名建築シリーズ48
ホキ美術館
℡)043‐205-1500
往訪日:2023年12月17日
所在地:千葉県千葉市緑区あすみが丘東3‐15
開館時間:10時~17時30分(火曜定休)
拝観料:一般1,830円 高大生1,320円 中学生910円
アクセス:圏央道・茂原北ICより10分
駐車場:有料(40台)
■設計:日建設計
■竣工:2010年
■施工:大林組
※館内全て撮影禁止です
《展示室は弓なりのコンクリートBOX》
ひつぞうです。房総の旅二日目に訪れたのはホキ美術館でした。世界的にも珍しい現代写実絵画の専門美術館として14年前にオープンしました。そしてここ、こだわりの設計が施された現代の名建築でもありました。以下、往訪記です。
★ ★ ★
この美術館の存在はあるTV番組で知った。スーパーリアリズム絵画にはあまり食指が動かないほうだが、建築は一度観てみたいと思った。もしかすると、展示されている作品(もしくは画家)に対して新しい視野が広がるかも知れない。そんな淡い期待も手伝って。
駐車場に着いてみると、そこそこ車が止まっている。かなりオシャレな美術館で附属するイタリアンレストランも評判がいい。カップルや有閑マダムたちの憩いの場。そんな感じだ。
「なかなか使わんよ。その言葉」 爺さんだからね、ヒツは
作品鑑賞の妨げにならないように、可能な限り簡素な造りに拘ったそうだ。どことなく安藤忠雄風だが、設計は組織系大手の日建設計。そして建築は大林組。母体は故・保木将夫氏が1955(昭和30)年に創業した医療用不織布メーカーのホギメディカルである。
「事業で成功したのね」
現在は娘さんが二代目館長を務めているよ。
未来的な生垣を思わせる棒鋼でできた前庭を回り込むと、流れるように通路が伸びていた。
弓状に反ったコンクリートBOXが上下二段、そして左右に二連重ねられたような構造だ。一番の特色は美術館につきものの、展示用のピクチャーレールと吊りワイヤーを排除したこと。そして打ちっ放しの構造物にありがちな目地も隠したことだ。また曲線を多用した天井や壁面、そして天の川のようなLED照明など、館内は幾何学的な外観とは対照的。ここも見所だ。
(参考画像)
(※ネットより拝借いたしました)
「とっても美しかった♪」
残念ながら内部は撮影禁止なので、参考資料のみで詳細を伝えることはできないが、訪れれば判る。大版の絵画が壁に張り付いているように見えることだろう。是非、自分の眼で確認してほしい。
美術作品の見学は後回し。とりあえず建物全体を外から伺ってみよう。
緩やかにスロープを降りていく。
「先端恐怖症の人はこの棒厭だろうにゃ」
将に僕です…。
ボックスの端部が一枚ガラスになっているのもポイント。
「めっちゃ張り出している」
30㍍張り出したBOXの隅角にスリットを入れて採光する仕掛け。限られた自然光とLED照明によって、作品本来の色調を再現する工夫なのだそうだ。ただ、その後なんらかの悪影響があったのかも知れない。現在はカーテンで目隠しされている。ちなみに内部構造は一階から地下二階までの三層構造。
二階部分が完全に張り出している。
送り出し工法で架設中の鋼桁のようだ。2011年度の日本建築大賞に選定されている。
「夢の架け橋だにゃ」
それでは絵画鑑賞を開始しよう。この日は企画展《第5回 私の代表作展》が開催中だった。
日本を代表する現代作家15名がホキ美術館のために描いた100号以上の大作ばかりが並ぶ企画展だ。それ以外にも保有対象の画家は約40名。また、板谷波山や富本憲吉の陶磁器も加わる。さわりだけメモしておこう。
(参考画像)
森本草介《横になるポーズ》(1998年)
※ネットから拝借いたしました(以下同じ)
「美しい臀部だす」
スーパーリアリズムの具象絵画、とりわけ美人画の草分けといえば森本草介(1937-2015)だろう。ホキ美術館は36点からなる森本作品の日本最大のコレクションで知られる。東京藝大油彩科を卒業後、国画会を中心にした森本はアングル風の温かい色調の美人画を得意とした。解剖学的にやや不自然な肢体もあるが、それはアングルへのオマージュなのかもしれない(と勝手に想像している)。だが、それを奇異に感じさせない処が森本の才能なのだろう。
森本草介《未来》(2011年)
実はスーパーリアリズムというジャンルがひとつのカテゴリーになっているのは日本だけだということを何処かで読んだ記憶がある(イルカの絵を描く何とかいう外国人の画家がいるが、あれは絵画ではなく装飾品だ。申し訳ないが)。
その第一世代が森本草介(1937-2015)、野田弘志(1936-)、中山忠彦(1935‐)ということになる。同志意識が強いのだろう。三人とも懇意な関係だったそうだ。
中山忠彦《トルコブルーの襟飾り》(1998年)
モデルは良江夫人。衣装は極めて精緻だが、人物の表情や手先の表現に、森本先生とは違った近代洋画の系譜そのままの温かみがある。
野田弘志《聖なるものTHE‐Ⅳ》(2013年)
野田弘志はまた違った意味での写実性に満ちている。まさに写真だ。だが、リアルな写真表現ではこのような沈んだ色調と解像度は逆に果たし得ない。やはり、観ていくうちに(写実といいながら)それぞれ個性があることに驚かされる。
続く以下の、五味文彦(1953‐)、島村信之(1965‐)あたりになってくると、最早僕らと世代が近くなってくる。第二世代ということになるのだろうか。
五味文彦《木立》(2010年)
「これ、写真だよにゃ?」
もう、殆ど写真、いや、生の風景を肉眼を通してみているような、そんな錯覚に陥ってしまう。にも拘わらず、作家が抱える詩情が画幅いっぱいに漲っている。
島村信之《ニジイロオオクワガタ》(2015年)
昔の博物学図鑑を手掛けた画家は、無闇にリアルに描こうとせずに、緻密に“写し取る”ことに忠実だった。島村先生の作品を観ていると、クワガタではなく、クワガタの標本が存在する空間そのものを再構築しようという企てを感じたが、どうだろうか。
とまあ、これだけでは押さえきれないほど、多種多様なリアリズム絵画が展示されていた。如何にリアルであるかを見るのも面白いが、背後にある画家の意図、企てを探るのも写実絵画の面白さではないだろうか。
「なんとでもいいたまえ」
★ ★ ★
鑑賞したあとは付属のレストラン《はなう》でランチすることにした。できれば予約した方が良いだろう。
この日のランチセット(3500円(税別))。プリフィクスだ。
「飲んでよい?」
おサルはスパークリング。運転があるので僕はジンジャエール。
まずは前菜から。
シュー 白身のブランタード(鱈ペースト)
鶏肉とキノコのパテ
プロシュートコット トンナートソース(ボイルハム&ツナソース)
カリフラワーのムース
ノルウェーサーモンのコンフィ
サービス担当の男性にいろいろ教えてもらった。ブランタードは南仏料理。看板はイタリアンだけどビストロ料理も入っているとのこと。最近はこうした店も珍しくない。
姫林檎だろうか。紙ナプキンにも森本草介の絵が。
牡蠣・ほうれん草・野生種エノキのグラタン
おサルのメインディッシュ。ブリブリの牡蠣がこれでもかと入っていた。
「やっぱこの季節は牡蠣なんじゃね?」 パン粉も香ばしい
そして僕。
イカ墨のタリオリーニ スルメイカ チーマ・ディ・ラーパ カラスミをかけて
スルメイカと蕪の葉を具にした充実のパスタ。存分に振りかけられたカラスミが贅沢だ。
「まだなんか飲む」 オススメのワインくださーい
ズバッと飛ぶようにやってきたサービスの男性が「これなんかお薦めです」と差し出した。
ヴィッラ・スパリーナ ガヴィ 2022
生産者:ヴィッラ・スパリーナ
ヴィンテージ:2022年
タイプ:白ワイン
品種:コルテーゼ100%
地域:イタリア(ピエモンテ州)
アルコール:13%
価格:2,660円(税抜)
おだやかな酸と爽やかな果実味の土着種ワインだったそうだ。
「好きな味♪」
デザートはパンナコッタ、ベルガモットのソルベ、そして金柑のコンポート(メレンゲに隠れている)。
充実したカジュアルイタリアンだった。千葉市近郊の観光にちょっと加えれば幸福感が一層増す。そんな美術館&レストランだった。
(おわり)
ご訪問ありがとうございます。