旅の思い出「象岩」を求めて海を渡る(岡山県・六口島) | ひつぞうとおサル妻の山旅日記

ひつぞうとおサル妻の山旅日記

ひつぞうです。
おサル妻との山旅を中心に日々の出来事を綴ってみます。

民宿 象岩亭

℡)086-479-8527

 

往訪日:2024年2月23日~2月24日

所在地:岡山県倉敷市下津井六口島2670

■営業時間:(IN)15時(OUT)10時

■料金:12,000円(税別)

■客室:7室

■風呂:16時~21時

■アクセス:瀬戸中央自動車道・児島ICから約10分

■駐車場:約10台(下津井公民館の近傍)

※送迎船で六口島に向かいます

 

《見事な自然の造形》

 

ひつぞうです。大原美術館の次に訪ねたのは瀬戸内海に浮かぶ六口島(むぐちじま)でした。下津井瀬戸大橋の起点となる港から船で10分ほどの距離の島で、天然記念物の象岩で知られます。昭和の地学少年だった僕にとって、いずれは行かねばならない場所でした。以下、往訪記です。

 

「酒は飲めるのち?」サル

 

飲めるし、魚も旨いよ。

 

★ ★ ★

 

倉敷市内から巨大な水島コンビナートを見遣りつつ下津井地区にやってきた。かつて廻船業で栄えた湊町だ。駐車場は少し判りづらかったが、看板に「象岩亭」の文字もあり、無事見つけることができた。

 

海以外に何もない島なので海水浴シーズンを外せば静かなもの。喧騒に辟易している僕らは敢えて閑散期を選んだ。その代わり渡船は10時と16時の二便のみ。遅れては一大事とばかり早めに到着したが、時計を見るとまだ15時。ちと早すぎた。

 

「どーするのち!」サル することないやん

 

考えあぐねていると軽トラの親父さんが「●●さん?」と訊いてきた。そうですと答える。この人が象岩亭の御主人だった。所用をすませば送ってくれるというので甘えることにした。どうやら他に客はいないらしい。

 

「そりゃそうでしょ」サル 寒くて泳げんし

 

防波堤の先に皿を伏せたような六口島が見えていた。隣りの島は既に香川県らしい。

 

 

 

危なっかしく艀を渡り、小型の船舶に乗り込む。10分もしないうちに島に到着した。

 

 

写真のように北東側から島に接近。船着き場からは島唯一の舗装道を利用。キャリーカーで反対側の入江に向かう。歩いても2分程度だ。一周できると思っていたが現在は廃道。大潮の日だけ海岸伝いに歩けるらしい。

 

 

この日の宿“象岩亭”の食事棟と宿泊棟の全景。

 

もう一軒左隣りに建物があったが、日帰り専用で宿泊施設は象岩亭のみ。現在の島民はわずか6名という。

 

「野生動物はいないんですかの?」サル クマとか

 

どうかねえ。と嘯く御主人。しかし、壁には吊るしあげた獲物と一緒に写った新聞の切り抜きが。曰く「六口島にもイノシシ!」。

 

「いるじゃないですきゃ」サル 惚けちゃって

 

含み笑いを浮かべたまま御主人は煙草に火をつけた。バラシて食べたのだろう。皆で。

 

 

宿泊棟はロッジ風。和室一部屋(トイレ共用)と全て同じ造り。

 

 

二階の角部屋だった。

 

 

布団は敷きっぱなし。

 

 

窓から象岩を眺めることができる最高の部屋だった。

 

 

早速行ってみた。

 

 

立派な標柱。1932(昭和7)年に国の天然記念物に認定された。

 

 

と思って足許を見ると古い標柱が打ち捨てられていた。確かに「昭和八年」というのは間違いだね。

 

 

干潮と満潮ではかなり見た目が違う。天気が良ければもっと映えるんだけど。

 

「雨じゃなかっただけまだ良いよ」サル

 

そうだね。しかし寒いな。

 

 

とりあえず風呂に入って温まることに。

 

隣りの海の家のむく犬三匹がこっちの様子を窺ってはギャンギャンしつこく吼えていた。物音といえばその鳴き声と潮騒だけ。

 

 

生け簀では海坊主のような真鯛が餌を求めて水面から顔を出していた。

 

「今夜のおかずかの」サル

 

旨そうだね。人相悪いけど。

 

 

本来男女別だが、一組ということもあってか女湯で家族風呂。

 

 

10人は入れる。背中を流してもらったのでお湯が激減り…。

 

この後チューハイを買い求めて、それでも足りないので部屋で一杯やることにした。

 

「飲もう飲もう」サル

 

全国流通しないいわゆる“地酒”。普段飲まないカテゴリーだが、せっかくなので倉敷(厳密には玉島)ゆかりのものを買ってみた。菊池酒造は明治11年創業。看板銘柄はこの燦然

 

 

燦然 純米吟醸 朝日 火入れ

 

生産者:菊池酒造㈱

製造年月:2024年1月

所在地:岡山県倉敷市

タイプ:純米吟醸 火入れ

使用米:岡山県産朝日100%

精米歩合:55%

アルコール:16~17度

定価:1450円(税抜)

 

ザ・日本酒。米の味わいがストレートに走る。酸味苦味といった複雑さはなく、濃い口当たり。さすがに酒肴なしでこれだけやるのは難しかった(笑)。酒が悪いのではない。僕の見立てが甘かっただけだ。

 

「ヒツはどんどんお飲みよ」サル サルは下でチューハイ買ってくゆ

 

 

ベタ凪のまま陽は遠く暮れていった。

 

 

犬の鳴き声がやかましい。いい加減飽きそうなものだが。

 

「ひさしぶりに人を見たから昂奮してんだの」サル

 

 

=夕 食=

 

午後18時。待望の夕食である。二人寂しく奥に通された。

 

 

しかし食事はとても豪勢だった。これぞ海鮮民宿の醍醐味。

 

「たのすぃみ~♪」サル

 

 

造り盛り合わせ

 

下津井といえば蛸。そこに煮鮑が載る。

 

「紅い魚もあるね」サル

 

すっごくもちもちした食感の白身だね。

 

訊けばアコウ(キジハタ)。なかなかお目にかかれない超高級魚を中途半端な季節客の僕らのために御主人が市場で仕入れてくれた。夏に旬を迎える魚だが、新鮮だし充分に旨い。

 

 

ワカメの酢の物

 

新ワカメだね。

 

 

結局二人でハイボール9杯飲んでしまった。

 

「おサルには水みたいなもんだの」サル

 

 

小鯛の塩焼き 栄螺の壺焼き

 

残念ながら生け簀の大鯛は客が大勢入った時しか出ないみたい。

 

「二人で一尾だと赤字かもにゃ」サル

 

小鯛の塩焼きも十分旨いよ♪

 

 

ゲタの煮つけ

 

「何ですかにゃ?下駄って」サル

 

若女将の説明によれば岡山におけるシタビラメの地方名らしい。子持ちで旨い!(岡山ではスーパーで新鮮なシタビラメを安く買える。最終日に買い込んだのは云うまでもない。)

 

 

天ぷら盛り合わせ(銀杏、筍、烏賊、薩摩芋、ピーマン)

 

 

蛸、メークイン、ガラエビの唐揚げ

 

アカエビやサルエビを総称してガラエビと呼び、唐揚げなど酒の肴にする。

 

「めちゃハイボールにあう!サル ←大のエビ好き

 

蛸ブツの唐揚げもね。

 

 

最後に味噌汁と白米が出てきて終了。

 

愉しい夜だった。

 

 

=翌 朝=

 

夕食後に御主人から「午前7時まで干潮で象岩の下まで歩いて行ける」と教えてもらった。これは何としてもいかねばならない。寝惚け眼で磯場に向かった。

 

 

「ほんとだ!」サル

 

おサルが入ると大きく見えるね。

 

 

真下から見あげると全然象の鼻の形をしていない。1980年頃に風化作用で先端が折れて少し短くなった。確かに右上の破断面が鋭利なのが判る。それでも十分鼻の形をしている。

 

 

反対から見る。やはり象。

 

大坂城の石材が切り出された六口島はキメの細かい花崗岩でできている。瀬戸内の穏やかな波に少しずつ浸蝕されたのだろう。その結果、象岩のような偶然の産物ができた。たぶん、そうだと思う。

 

「気がすんだ?」サル

 

新たなジオスポットを探訪できて感無量。

 

 

気がつくと、もう潮が満ち始めていた。

 

 

「サッサと戻ろう」サル

 

満ち始めると早いしね💦。

 

 

=朝 食=

 

 

味噌汁に浮いた脂が食慾をそそる。アコウのガラダシが効いている。

 

食事を終えて暫くすると青空が広がり始めた。今回の旅行で唯一晴れ間が期待できる日だった。

 

 

砂浜には僕のつけた足跡だけが続いている。隣家のむく犬三匹もようやく飽きたのか、喧しく吼えたてることもなく、それぞれのパーソナルスペースを確保して砂地に寝そべっていた。

 

 

だが、晴れ間があるのは下津井側だけで、象岩の方角の雲は一向に取れない。そうこうしているうちに10時近くになったので暇乞いを告げに母屋に向かった。

 

「間が悪いにゃ」サル ぷっ

 

最後まで粘ったけどね。

 

象岩とはいえ一度見れば十分な唯の岩。それを観察すること三回。どんだけ好きなんだと宿のスタッフも呆れていただろう。

 

 

帰りは所用で街に出る女将さんと一緒に船に乗った。

 

 

良い島だった。

 

「何にもないじゃろ」と変わらず御主人は煙草をふかしていたけれども。そう。何もなくていい。この島には面倒なことも憂い事もない“何もない生活”があった。

 

 

「さようなら。象岩」サル

 

恐らくもう逢うことはないだろう。いい思い出になった。この後、瀬戸大橋を渡って香川県に入った。

 

(つづく)

 

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