名建築に泊る「学士会館」(東京都・神田錦町) | ひつぞうとおサル妻の山旅日記

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ひつぞうです。
おサル妻との山旅を中心に日々の出来事を綴ってみます。

名建築シリーズ26

学士会館

℡)03‐3292‐5938

 

往訪日:2023年8月4日~8月5日

所在地:東京都千代田区神田錦町3‐28

利用時間:

(IN)14:00~21:00

(OUT)7:00~11:00

門限:24時

朝食:7:00~10:00(セブンズハウス)

料金:7,500円/人(朝食付・税別)

客室:24室

アクセス:都営三田線・神保町駅(A9)から徒歩1分

■設計:高橋貞太郎・佐野利器

■施工:戸田組(現戸田建設)

■竣工:1928年

■登録有形文化財(2003年指定)

 

《高層ビルに囲まれた瀟洒なモダンデザイン》

 

 

ひつぞうです。ひと月前の夏の盛りに神保町界隈にある学士会館に滞在しました。ここは上高地帝国ホテル高島屋日本橋店の設計で知られる高橋貞太郎と、その恩師・佐野利器が設計に当たった名建築でもあります。一度は泊まりたかった場所でした。以下、滞在記です。

 

★ ★ ★

 

学士会館には一方ならない思い出がある。学生時代のゼミの教授が、東京出張の折に必ず宿泊していたのがここだった。その後、社会人になり、いつしか先輩の“卒業”を見送る立場になった。歳月が流れるのは早い。人事担当の先輩が奢ってくれた握り鮨。それが今に繋がった。人生の岐路など案外単純なことで決まる。その先輩の送別会場も学士会館だった。それ以降、コロナ禍や何かかやで同門が集まることはなくなった。

 

 

久しぶりにやってきた。明るい時間に来るのは初めてだ。

 

竣工は1928(昭和3)年。総工費106万円(現在の価値に換算すると約40億円)。㈱学士会館精養軒が経営する、ホテル・食堂・集会場などを含む鉄筋コンクリート造四階建ての総合施設として誕生した。ちなみに上野の精養軒から1932(昭和7)年に独立し、会社組織としては関係ないそうだ。

 

「五階建ての部分があるけど?」サル どゆこと?

 

それは大阪農林会館などを設計した藤村朗による増築部分だね。

 

 

構造設計の父と呼ばれる佐野利器と、意匠設計を担当した教え子の高橋貞太郎。ふたりの共同作業の結晶といえる。

 

 

基礎にはアメリカから輸入された松杭1300本が打ち込まれた。その長さ17㍍。径35㌢。1984(昭和59)年の調査で、基準以上の強度を維持していることが判っている。

 

「年輪が緻密だにゃ」サル

 

さすが北米産だね。

 

 

アーチ型の正門のフェイクの要石に、智慧と平和の象徴であるオリーブのレリーフと「學士會館」の文字が凛凛しく浮かぶ。

 

 

この大燈籠は戦時中の金属供出で一度は失われた。復元は2003(平成15)年。

 

 

中華料理《紅楼夢》日本料理《二色》フレンチ《ラタン》、そして、カフェ《セブンズハウス》が営業している。朝食はセットだが、夕食は個別予約になる。もちろん食事だけの利用でも構わない。(※残念ながらこの8月でラタンの営業は終了してしまいました

 

「なんで学士会館っていうのかの?」サル 学校みたい

 

そもそもの起こりは1886(明治19)年の春に、東京大学が“帝国大学”に組織改称した際に催された加藤弘之総長への退官謝恩会にある。それが学士会のスタートなんだ。組織ができれば集いの場所が欲しい。そこで神田三崎町に木造施設を建設するが火事で全焼。その後も関東大震災など不運が続き、1928(昭和3)年に現在の建物がようやく完成した。

 

「東大ゆかりの施設だったのきゃ」サル

 

 

そもそもここは東大揺籃の地。正確にいえばその前身である開成学校だ。その後、東京医学校と統合して東京大学が発足。1885(明治18)年に本郷に移転するまで、ここが学び舎だったわけ。ちなみに漱石の東大(厳密にいえば帝国大学。この当時、帝国大学はここだけだった)入学は1890年。

 

(参考資料)

歌川国輝筆 錦絵《東京第一大學區開成學校開業式之圖》

 

「こんなだったんだ」サル

 

その後、全国に七帝大が設立されて、卒業生の親睦の場として歴史を築いてきた。ただし、2004年に一般利用も可能になり、現在に至っている。

 

「施設は全部利用できるの?」サル

 

親睦会場としての碁会所や撞球場、読書室は、学士会メンバーでないと利用できない。会員の多くはリタイア組と思しき人生の先輩ばかり。特典といえば宿泊料金が割引になるくらいか。学士(卒業生)である以外に会費を納めないとダメだけど。

 

 

二階から上は戦前まで流行したスクラッチタイル貼り。フランク・ロイド・ライトが生みの親だね。

 

銀座ライオンもそうだったっけ」サル

 

そうそう。

 

 

とりあえず車寄せのある北口から。

 

 

この先にフロントがあるんだ。

 

 

緋色の絨毯にトラバーチンの壁。

 

 

飾り窓はセセッション式。時代を象徴しているね。

 

 

では受付を。と思ったが、まだチェックインには早すぎる。カフェでお茶しよう。

 

「うむ」サル 冷たいもの飲む

 

 

「だれこれ?」サル

 

国際法の大家、山田三良博士だよ。それ以上聞かないで。

 

 

豪華だね。でもさ。お部屋は(スイート以外は)ほんと普通だよ。がっかりする人多いから予め断っておくけど。

 

「いいよ。旨いワインさえ飲めれば」サル 気にすんな

 

どのみちすぐ寝ちゃうしね(笑)。それにクラシック系にしては破格の宿泊料だし。

 

 

手摺の造形も素敵。落下防止の樹脂パネルが無粋だけど。

 

「落ちる人いるからにゃ」サル いやマジで

 

 

モルタルの彫刻も凝っている。

 

 

「ここは?」サル

 

七大学展示コーナーだね。実態は卒業生への同窓会費カンパ要請コーナー。

 

 

さすが大阪の大学。商魂逞しいね。酒に健康グミにコーヒー。いろいろ開発中。

 

 

なんと無欲な京大。唯我独尊の精神か。

 

 

とにかく卒業生のカンパが必要らしい。

 

 

ノーベル賞受賞者を多数輩出しているのに謙虚な名大。

 

「ノリタケの土地柄かの」サル カップ造ってる

 

 

北海道らしく観光地っぽい。

 

 

もはや全然別の学校になったな。小汚さがウリだったのに。

 

中でも異彩を放っていたのが東大。

 

 

なんすか。これ?

 

 

「巻貝とか?」サル

 

 

チマキボラのこと?なんか違うような…。

 

 

なんのことやらさっぱりよ。大学の紹介になる?これ?

 

「東大っぽい」サル チョー難しそう

 

(早朝です)

 

その隣りは談話室。昼間は利用者が多い。

 

ということでカフェへ。

 

 

いいね。とってもモダン。

 

 

トイレもモダン。

 

 

正門はこんな感じ。

 

 

開き戸のデザインも秀逸。PULLじゃなくて「引」だもんね。

 

 

天井の漆喰装飾も見事。

 

「忙しいねキミも」サル 落ち着けよ

 

 

レストランフロア。ここが一番映えるね。

 

 

ということでセブンズハウスでお茶することに。アルコールもあるけど。

 

 

ジンジャエール学士会館タルトを頂戴した。

季節ごとに果物が変わる当館名物。この日はプラム。

 

「よくもまあそんな甘いものを」サル

 

 

=宿泊室=

 

時間になったのでチェックインした。

 

 

宿泊室は4階。エレベーターを出ると会員倶楽部に面していた。爺様たち(と云っても勿論学士さま)が囲碁や将棋に興じていた。僕らの部屋は401号室だ。

 

「一番遠い!」サル なんでじゃ

 

ツインの部屋(4室のみ)だからね。殆どがシングルなんだよ。

 

 

なにやら難しそうな本が。

 

「将棋の本みたいよ」サル

 

なんだ。法律書かと思ったよ。

 

 

最初に理事長室。そこから左に客室が続く。

 

 

遠いね…。

 

 

途中に応接室があった。どういう訳か女性更衣室がある。

 

 

ついたよ。ドアが巨大だ。欧米人対策?

 

「ノブ位置が高い」サル 困ゆ~

 

 

ほらね。お布団がほとんど民宿(笑)。本当のクラシシズムが味わえる。

 

 

「これバスルーム?」サル 驚くことばっかり

 

後から付け足したんだよ。ビフォーアフターに出てくる家みたいでしょ。

 

 

ということで暫く談笑タイム。

 

 

バルコニーがあるけど顔を出すことはできない。無理やりスマホを差し出して撮ってみた。

 

 

最上階に展望施設があるから行ってみよう。

 

 

ブライダルコーナーですな。ここからテラスに出る。

 

 

眺めはいいけど灼熱地獄だった…。長く居ると死ぬ。

 

 

左に見えるのは小学館ビル。恰好いいね。設計は組織系大手の日建設計。

 

 

一面スクラッチタイルだった。暑さに耐えられない。部屋に戻ってビールを頂戴した。

 

この後は周辺界隈を散策。食事は一階のフレンチ《ラタン》で取ることに。残念ながら8月一杯で営業を終えた。良い店だったのに。学士会会員との協議のうえでの決断だったそうだ。

 

※ディナーのメモは次回紹介。

 

 

=翌 朝=

 

時刻は午前5時40分。この日もジョギングがてら路上観察へ。

 

 

学士会館をスタート。

 

 

建物の脇にこんな石碑が。かつては上州安中藩の江戸屋敷だったそうだ。キリスト教布教に生涯を捧げた新島襄はここで誕生した。

 

この後、聖橋に向かった。

 

 

朝日に輝く御茶ノ水ソラシティ。始発列車が通り過ぎていく。

 

 

医科歯科大方面。早朝の都内は人の姿が殆どない。そして美しい。その後、竹橋まで周回して部屋に戻った。

 

(東大で野球を教えたホーレス・ウィルソンの顕彰碑)

 

戻ってきたよ。

 

 

=朝 食=

 

 

朝食はセブンズハウスで。洋食、和食いずれかを前日に予約する。

 

金曜の投宿だったので学会参加の出張と思しき先生が数名いるのみ。

 

 

ピングレの生ジュースが美味しい。飾り気はないけれど品のある朝食だった。

 

★ ★ ★

 

戦前の2.26事件では東京警備隊司令部が設置され、戦後はGHQに接収されるなど、波乱の歴史を潜り抜けてきた学士会館。いまだ接客業界はむつかしい時代が続いているが、歴史の灯を消さずにいつまでも喧噪の絶えない場所であって欲しい。

 

(夕食篇に続く)

 

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