企画展「未来へつなぐ陶芸 伝統工芸のチカラ」(兵庫陶芸美術館)② | ひつぞうとおサル妻の山旅日記

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《花?実?》

 

兵庫陶芸美術館の鑑賞記②(第2章)です。

 

 

第2章 伝統工芸(陶芸)の技と美

 

 

ここでは第二世代の代表作が紹介される。

 

大和保男《炎箔文四方陶筥》(1988)山口県立萩美術館・浦上記念館

 

炎箔塩釉を応用した、萩焼の名工、大和保男氏(1933‐)のオリジナル技法。陶筥の表面に四枚の箔を貼ったようなデザインが施されている。そこに御本(ごほん)と呼ばれる、赤く反応した鉄粉の跡が広がる。

 

新庄貞嗣《萩茶碗》(2019)

 

こちらも同じく萩焼新庄助右衛門窯14代目の作品。過飾に走らない伝統の美しさが魅力。

 

村越風月《梨皮窯変茶注》(2021)

 

2014年の日本工芸会賞受賞作と同じモチーフの作品。村越風月氏(1950‐)は(第一章で紹介された)常滑焼三代常山のお弟子。師匠譲りのキレある轆轤捌きが見事。

 

「赤と黒のグラデーションも綺麗」サル

 

それも村越氏の持ち味なんだよ。雑器と言われる急須での受賞は当時快挙といわれた。

 

「どこがスゴイの?」サル

 

取っ手も注ぎ口も全て轆轤形成なのが常滑の急須の特徴なんだ。こんな小さなパーツを轆轤でできる?胴への圧着の痕もないでしょ。これもすごい!師匠の作品を再掲するので比較してちょ。

 

(再掲)

三代山田常山《朱泥茶注》

 

「ほんとだ!全然ちっぎゃう」サル

 

市野雅彦《赤ドベ采器》(2021)

 

「これなに?」サル 木の実?

 

オブジェ焼だね。

 

赤ドベ丹波焼特有の赤い化粧土で、本来は“漏れ止め”として用いられたもの。その発色の美しさから現在では装飾に利用されている。市野雅彦氏(1961‐)は《開》第13回日本陶芸展(1993)で最年少で大賞受賞。

 

(参考資料・今回非展示)

《開》(1995)丸沼芸術の森

 

以降、自然界に存在するフォルムを想起させる美しい作品を生み出している。高さ41㌢の存在感がある本作《赤ドベ采器》も圧巻の出来ばえ。

 

福島善三《中野月白瓷鉢》(2017)茨城県陶芸美術館

 

月白は宋代の鈞窯(きんよう)で製造された陶磁器。その名に相応しい作品だ。福島善三氏(1959‐)は小石原焼「ちがいわ窯」の16代目。中野地区で採れる土は鉄分を多く含み、黒褐色に発色。そこに青味の勝る乳白色の釉薬をかける。口縁に現れる胎土の色が鈍色の銅(あかがね)のように見える。

 

伊勢崎淳《備前黒角皿》(2005)東京国立近代美術館

 

粗く削られた断面から黒い胎土を想像するが、これは鉄分を含む泥による彩色。中央に浮き出た緋襷が鮮やかなぼた餅の中に胎土の白が浮かぶという趣向。

 

三輪壽雪《白萩手桶花入》(1965)山口県立萩美術館・浦上記念館

 

人間国宝・三輪壽雪(1910-2012)が兄の休和(1895-1981)とともに完成させた藁灰釉の休雪白が見事。土に拘り、練りに拘っただけに、上質の羊羹のような、もっちりした陶土の粘性が現れている。陶芸家はなぜか長命な人物が多いが、壽雪は享年102歳ととりわけ長生きした。

 

「品行方正な生活だったからじゃね」サル

 

無頼な放蕩者の陶芸家っていないものね。皆すごく求道的だし。

 

田島正仁《彩釉器》(2016)東京国立近代美術館

 

h28.7×w41.5×d38.3㌢の大型の鉢。三代徳田八十吉の弟子だけに、透明感のある釉調と紫から白へのグラデーション(二色に見えるが七色使用されている!)が素晴らしい。

 

中田一於《淡桜釉裏銀彩葉文鉢》(2018)東京国立近代美術館

 

下地を塗ったあとに銀箔を膠で張り付けて釉薬をかけて焼成を重ねる技法を釉裏銀彩と呼ぶそうだ。

 

吉田美統《釉裏金彩牡丹文飾皿》(2017)東京国立近代美術館

 

銀箔を金箔に置き換えると釉裏金彩になる。第一章で吹墨を用いた色絵の大家として登場した加藤土師萌に触発された飾皿。

 

 

金箔の彫りも極限まで繊細。箔の貼り重ねで陰影をつけているね。

 

庄村健《紅染大鉢「燦々」》(2014)

 

紅染のグラデーションはマスキング処理によるもの。

 

上瀧勝治《葆光布染彩磁壺》(1988)東京国立近代美術館

 

布染に波山が生み出した葆光彩を併用した豪華な作品。上瀧勝治(うわたき・かつじ)氏(1941-)は有田焼・上瀧窯の家系だが、佐倉市に自らの窯を開いている。(第一章で紹介した)ダンディな田村耕一に師事。その一方で葆光彩磁の研究に明け暮れたそうだ。

 

 

布染は文字通り、顔料を浸した布を胎土に張り付けていく技法。直接彩色とは違った特有の質感を得ることができる。その上から葆光釉を施すことで、幻想的なマット感が齎される。富本憲吉の四弁花を髣髴させる繊細なデザインだ。

 

三浦小平二《青磁豆彩大皿 シルクロード》(1985)東京国立近代美術館

 

「これ今っぽいね」サル

 

青磁釉色絵をミックスしたところに三浦小平二(1933-2006)の新しさがあったそうだ。佐渡の無名異焼の窯元に生まれ、爺様には常滑焼三代常山を持ち、長じて東京藝大卒業後は加藤土師萌に師事するなど、まるで三浦の生涯は陶芸の博物館めぐりのようだ。そのエッセンスが消化された結果がこれだから芸術家の想像力って判らないね。

 

「おサルにはヒツがなに言ってんのか、そっちが判んない」サル 聞き流しゅ

 

なお豆彩とは中国で開発された彩色法で、染付で輪郭線を描いた後に焼成して、最後に上絵の具を塗るやり方だ。

 

「手間がかかってるんだにゃ」サル

 

寺本守《呉須銀彩鉢》(2019)

 

銀彩と呉須の染付のコンビが美しい。キュビスムの絵画を観ているようだ。実はこれ、簡単なようで簡単ではない。

 

「どーゆーこと?」サル

 

銀は熱に弱いんだよ。

 

「確かに」サル

 

なので、施釉して高温焼成→呉須で染付→また焼成→銀箔を貼って低温焼成という、手の込んだ作業が必要になるんだって。

 

次の作品もすごいよ。

 

松井康陽《練上大壺》(1998)

 

松井康陽氏(1962‐)は第一章で紹介された人間国宝・松井康成のご長男。家伝ともいうべき練上(ねりあげ)の技法を受け継いでいる。

 

「焼きあげた後に彩色しているのち?」サル

 

いやいや。練上だからね。彩色した数種類の胎土を、数ミリ単位で薄くスライスして、型の上で重ねていくそうだ。

 

「柄は色つき粘土を重ねて作っているのきゃ!」サル

 

子供の頃に彩色粘土があったでしょ。あれの超細密バージョンだよ。

 

 

口縁に注目。外側と内側の柄が同じでしょ。象嵌は表に彩色土を埋め込むけれど、練上は胎土そのものが継ぎ足されている。気が遠くなる作業だね。しかも粘土を練り上げるだけで三日かかるそうだ。

 

「なんで?」サル

 

継ぎ足して作る性質上、空気が混入すると亀裂がはいっちゃう。

 

「なるほど。内側の型はどーなるのち?」サル

 

もちろん。ある程度作業が進んだら壊すよ。

 

佐伯守美《象嵌泥彩樹林文壺》(2021)

 

佐伯守美氏(1949-)の最近の作品だ。これが象嵌。三次元変化の大きな腰位置の高い器体なのに、樹林の文様に歪曲が感じられない。デザインの細かさに唸らされる。

 

福島寛子《呉須絵絣文角鉢》(2007)

 

絣模様が入った角鉢だ。これも凝ったアイデアが施されている。

 

「ただの藍色の絵の具じゃないの」サル

 

残念!これ古代呉須、焼貫呉須、黒呉須の三種類が使われているのよ。

 

「そんなん、素人に判るかい!」サル

 

西田真也《象嵌泥彩扁壺》(1993)東京国立近代美術館

 

象嵌だね。口縁が極薄に沿ったあたりがすごい。

 

福吉浩一《炭化線象嵌鎬花器》(2020)

 

これも象嵌。炭素を吸着させてこの特有のチョコレート色を生み出している。

 

「編み籠のようなデザインもいいね」サル

 

山路和夫《剪紙繋型小紋四方器》(2011)茨城県陶芸美術館

 

これもすごいね💦

 

「よく緻密に描いたにゃ」サル

 

違うみたい。柄を彫り込んだ型紙の上から白い化粧土を塗ったって。伊勢切り絵だな。

 

「どっちにしてもカミワザ」サル

 

久田重義《鉄釉輪文皿》(1999)茨城県陶芸美術館

 

変化をつけた銀粉が蒔絵のようだね。常滑轍窯で天目茶碗にこだわってきた久田重義氏(1946-)らしく、大皿においても、特有の暗褐色を披露している。

 

五代 伊藤赤水《無名異練上鉢》(1985)東京国立近代美術館

 

三浦小平二の作品で既にふれた)無名異(むみょうい)は、佐渡産硫化鉄を多く含む陶土のことね。その含有量が異なる胎土を複数練り上げて作った。

 

「つまりこれ、土そのものの色?」サル

 

そうなんだ。径50㌢の大鉢で今回印象に残った作品のひとつだね。

 

次もすごいよ。

 

三代 徳田八十吉《耀彩鉢 創生》(1991)東京国立近代美術館

 

このグラデーションを見ればすぐに判る。彩釉磁器で人間国宝に認定された九谷の名工、三代徳田八十吉・正彦(1933-2009)の作品だ。一回眼にすればまず忘れないね。

 

「よくまあ、こんな原色をグラデーションさせたにゃ」サル

 

まるで龍や鯉の眼玉みたい。第11回日本陶芸展最優秀賞、秩父宮賜杯ダブル受賞作だ。ちなみに長女の順子氏が四代目を襲名している。

 

神谷紀雄《鉄絵銅彩葡萄文鉢》(2013)東京国立近代美術館

 

神谷紀雄(1940-)は第一章で紹介した田村耕一の技術を受け継いで、銅彩鉄絵で自らの境地を編み出した陶芸家だ。

 

 

よく観察すると、呉須由来の淡い碧で彩色されている。胴彩の褐色が葡萄の葉や実の輪郭線に優しさを与えている。やっぱり神は…

 

「細部に宿る」サル スキやのー、その表現が

 

市野元和《丹波土部釉彩平鉢》(1991)東京国立近代美術館

 

やはり丹波の作家で赤ドベを釉色に用いている。

 

竹腰潤《鴇相対蓮図磁篋》(2021)東京国立近代美術館

 

タタラ製法で成形された磁箱だ。

 

「緑色が綺麗だの」サル

 

九谷焼の陶芸家だしね。でも一番の特徴はこの描線かな。絵も抜群に旨い作家なんだ。

 

南繁正《鉢「麗夏」》(2003)兵庫陶芸美術館

 

南繁正氏(1950-)も九谷焼の色絵を得意とする工芸家だね。中央の笹の葉のくっきりした輪郭線と濃淡の塩梅。周辺部のマットな仕上がりとの対比。見所の多い作品だ。

 

井上萬二《白磁花形花器》(1996)東京国立近代美術館

 

色と形だけで白磁本来の美しさを表現した有田焼における人間国宝認定者、井上萬二氏(1929‐)の傑作。口縁の突起部はつけ土によるもの。轆轤成形後の乾燥が始まる僅かな間に完成させるため、相当の技術が必要になる。

 

「大きいにゃ!」サル

 

47㌢あるからね。

 

 

まだまだ著名作品が続く。。

 

十三代 今泉今右衛門《色鍋島薄墨草花文鉢》(1978)東京国立近代美術館

 

色鍋島といえば吹墨。人間国宝、十三代今泉今右衛門の傑作。

 

中島宏《青瓷線彫文平鉢》(2005)東京国立近代美術館

 

青磁を生涯の課題とした中島宏(1941-2018)の“中島ブルー”の代表例。口縁の繊細な貫入も見どころ。

 

十四代 酒井田柿右衛門《濁手つつじ文鉢》(1986)東京国立近代美術館

 

デザインは中島宏が長崎、九十九島の断崖から手折った山躑躅が手本。濁手(にごしで)とは柿右衛門様式の色絵にはマストな純白の素地のことだ。磁器は普通に焼成するとやや青味がかるのが通例だからね。

 

「鳩山会館にあったにゃ」サル

 

この濁手を復興させたのが十二代、十三代の柿右衛門親子なんだ。

 

西端 正《丹波灰釉掛分陶筥》(1989)東京国立近代美術館

 

西端正氏(1948-)は地元、丹波焼の作家。この色目は無釉、鉄釉、灰釉で表現されている。

 

江口勝美《和紙染紺絣刳抜飾陶筥》(1979)東京国立近代美術館

 

これが和紙染だね。和紙を貼った感じが判るでしょ。形成は宮本憲吉もこだわった繰り抜き技法。とりわけ磁器ではむつかしいそうだ。本当に躯体と蓋に寸分の狂いがない。

 

伊藤東彦《布目篠文大鉢》(1984)東京国立近代美術館

 

形成の際に型と素地の間に布を挟むと布目がつく。伊藤東彦(いとう・もとひこ)氏(1939-)はその布目を意識的に取り込んだ。

 

藤原雄《備前擂座大壺》(1974)茨城県陶芸美術館

 

古備前の様式を追求した藤原雄(ふじわら・ゆう)(1932-2001)の大壺。鑑賞のポイントは自然釉の美しい流れ胡麻と焦げ茶色の窯変。擂座(るいざ)とは首周辺に浮紋のついた陶器のこと。

 

小野寺玄《珠洲土壺》(1977)東京国立近代美術館

 

「地味地味シリーズだの」サル

 

炭化焼成由来のこの茶色こそ珠洲焼の特徴らしいよ。単調でありつつ、まず形が斬新。そして微妙なグラデーション。

 

原清《鉄釉馬文大壺》(2005)茨城県陶芸美術館

 

鉄釉陶器で人間国認定された原清(1936-)氏の大壺。馬の形はロウ抜きの技法だ。器体にゴム液を塗って、その上から鉄釉を塗る。固形したゴム液を剥がせば形が浮き上がるという仕組み。輪郭線がクッキリしすぎないのもポイント。ラスコーの壁画を思い出したよ。

 

「最後は派手だった♪」サル

 

陶芸って様々な技法があって面白いよね。ということで第二章は終わり。年内に終結できるか。

 

「誰も期待してないって」サル

 

(第三章へつづく)

 

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