名建築シリーズ62
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
℡)086-422-0005
往訪日:2024年2月24日
所在地:香川県丸亀市浜町80‐1
開館:10時~18時(月曜休館)
常設料金:一般300円 大学生200円
アクセス:JR丸亀駅の隣り
駐車場:有(丸亀駅前地下駐車場)2時間無料
■設計:谷口吉生
■施工:鹿島建設
■竣工:1991年
■公共建築百選
※内部撮影OKです
《ちょっとした舞台のようなゲート》
瀬戸内を巡る旅の二日目。最初に目指したのは猪熊弦一郎現代美術館でした。ここは丸亀市出身で戦後の代表的洋画家、猪熊弦一郎(1902-1993)の作品を展示する美術館です。そして設計はモダニズム建築の谷口吉生先生。期待で胸いっぱいの往訪です。まずは建築篇から。(以下敬称略)
★ ★ ★
ひと際美しい美術館で知られる建築家、谷口吉生の作品を“作家の仕事”として初めて意識したのは土門拳記念館(1983年)だった。往訪当時、土門と親交の深かった建築家・谷口吉郎(1904-1979)の子息が手掛けたという程度の知識しかなかった。感銘を受けた僕は先生の仕事を図録で振り返った。すると、あるある。かつて訪れたものが。
清春白樺美術館(1983)
ジョルジュ・ルオー記念館(1986)
長野県信濃美術館・東山魁夷館(1990)
豊田市美術館(1995)
そして、GINZA SIX(2019)
共通して云えるのは調和のとれた矩形を基本に、コンクリート、強化ガラスなど素材の質感を殺さずに使用。重さを感じさせない色調で統一し、和紙や雲母のような淡い温かみ、あるいは軽量金属のような近未来的な耀きを観る者に与える。外部からの想像とは裏腹に内部の抜け感もいい。佇むとリラックスできる。光の取り込み方も至って自然。そんな特徴を感じる。
10時開館に合わせて丸亀駅前地下駐車場に止めた。ここも競争率が高い。早めの駐車がお薦め。眼の前にはひと際目立つ美術館が君臨していた。正面テラス(ゲートプラザ)には猪熊自身がデザインした巨大オブジェが配置され、通りがかる人々の眼を惹く。
「地元の人ばかりじゃない?」 慣れっこだもん
そうかも(笑)。
《四つの生命体》
「樹?」
くらげ?
《星座》
星座を立体的に線で繋いだんだろうね。僕には肘をついて寝そべる人の姿に見える。
《シェルの詩(うた)》
痛そうだね。どういうコンセプト?
「あ。今日泊るホテルだよ」
眼の前なんだね。こりゃ便利。 ←旅行の計画は全部サルにぶん投げ
それでは行こう。
ここ通称MIMOCAは丸亀市の市制90周年を記念して1991年にオープンした。猪熊自身も構想に深く関わり、完成したのは死の二年前だった。寄贈された作品の数は約二万点。バブル経済は決して無駄に終わってはいない。
最初に吹き抜けの中央ホールに度肝を抜かれる。白を基調とした壁が美しい。
まるでペーパークラフトのようだ。
「建築の模型みたい」
「これはなんですきゃ?」
おサル。奈良美智の女の子みたいだよ…
「下駄のオブジェだって」
猪熊は小学校一年生の時に土器川で溺れそうになり、九死に一生を得ている。その時助けてくれた飴売りの親父さんに捧げて制作されたオブジェなんだって(MIMOCAパンフレットより)。樹脂の中央に黄金の下駄が確かに浮いている。
二階が猪熊の常設展示室。企画展以外は全て撮影OK。凄すぎる。恐らく猪熊とご遺族の意思だろう。
常設作品は後でゆっくり。
三階にあがってみる。照明が美しいね。
絶妙な角度でライティングされている。
渡り廊下を通ってカフェレストへ。
カフェだけの利用も可能。むしろそんな女性グループが多かった。
カフェ正面のカスケードプラザは滝とオブジェのある庭園。
トライアングルレインボーとイサム・ノグチのアトリエから越して来た自然石。子供が戯れるようにという猪熊の願いどおり、子供はまず間違いなくぶら下がろうとする。
ノグチもまた香川に魅せられ、牟礼町にアトリエを開いた。土門拳記念館で学んだことだが、ノグチと谷口吉郎、そして猪熊は旧知の仲。この時代のアーティストは天空の星座のように必ずどこかで繋がっている。カスケードCascadeとは「滝、繋がり、連鎖」の意味だが、ただの即物的な命名ではないと思うのは深読みだろうか。
「そーなんじゃね?」
ということで大事な夕食に備えてお昼はカフェで粗食に甘んじることに。
グッズも充実。オシャレ系ですね。
書棚のブックセレクトのセンス(文学、美術、ファッション、哲学、料理など)が抜群なので「学芸員さんのセレクトですか?」と訊くと、その若い女性スタッフが「ブックピックオーケストラの川上洋平さんです」と答えた。最近流行りの本の画廊。洒落たホテルや温泉旅館のラウンジにノンシャランながらちょっと光るセレクトがあればだいたいここの仕事。
しかし、まさかバターブレッドしかないとは…。
「他のメニューはがっつりこんだしの」 充分だよそれで
ということで改めて猪熊作品をガン見することにしよう。
(アート篇につづく)
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