本質だと思うのだけど…。様々な意見があるのは判る。

 

「その話は触れまい」サル

 

パブリックアートも豊富だ。

 

ハラダミドリ《宿る》(1994設置)黒御影

 

足フェチにはたまらなく魅力的。だが作者に関する情報はまったくない(笑)。“彫刻は彫るのではなく在るものを掘り出すだけだ”という意味の言葉を漱石『夢十夜』第六話で運慶がしゃべる。タイトルは御影石に“宿る”女が今まさに現れんとするさまと見たが。

 

「サルもあれくらいにはなりたいにゃ」サル 好い足だの

 

いいよ。ほどほどで。

 

柳原義達《道標・鳩》(1973-1979)

 

義達先生の有名な鳩シリーズ。

 

柳原義達《道標・鳩》(1973-1979)

 

こっちにも鳩。

 

 

六角形の建物の下にピロティを構成。だがコルビュジエ伝統のデザインというにはちょっとクリアランスが高い。天井の三角形はユニット式のパネルなのかな。

 

 

ダーク調の床タイルと壁面の赤褐色も前川イズム風。逆三角形の照明もオシャレ。前川は照明にも拘ったしね。

 

「モダンだにゃ」サル

 

 

北側の道路から見るとまるで柱状節理のようだ。

 

 

角度によっては四角いビルが並立しているように見える。

 

採光窓の処理もモダン。足許に眼を落してみよう。

 

 

建物前のペイヴメントも六角形。

 

「凝ってゆ!」サル

 

 

では館内の特設コーナーへ。今回の催しは開館30周年の記念イベント。

 

 

設計の際に制作したものだろう。余談だが建築家・柳澤孝彦古谷誠章との対談で「模型は建築主に提出するためのものではない。模型でなければ見えてこない空間性がある。空間を見るとはその中で振舞う人々の情景を思い描くことである」という意味のことを語っている。観ることに重きを置いた美大出身の柳原らしい思想だ。

 

横浜市図書館旧館

 

1927(昭和2)年に旧横浜市図書館が開館。アールデコ風のモダンかつシンプルなデザインは今見ても洒落ている。その後、老朽化を理由に建て替え計画が進められた。

 

 

地下三階分を掘るために頑丈な矢板で土圧を抑え、トラス構造の本体鉄骨を組み上げる。斜面に立地することから六角形はデザイン性だけでなく強度確保の意味もあったのだろう。

 

 

見ればランドマークタワーも建設中。バブル末期に計画されたことが判るね。

 

 

ホール完成時の写真。完成時は東京都中央図書館に注ぐ第二のキャパシティを誇った。

 

 

JVのプライムは竹中工務店。スーパーにあっては“建築の竹中”として名を誇る。

 

 

割と軽量鉄骨の比率が高いね。支保部材が多い気がする。

 

いつもの利用とは違う視線を図書館内部を注ぐ。眼を惹く存在だったかも。

 

「いるんじゃない?建築マニアの人も」サル

 

図書館建築ってアトリエ系の建築家があちこちに名作を残しているしね。

 

佐藤忠良《冬の像》(1986)

 

忠良先生の彫刻があるんだね。今まで気づかなかった(喫茶室にも彫刻があったが閉まっていて取材できず)。

 

 

時代を映し出す公共建築らしい間接照明。

 

 

よくよく観察すると天井が館の内外で連続している。

 

 

ガラス面を大きく取り採光を良くしている。枠材のH鋼がかなり素っ気ないが(笑)。

 

「経済性じゃね?」サル

 

アールへの拘り三原色から脱皮して、幾何学的デザイン高い空間性の確保が生前の前川の設計とは異なる点だと感じた。

 

 

見る角度を変えると違う形に見える。いい図書館だよ。ここ。

 

この北側に有島武郎有島生馬里見弴の有島三兄弟が暮らしていた。父親・有島武横浜税関として赴任したためだ。残念ながら建物はおろか記念碑もないけれど。

 

おまけ。

 

 

折角なので近くの野毛山公園にも行ってみた。夏は藪蚊の温床(笑)。近づけない。

 

佐久間象山之碑

 

佐久間象山(1811-1864)の顕彰碑があった。開国100周年の記念碑らしい。

 

「誰それ?」サル 知らんもんね

 

 

幕末に活躍した朱子学者、蘭学者、兵法学者。つまり維新の志士に精神的薫陶を与えた人物だ。長野の松代藩士の家に生まれた象山は江戸に出て開国派として足跡を残すが、遂には京都で攘夷派に暗殺されるんだよね。ペリー来航時にたまたま松代藩軍議役として横浜村にいて、列強との通商の重要性を痛感していた象山は最適地として横浜を推奨した。つまり今の横浜の繁栄は象山先生のおかげってことらしい。そんなことが書かれていた。

 

野毛山周辺はブラヒツジするには恰好の場所なんだけど、またそれは次回!

 

(おわり)

 

ご訪問ありがとうございます。