旅の思い出「茅葺きギャラリー陽山居」(岡山県) | ひつぞうとおサル妻の山旅日記

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ひつぞうです。
おサル妻との山旅を中心に日々の出来事を綴ってみます。

茅葺きギャラリー陽山居

℡)0869‐63‐3395

 

往訪日:2024年2月25日

所在地:岡山県備前市伊部2207

営業時間:10時~17時(不定休)

アクセス:JR伊部駅より徒歩約10分

駐車場:有(伊部駅前)約20台

※訪問前の電話確認をお薦めします

 

《使い込まれた耐火煉瓦》

 

ひつぞうです。瀬戸内めぐりの旅の三日目は残念ながら雨。讃岐観光は取り敢えず諦めて、備前焼の里に寄っておとなしく帰りました。以下、往訪記です。(敬称略)

 

★ ★ ★

 

まず向かったのは備前焼伝統産業館だった。ちょうど能登半島地震支援チャリティー展の入札会開催の日。作家作品が安く買えるまたとないチャンスだった。しかし、僕の目的は既に決まっていた。

 

伊勢崎創(1968‐)の作品に初めて触れたのは昨年訪れた企画展未来へつなぐ陶芸(兵庫陶芸美術館)だった。祖父・伊勢崎陽山(1902-1961)、父・(1934-2011)、そして叔父・(1936-)。人間国宝を輩出する名門一家で、御兄弟三人(卓、紳、競)も優れた現役の陶芸家である。

 

(再掲)

伊勢崎創《備前花器》(2020)

 

とりわけ先生の作品に惹かれたのは陶芸というより彫塑的なセンスを感じたからだった。調べてみると陽山翁、満翁ともに陶彫を得意としている。さほど見当違いでもなさそうだ。せっかく備前の里まできたのだ。モノを買う禁を犯すことになるが家使いの食器は欲しい。本人に問い合わせてみると御在宅だという。行くことにした。

 

 

産業会館と伊部(いんべ)駅が並ぶ通りから集落の中に入っていく。雨降りもあって観光客の姿はない。10月に開催される大規模な備前焼まつりの賑わいからは想像できない静けさだった。しばらくして水嵩の増した不老川沿いに赤い煉瓦の煙突が見えてきた。

 

 

それが茅葺きギャラリーの陽山居だった。案内を乞うと奥の母屋から静かな笑みを浮かべた創先生が現れた。やや頭に白いものが増えていたが、写真で見る通り穏やかな人柄が偲ばれた。僕とほぼ同年とは思えない。作陶が一種の精神修養に似ているというのは本当なのかもしれない。

 

「雑念と煩悩に満ちてるもんにゃ」サル 大人になれよ

 

ほっといて。

 

ギャラリー内部は六畳二間程度の広さ。シックな古民家の雰囲気が漂う。奥の部屋は父・満氏のぐい吞みや茶器など高額な品が並ぶ。もちろん創先生についても茶道や華道絡みの作品は手が届かない。というよりそういう嗜みがないから必要もない。

 

(一枚だけネットより拝借いたしました)

 

手前に平皿が数種類並んでいた。断って手に取ってみる。緋襷胡麻が適度に入った使い易そうな暗褐色の皿。厚みもあって存在感もある。微妙に異なる緋襷の文様と、そこに載せた酒肴の取り合わせ、景色全体を想像する。畳に正座して五分以上あーでもないこーでもないとイメージを捏ねくりまわしてようやく一枚に辿りつく。やはり小鉢も欲しくなり都合6000円と4000円の買い物。今では我が家の酒盛りの主役だ。

 

他に客がいるでもなく遠慮する必要もなかったが、支払いを済ませてお暇しようとした。だが、心残りを汲んでくれたのだろう。「窯も御覧になりますか?」と訊かれる。ありがたく甘えることにした。

 

「自分から言えばいいのに」サル

 

そういう図々しいことはできん性分なんよ。

 

「気が小さいだけでしょ」サル 笑うー

 

 

いやあ。素晴らしい!

 

父から引き継いだ窯なんです。

 

たしか先生は三男。どういう訳で継ぐことになったのだろう。でも聞けない。やはり小心者。

 

備前焼といえば無釉焼き締めが特徴。それゆえに現代陶芸で主流の電気窯ガス窯は使わない。個人的にはその土の質感と素朴な自然釉が美しい信楽焼備前焼が一番と思っている。特に酒肴を盛った時にそう感じる。

 

 

窖窯(あながま)や登り窯が主体。特に登り窯はここだけらしい。使用する燃料は松と檜の薪。それを1日8時間。約2週間に亘って2000℃で焼成する。その間、窯を離れるわけにはいかないという。

 

かなり神経と体力が要求される仕事なんです。

 

「夏場もここで焼くんですかの?」サル

 

夏場は駄目ですね。湿気も大敵ですし。

 

「ひとりで?」サル

 

以前は。今は弟子がひとりいます。

 

いや。二人でも大変でしょ…あせ

 

 

だから大量生産はできない。逆に言えば一品一品に精魂を込める。

 

 

「このクマの爪みたいのは?」サル

 

ゼーゲルコーンです。番手によって融ける温度が違うので窯の内部の温度が把握できます。

 

なるほど。融けているわけね。これ。

 

しかし飽くまで目安です。

 

最後は職人の感が勝負らしい。

 

 

耐火煉瓦を作る職人も減っているのだそうだ。どの業界も後継者不足が深刻…。

 

訊きたいことは山のようにあったはずだが、本人を前にすると緊張して全て消し飛んでしまった。窯から出て中庭を通る。背丈七部ほどの塑像が気になり、戻って正面から見つめた。

 

これって高杉晋作ですよね。

 

ええ。祖父(伊勢崎陽山)の作品なんですよ。

 

やっぱり。

 

「なんか偉いひと」?サル ←歴史メチャ弱い

 

 

良い作品だ。ブロンズと異なり落ち着いた質感と量感がある。少し実物よりも男前だが。

 

これは試作品で実作は下関にあるんですよ。

 

(参考資料)

(ネットより拝借いたしました)

 

下関の日和山公園の丘の上に完成品は立っているそうだ。是非一度訪ねなければ。都合30分いただろうか。気がつけば雨も止んでいた。大事に包みを抱え込んで車に乗り、ホッとひと安心した。割っては一大事だ。その後、地元スーパーのマルナカ備前店で新鮮なシタビラメを三尾買って、明くる日バター焼きにして頂いた。頬が落ちるほど旨くて笑いが止まらなかった。最終日は遂に雨に祟られたが、印象に残る出逢いに満ちた旅だった。

 

「岡山は魚がメチャ旨い!」サル

 

(冬の瀬戸内めぐり旅 おわり)

 

ご訪問ありがとうございました。