名建築に泊まる「かいひん荘鎌倉(旧村田一郎別邸)」(神奈川県・鎌倉) | ひつぞうとおサル妻の山旅日記

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名建築シリーズ40

かいひん荘鎌倉(旧 村田一郎別邸)

℡)0467‐22‐0960

 

往訪日:2023年11月18日~19日

所在地:神奈川県鎌倉市由比ヶ浜4‐8‐14

■利用:(IN)15時~(OUT)~10時

■料金:(有形文化財洋室)28,500円(税抜)

■客室:14室

■アクセス:江ノ島電鉄・由比ヶ浜駅から徒歩1分

■駐車場:有(10台)

■設計:不詳

■竣工:1924年

■登録有形文化財(2009年)

 

《ペイウィンドウとトンガリ屋根が目印》

 

ひつぞうです。建築散歩のあと向かった先は由比ヶ浜の割烹旅館、かいひん荘鎌倉でした。実はここ、明治創業の製紙会社・富士製紙の創業者、村田一郎の別邸を改装した旅館なのです。製紙業界の複雑な統廃合の結果、その名前は歴史の中に埋もれてしまいましたが、ここではその栄華を感じることができます。以下、往訪記です。

 

★ ★ ★

 

去年の夏の鎌倉美術散歩の折、由比ヶ浜の松原庵で蕎麦前を気取ることにした。無人駅で下車して路地に入り込むと、いきなり洋館風の建物が眼に飛び込んできた。

 

「立派な宿だにゃ」サル

 

 

一見して手前の数寄屋造りと二階屋の洋館に時代の違いが看取できる。調べてみると、洋館は1924(大正13)年に村上一郎の別邸として建設され、1952(昭和27)年に買い取られて改築ののち旅館としてオープンしたと判った。

 

 

なんと、重要文化財の洋室は一組限定で宿泊可能らしい。壁面に埋め込まれたプレートを読んで、即座に宿泊を決意した。

 

「そんなおカネないよ」サル

 

なんとかする…。

 

 

寒気の気まぐれに翻弄されたが、着いてみれば青空が広がっていた。昼のランチも人気のようで奥の座敷から賑わう様子が伝わってくる。

 

 

左が洋館部分で、以前は藤棚のあるこちら側が玄関だった(現在は使用できない)。隣りの座敷も増改築を繰り返していて、その時々の写真で大きく様子が違う。そのため、村上一郎の別邸だった頃とは外観はかなり変わっている。

 

 

庭も広い。早速案内を乞うことにした。

 

 

ここで記帳してお部屋に案内いただいた。もてなしもとても丁寧。さすがは老舗。

 

 

総部屋数は14室。うち重要文化財のツイン洋室は限定一室。ほか、旅館創業当初からの特別和室など、趣向を変えた特別室が計四室。それ以外にスタンダード和室を備える。料金もそれぞれ違うので、好みと用途に応じてHPから予約しよう。

 

ふと、厳重に壁に掲げられている磁器が眼に入った。

 

 

偶然にも二日前に兵庫陶芸美術館で鑑賞した徳田八十吉の九谷だった。どこにも銘が記されていないが、このグラデーションは三代目に間違いない。

 

部屋に向かう前に洋館一階を見学しよう。

 

 

サロンなっている。食事だけのお客も見学可能だ。ペイウィンドウと呼ばれる出窓が特徴。残念ながら設計者は不詳。

 

 

塩害が働く海浜部のリゾートホテルとしては漆喰の状態もよく、丁寧に維持されていることが判る。やはり光が入る時間が一番美しい。狙うなら午後三時だ。

 

 

家具調テレビが昭和40年代世代には懐かしい。加えて、スヴァストラフ・ヒリテルのチャイコフスイキー「ピアノ協奏曲第一番」が静かに流れてくる。昭和50年代に愛用のヤマハピアノを持ち込んで長逗留したそうだ。

 

 

最奥にはコーヒーサーバーがある。ここが昔の玄関。宿泊者は無料で利用できる。

 

では二階へ。

 

 

踊り場を経て一番奥の「らんの間」209号室へ。

 

 

先ずはリビング。その奥が円型のペイウィンドウの間になっている。

 

 

脇には寝室が繋がる。更にその奥にトイレが続く。

 

 

一回のサロンに比して、意外にシンプルな装飾だ。元が別荘だけに間取りはやや複雑。

 

 

どこか昭和的。

 

 

最奥の間。天井が高い。これなら背の高いヒリテルも安心して寛げたに違いない。

 

 

反対から見るとこんな感じ。

 

 

ということで、まずは汗を流すことに。

 

 

一階の食事の間を抜ける。ここは贅沢な数寄屋風。

 

 

男湯と女湯は場所が少し離れている。

 

 

とっても綺麗な脱衣所。ロッカーは施錠式。

 

 

温泉ではないので、とりあえず汗を流すだけ。でもジャグジーになっていて気持ちいい。

 

「めちゃ寛げた」サル

 

 

女湯の隣が談話室になっていた。恐らくここが一番新しい。

 

 

=夕食=

 

あっという間に夕食の午後6時に。割烹旅館だけに食事は期待が高まるところ。

 

 

夕食は部屋食で。

 

=先附=

 

 

白子豆腐 雲丹・ポン酢

 

普段使いだが器も凝っている。

 

 

=前菜=

 

 

ウズラ卵・銀杏 ごぼう肉巻 海老雲丹和え しめ鯖 玉子 すり身紅白 しめじ浸し、鶏塩蒸し 

 

前菜のボイル海老は得てして味が濃すぎるのが相場だが、こちらの海老は優しい味付け。

 

「鯖は逆にめっちゃ塩からい!」サル

 

料理長の好みなんだろうね。

 

 

=焼き物=

 

 

鮭親子焼 茗荷酢漬け 栗羊羹 松茸

 

「お酒どーすゆ?」サル

 

日本酒は普通酒主体だね。割烹料理店はこんなものだろう。

 

 

仲居さんに訊いたら天青があるというのでそれにした。普通酒でも充分旨いしね。

 

 

といいつつ、純米吟醸の千峰が出てきた。十分十分♪

 

「魚にはやっぱりお酒だの」サル

 

日本酒にはあまり力を入れていない様子。入れても注文が出ないのだろう。

 

 

=造り=

 

 

ヒラメ、黄肌鮪、カンパチ、赤貝、剣先イカ、昆布煮凝り

 

お造り最高だった。三浦半島近いしね。

 

 

=椀盛り=

 

 

牡蠣・玉子豆腐・白菜 椎茸・柚子

 

牡蠣の旨味とワタの好い苦みが素直に出ている。鰹節と柚子が薫り高い。

 

「やさしい味だの♪」サル

 

 

=進肴=

 

 

蕎麦寿司(蟹・アナゴ)、大葉と茄子天麩羅

 

 

=煮物=

 

 

秋刀魚、牛蒡、南瓜、大門、水菜

 

 

=中皿=

 

 

和牛ローストビーフ、アボカド、トマト、人参

 

「かなりギブかも💦」サル 胃が小さいってカナシイ

 

品数も多かったしね。

 

 

赤出汁と香の物。

 

 

デザートはメロン、洋梨のコンポート、わらび餅、シャインマスカット。いずれも適量で風味絶佳。

 

「でもなんか飲みたい」サル 酒は飲めるんだよ

 

じゃ赤ワインってことで。

 

 

やっぱり(笑)。メルシャンだった。

 

 

=翌 朝=

 

 

最高の天気になった。

 

ということで早朝から旅ジョグってことで。

 

 

まずは長谷寺へ。当然境内には入れません。

 

その後、思いつきで大仏トンネルから大仏坂ハイキングコースの尾根をトレランすることに。

 

「熊はいないよにゃ」サル

 

さすがに湘南界隈にはいないでしょ。

 

しかし、なにやら動物の気配が…。

 

「なんかいる!」サル

 

 

リスだった。相当に慣れていて全然逃げない。そういえば鎌倉でリスが大繁殖しているとい噂を聞いた。可愛いからと言ってくれぐれも餌を与えないように。自分で餌を採れなくなるのは動物にとっても人間にとっても不幸だし。

 

「ドヤ顔だったにゃ」サル

 

一時間しっかり走り込んで朝風呂を満喫。朝は6時30分~8時30分の間利用できる。

 

 

=朝 食=

 

朝食は食事処で頂戴することにした(朝も部屋食を選べる)。

 

 

庭に面した一番いい席だった。

 

 

至って普通の日本の朝食。貝汁のアサリが大粒で味が良かった。

 

 

二日目は快晴。この日訪れたい場所があった。9時半にお暇することに。

 

 

玄関には何らや揮毫が。みれば「栄作」とある。鎌倉文学館(現在改修工事中)はかつて時の総理大臣、佐藤栄作の別邸だった。そのため、かいひん荘が番記者の常宿だったそうで、会見の舞台として利用されることもあったと聞く。

 

 

そういえば、部屋備えつけの雑誌のスクラップに、先代が若くして亡くなった際、海浜荘が一時人手に渡ったとあった。大女将の奮闘で権利を取り戻し、時代の流行に合わせて、ビアガーデンを設えたり、工夫を重ねてきたという。現在の売りはやはり料理。京風の優しい味つけは、吉永小百合さんや故森繁久彌さんに愛顧されたそうだ。

 

名建築には隠れたエピソードがよく似合う。大満足の僕らは徒歩で次の日の目的地に向かった。

 

「ごはん旨かった!」サル

 

お部屋もよかったね。

 

(つづく)

 

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