サルヒツの温泉めぐり♪【第160回】
奥蓼科温泉郷 山の宿 明治温泉
℡)0266‐67‐2660
往訪日:2023年8月19日~8月20日
所在地:長野県茅野市奥蓼科4734
源泉名:明治温泉
泉質:鉄炭酸泉
泉温:(源泉)23.6℃(浴槽)約42℃
匂味:鉄臭、炭酸味・収斂性のある微酸味
色調:透明~赤褐色
pH:3.6
湧出量:75.1㍑/min
その他:自然湧出、源泉(冷鉱泉)は無濾過、かけ流し
■営業時間:(IN)15時(OUT)10時
■料金:(滝側)12,272円(税別)
■客室:16室
■アクセス:中央道:諏訪ICから約35分
■駐車場:約30台
《やっぱり夏は冷鉱泉》
ひつぞうです。今回の旅のゴールは奥蓼科温泉郷の明治温泉でした。江戸時代中期に発見され、以来農閑期の村びとの湯治場として賑わいました。宿の開業は1888(明治21)年。ただし、屋号の由来は元号ではなく“明らかに病が治る”ことに因むと言われています。憧れ続けてきた宿でした。以下、滞在記です。
★ ★ ★
奥蓼科温泉郷の開発に当たっては、渋辰野館を創業した辰野茂翁の功績に負う処が大きい。その後、一帯は一大保養地として発展てきた。しかし、バブル崩壊などによって温泉経営は厳しい岐路に立たされている。明治温泉も例外ではない。コロナ禍の襲来は、現五代目館主・鈴木義明氏が経営を引き継いだ矢先の出来事だった。※因みに明治温泉はこのあたりでは珍しく世襲制ではない。
この日、富士見で食事を終えた僕らは、通い慣れた南八ヶ岳西麓の扇状地を快調に進んだ。そして渋辰雄館に続く湯みち街道の66体の観音像を眼の端に捉えながら坂を登っていった。
間もなく御射鹿池が見えてくる。この日も大勢の観光客が散策を愉しんでいた。その先に明治温泉に至る細い道が続いていた。
一車線程度の坂をくだったドン詰まりが明治温泉だった。この一段下におしどり隠しの滝がある。滝見のついでに立ち寄る日帰り客も多く、駐車場には車が並んでいた。
案内を乞うと人懐こい笑みを湛えた館主の鈴木さんが出迎えてくれた。
ロビーには無料のマッサージ機や本(というより100%漫画)が設えてあった。年越しの頃は水源が涸れるなどして、経営的にかなり深刻だったらしく、一時は廃業も考えたという。だが、クラウドと持ち前の明るさで乗り切り、今後は建物の前にオートキャンプ場の建設も計画しているとか。是非頑張ってほしい。
宿泊客には無料サービス。ありがたい。
八ヶ岳の噴火が齎した溶岩の岩塊が積み重なっている様子がロビーから見えた。この先に源泉が湧き出ているそうだ。
明治40年頃の写真。同じ場所を少し高い位置から撮影している。まだ樹林も粗く、湯治棟の前には馬に乗った客の姿が見える。更には鴛鴦隠しの滝に立つ人の姿も。
「雰囲気あゆ~」
大浴場はここから地階にくだった場所。宿泊棟は階段を上がった二階だ。
昔の造りそのまま。なのでトイレと手洗いは共用。
部屋は渓流側と山側(玄関側)で料金が異なる。もちろん景色のいい沢側の部屋をとった。
ここが僕らの部屋だ。
さすがに標高が高いと涼しい。布団はセルフ式だ。
テレビと金庫は完備。コストカットなのだろう。ウェルカムスイーツはない。なくて構わない。
「糖質制限中だしにゃ」
窓外の眺めはいい。夕方になればヒグラシの鳴き声が涼味を誘う。鉤型に曲がった先は休憩室になっている。ただし、直結していないので一階に降りて別の階段を使わなければならない。
こんな感じだ。恐らく以前は大部屋だったのではないだろうか。
そこから僕らの部屋が見えた。当たり前だけど。
眼下はナメナメの連瀑。緑色の苔のようなものは酸性を好むチャツボミゴケの一大群落らしい。
では温泉探検に出かけよう!
=明治温泉の特徴=
■温泉
・鉄分と炭酸成分豊かな冷鉱泉
・冷泉と加温泉あり
■部屋
・昭和テイストの造り
・沢側と山側で別料金
・トイレと洗面所供用
・布団セルフ式
■料理
・地産品を贅沢に使ったこだわりの料理
=当館の攻略法=
■浴場
・大浴場の中に3コーナー集まるスタイル
…【外湯】展望大浴場(加温+循環)
…【内湯】開放式露天風呂(加温+無濾過)
…冷泉打たせ湯(源泉)
・男女別
・入替なし
■泉質
・全て同じ
■利用時間
・24時間利用可能(9時~11時清掃)
■貸切利用
・なし
■日帰り利用
・11時~15時(退館16時)
・一般1,000円 小学生以下500円
内湯&外湯(沸かし湯)、源泉(冷鉱泉)の全てが大浴場に集まっているうえ、男女入替もない。まずは源泉の冷泉狙い。初日は汗を流して冷泉でリラックス。翌朝一番にヴァージン湯をゲットすることにした。
では階段を下って…
暖簾をくぐれば…
脱衣室だ。
日帰り客が入れ替わり立ち代わりやってくる。16時を回ると漸く静かになった。
こちらが外湯。温度は約42℃。加熱&濾過式なので泉質としての有難味は薄い。だが、鉄分が酸化しているぶん雰囲気は抜群だ。
開放式露天風呂(外湯)といっても硝子戸で区切られているだけで、本当の意味での露天風呂ではない。
こちらが源泉かけ流しの冷泉。打たせは一本しか流れていない。渋辰野館の冷泉は息が止まるほど冷たいが、ここは然程でもない。慣れればかなり気持ちいい温度だ。僕はずっとここに陣取っていた。隣りに打たせジジイが度々来ては飛沫がバシバシ顔に当たる。この野郎と思ったが、紳士然とするのが温泉愛好家というもの。気にしてはいけない。
「大人になったのー」
外湯に入ってみる。なるほど。約40℃というところか。これもまた気持ちいい。肌寒い時刻になればこっちかもしれない。しかし、渋辰野館までは直線距離で1.3㌔程しか離れていないのに、こうも泉質が違うとは。むしろ20㌔離れている毒沢温泉の泉質に酷似しているのが面白い。
洗い場はこんな感じだ。
光の加減では然程濁っていないのが判る。
(分析表)
炭酸泉と謳われ、実際に特有の香りがあるにも関わらず、炭酸イオンは「-」表示。圧倒的に硫酸イオン、そして塩化物イオン、ナトリウムイオンが目立つ。分析表にはなぜか泉質表示もされていなかった。
★ ★ ★
充分過ぎるほど入ったので崖下の鴛鴦隠しの滝を見物することにした。
登り下り譲り合って利用しよう。
見事なスダレの滑滝が連続している。眼を凝らすと右岸に階段が設置されていた。館主に訊くと下流の横谷温泉の辺りから遊歩道が続いているらしい。来年くらいから沢歩きのイベントも企画しているという。10㍍ほど左岸下流側に湧き水が甕で受けてあるので飲んでみてくださいと言われたので、早速行ってみた。おサルは大の湧き水好きなのだ。
「汲んで帰る」
風情のある雫のような湧き水。保健所の検査に合格しているので安全らしい。
「うみゃい!」
本当に甘露な湧き水だった。このあともう一度冷泉を浴びに戻った。
=夕 食=
《明治温泉旅館》から《山の宿明治温泉》に変わって食事に力を入れていると聞く。愉しみだ。
「ごめんください」 もうペコペコよ
堅豆腐 田舎蕎麦 大岩魚の昆布〆 パプリカの甘酢漬け
堅豆腐は柚子味噌で。大豆の風味が豊か。癖になる味。
「ほんとだ!食感もいいにゃ」 初めてかも
他方、大岩魚はじっくり昆布の旨味を含ませてある。醤油は不要だ。
鶏胸肉の陶板焼き
合わせ味噌の旨味が決め手。これは酒が欲しいところ。
「頼んでちょ」
日本酒は地元消費の高天か…。真澄の純米吟醸があるのでこれにしよう。
出てきたのは純米吟醸ではなった…。アル添の普通酒じゃん。まいいや。同一料金だし。
(あまり酒にはこだわりがない宿のようだ)
真澄辛口ゴールド
製造年月:23年7月
生産者:宮坂醸造㈱
所在地:長野県諏訪市
タイプ:普通酒(アル添)
使用米:不明
精米歩合:不明
アルコール:15度
夏野菜の天麩羅(ズッキーニ、南瓜、薩摩芋、蓮根)
「でも天麩羅にあうよ。このお酒」
ヒメマスの甘露煮 食用ホオズキを添えて
丸二日間煮込んだって。
「確かに頭から食べられる」 ふわふわ
食用ホオズキは蓼科高原特産のゴールデンベリー。酸味の効いたフルーツみたい。ハマりそう。
糸寒天とブナシメジの澄まし汁
諏訪といえば寒天だしね。ご馳走様でした。昼の蕎麦大盛りは失敗だったね。
「それみろ」
随分簡単なデザートだと思ったけど、諏訪ってカステラが有名なんだね。
酔いが醒めたら温泉に、なんてことを言っていたが、ストンと寝てしまったのは言うまでもない。
「やっぱムリ」
=翌 朝=
太陽の光に誘われて滝を見に降りてみた。
清清しい景色にしばし無言で見入ってしまった。まだ午前六時頃だったが、撮影にきているカメラマンが散見された。
「水量減ったにゃ」
昼を過ぎれば再び入道雲に覆われるだろう。朝一番が見頃かもしれない。
脇に設えられた石碑には、国立科学博物館の植物研究部長・井上浩氏によって、チャツボミゴケと同定されたことの記念と、以後の環境保護の宣言書として建立されていた(昭和62年11月)。
ところでおサル何やってんの?
「水を汲んでおくのち」 帰りだと慌ただしいし
でも朝食まで時間ないよ。
10㍑入りのポリタンク×2個分も汲んだので、結局食事の時間に遅れてしまった。
「ひとつ汲むのに10分かかるからにゃ」 でも達成感120%!
汲み過ぎだよ
=朝 食=
誇らしげに崖下から10㍑入りポリタンク2個を抱え上げてきた僕らは、他の客の好奇心をいたく刺激したらしく、皆「何かあるんですか」とスタッフに訊いていた。だからと言って、同じように汲みに行く客は皆無だった。
「車内に常備しているからにゃ」
そんな酔狂、おサルだけだよ。
朝食も綺麗。女子ウケするね。
温泉豆腐
地元農家の朝採れ卵。白身の隆起で新鮮さが判る。
信州味噌と京味噌を合わせた自慢の味噌汁。ご馳走様でした。
料理自慢の明治温泉という触れ込みは間違いなかった。リピーターが増えて、盛況が続くことを祈るばかりだ。
車に荷物を詰め込んで帰り支度をしていると、前日は恥ずかしかったのか、なかなか出てこなかったお婆ちゃん秋田犬のオカミが興味深そうに僕らの所作を見守っていた。この冬から明治温泉に仲間入りしたそうだ。
暇乞いを告げたのち、いつもの自由農園で高原野菜をたくさん買って、一箇所寄り道することにした。
「大満足♪」
(つづく)
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