那須芦野・石の美術館
℡)0287‐74‐0228
往訪日:2023年9月1日
所在地:栃木県那須郡那須町芦野2717‐5
拝観時間:(月曜休館/12月末~2月末冬季休館)
10:00~17:00
拝観料:一般800円 小中学生300円
アクセス:東北道・那須ICから約30分
駐車場:約20台
■設計:隈研吾
《建築家のセンスって素晴らしい》
ひつぞうです。九月初めの週末に磐梯・猪苗代方面に遊びました。まだまだ暑い盛りでしたが、折角遠出するので、今まで足を延ばしたことがないエリアに寄り道することに。那須芦野の石の美術館を訪ねました。以下、往訪記です。
★ ★ ★
まず断っておく必要がある。ここは“一般の美術館”、つまり絵画や彫刻などが常設、あるいは企画展示されるような箱物施設ではない。石でできた建築そのものを愛でる。そういう趣旨の美術館だ。なので建築に興味がない方はガッカリしてしまうかもしれない。
「そういうヒツは?」
隈研吾先生の作品ということで是非往訪したかったんだ。
朝のうちは低層の雲が空を覆って、気持ちが塞ぎ込んでしまいそうな超曇天だったが、芦野の町に着く頃には青空が広がっていった。
駐車場は建物の隣に20台ほどのスペースが区切られている。
やはりここは晴天の日に来ないと。建築が判らなくても、フォトジェニックなので誰でも愉しめるかもね。
奥羽街道の宿場だった旧芦野村は、約50年前の市町村合併で那須の一部に併呑されたが、高原のイメージとは異なる独自の文化を育んできた。とりわけ溶結凝灰岩の芦野石は、古くから優れた石材として利用され、地元の産業を支えた。1970年代にピークを迎えたのち、オイルショックや安い外材の攻勢により需要は大幅に減っていくが、現在でも様々な加工品や建設資材として活用されている(以上HPより編集)。
さて当の《石の美術館》である。約30年前。使われなくなった石造りの米蔵を利用できないかと㈱白井石材の社長は考えた。たまたま近傍で知り合いの仕事に関わっていた隈先生に談判。1994年にプロジェクトは始動する。しかし、会社側が示す現実離れした予算と要望は、事務所スタッフを辟易させた。
「素人商いだからにゃ」
そこで社長は言った。「石材は幾らでもある。それにウチの職人はよく働くし腕もいい。こき使ってください」。それを聞いた隈先生とスタッフがどんな表情を浮かべたか、知る由もないが、職人との共同開発が始まった。様々な工夫を重ねて、6年の工期を経て、2000年に完成。翌年1月に美術館はオープンした。
スタッフに内部の説明を受けたのち、見て回ることにした。開場と同時に入館したが、他の客は三組ほど。平日だったことも手伝っているのだろう。
飲み食いはできないけどね。
米蔵三棟をリノベーションして、水盤を張り歩廊を渡してある。西洋庭園のようだ。
正面の蔵が石蔵ギャラリー。隈先生の作品の一部が展示されている。手前のスリットの入った矩形の建物は石と水のギャラリー。版画家、加地保夫氏の作品が展示中だ。更にその右に茶室と石と光のギャラリーが並ぶ。順番はないので好きに見学可能だ。
じゃ、歩廊を渡ってまずは石の学習室に。
纏まっているようで種々雑多(笑)。建設当時の隈先生のインタビューVTRが上映されていた。一応“学習室”の名前を冠しているからだろうか。それとも社長の趣味だろうか(多分こっち)。鉱物コレクションが並んでいた。過去、幾度も博物館で観ているので目新しさはないが、熱意に敬意を表して備忘録。
珪化木
アメリカ・アリゾナ州で大量に発掘販売されている土産物かと。研磨されているし。
珪質化したアンモナイト(マダガスカル産)
三葉虫(モロッコ産)と紅水晶(ブラジル産)
博物館用に購入された標本。完成度は高いので相当お値段は張ったと思われる。
「一気に買い集めたんだろうにゃ」
次の写真、集合体恐怖症(trypophobia)の方は閲覧注意!
見た瞬間に全身が痒くなった!
「じゃ載せなきゃいいじゃん!」
直角石ってイカやタコの仲間の化石なんだよ。まっすぐなオウムガイって感じ?
「なんでそんな変な名前が付いたのかの?」
昔のひとには化石って概念がなかったからね。自然石だと思ったんだよ。
ひとつひとつは貴重なんだけど…。無造作感が半端ない(笑)。
と思ったら…
河野隆英《Combine》
いきなり現代彫刻作品。石っちゃ石なんだけど。奥は石材商談コーナーかな。
河野隆英《作品F03》
こちらも同じ作家さん。芦野石で造られている。化石化したエイリアンって感じ?
「イメージ貧困なんじゃね?」
ま、その程度よ。普通のサラリーマンだし。
大谷石よりは硬度が高いみたいね。ここの石は再建された新橋駅舎にも採用されているそうだ。
「ふむふむ」 じゃこんどいってみゆ
天井には再生材を用いた合板が採用されていた。断熱効果もあるしね。
では次のコーナーへ。
=石と水のギャラリー=
隈先生といえば木のイメージだけど石にも取り組んだんだね。石というのはただ積み重ねると、冷たくて重苦しい印象になるので、職人さんと智恵を出し合ったそうだ。石材の板厚は疲労破壊が起きない限界6㍉に設定。そして、壁面にスリットを取り入れて、柔らかい外光を取り込むことにした。
ギャッラリー内部にも庭園の水盤から直接水が流れ込む仕掛けになっている。那須で活動している版画家、加地保夫氏の作品が展示中だった。
加地保夫氏は1949年愛媛県伊予三島市の生まれ。スペインの国立応用美術学校でリトグラフを学んだそうだ。帰国後、陸前高田市に居を構えるものの、2014年に那須に移転された。記憶に新しい2013年の《救出された絵画たち/陸前高田市立博物館コレクション》にも展示されている。
「美しい青だのー♪」
この作品は陸前海岸をモチーフにしたもの。荒々しい黒潮の流れが時折見せる波濤穏やかな紺碧を海を観るかのようだ。加地氏の作品には自然の猛威への畏怖を基層にした、人間という存在の儚さや不安のようなものを観ることができる。
「と勝手に思っている」
同じ溶結凝灰岩でも、味噌玉が野趣を醸す大谷石と違って、芦野石は淡灰色が美しいね。
直接、次のギャラリーと繋がっていた。
=石蔵ギャラリー=
ここは隈研吾建築設計事務所が手がけた建築作品の石板サンプルが展示されている。
内張りを渡しただけで特に内装は施されていないようだ。
それだけで十分雰囲気が変わっている。
東京農大《食と農の博物館》
用途:博物館
竣工:2004年
場所:日本
材質:芦野石
ここは依然“酒繋がり”で観にいった。
《レイク・ハウス》
用途:別荘
竣工:2011年
場所:日本
材質:芦野石
《ロータス・ハウス》
用途:別荘
竣工:2005年
場所:イギリス
材質:トラバーチン
ネットで観てみるとどれもこれも立派すぎる。大富豪のレジデンスだよ。
「別荘ほしー♪」 サルもサルも
せめて六畳一間にして
《ちょっ蔵広場》
用途:文化施設
場所:日本(栃木)
竣工:2006年
材質:大谷石
味噌玉はないが、空隙からして大谷石だ。既存の蔵の石材をリユースしたそうだ。
《ストーン・カードキャッスル》
用途:新建築
場所:イタリア(ヴェローナ)
竣工:2007年
隈研吾建築設計事務所の特徴は、石材を“ただ積むもの”ではなく、幾何学的な構成をもとに、空間を自在に取り入れて、軽やかさを生み出している点だ。石というのは、光の進入角度で表情がグッと変わる。廉価で大量生産可能な二次製品ばかりが巷にあふれているが、天然素材を見つめ直すのも悪くない。
なにより美しい。
「でも高いよ」 はっきり言っとくけど
とある野望を抱くおサルは建設資材に詳しいのだ。
再び外にでてきた。
では次のコーナーへ。
=茶室=
狭そう。一組ずつしか入れないね
「茶室とはそういうものよ」
ホントに茶釜があるよ。
芦野石と煉瓦だね。
「次で最後だの」
=石と光のギャラリー=
ここから入るみたいね。
なるほど。一番密閉度が高いので一層光を感じるよ。
ここにも加地保夫氏の作品が。
釉薬みたいだね。もしくはアンフォルメル風?割と好きかも。
「サルにはユウレイクラゲに見える」
ロールシャッハ検査じゃないって。
ということで見学終了。一時間あれば十分堪能できる。那須周辺には他にも隈研吾氏が携わった博物館が複数存在する。この日は臨時休業だったりして、往訪できたのはこの一館だけだったが、充分堪能できた。くどいようだが、展示物ではなく建物中心の美術館。イメージと違ったと言わないように、くれぐれもご注意ください。
なので晴天の日がお薦めだ。このあと一路磐梯方面に向かうことにした。
「観光!観光!」 ワインワイン♪
(つづく)
ご訪問ありがとうございます。