京都・智積院の名宝 抒情と荘厳
℡)03-3479-8600
往訪日:2022年12月24日
会場:サントリー美術館
場所:東京ミッドタウン・ガレリア3階
会期:2022年11月30日~2023年1月22日
開場時間:10時~18時(火曜定休)
料金:一般1500円 大高生1000円
アクセス:地下鉄・六本木駅から徒歩5分
※画像の幾つかをネットよりお借りしました。
ひつぞうです。クリスマス・イブは都内散策に充てました。向かったのは六本木のサントリー美術館。現在、京都の真言宗・智積院の名宝展が開催されています。智積院といえば桃山絵画を代表する長谷川等伯ゆかりの寺。いずれも国宝揃いの名品です。「等伯」「国宝」というタイトルだと長蛇の列なのですが、切り口が「智積院」だと左程混まない。ありがたいことです。以下、往訪記です。
★ ★ ★
今年最後の美術館めぐり。今年は山旅を減らした替わりに、たくさんの美術館めぐりをした。歴史を感じさせる東京国立博物館も好いが、ここサントリー美術館は玄人好みな企画が多くて眼が離せない。
タイトルもいい。抒情と荘厳。桃山絵画(とりわけ等伯一門)の抒情性と真言密教の荘厳。それを一度に鑑賞できる。ここの学芸員さんは素晴らしい目利きだと思うね。
まずは“智積院とはなにか”をおさらい。
弘法大師像 室町時代 文安元年(1444年)
京都・智積院。真言宗智山派の総本山だ。創建から今に至る歴史はやや複雑。12世紀の初頭、中世のスーパースター空海が興した高野山は荒廃の極みにあり、仏陀の教えを忘れた生臭坊主が跋扈する有り様だった。そこに現れたのが、中興の祖・興教大師こと覚鑁(かくばん)だ。
興教大師像 鎌倉時代 13世紀
時は室町時代中期。覚鑁の尽力で紀伊国に根来寺が建立され、再び真言密教の栄華が戻ってくる。その数多ある塔頭のひとつが智積院だったそうだ。
「ふむふむ」どんどん進めて
しかし、時の関白・秀吉に睨まれて根来寺は窮地に陥る。とにかくね。利休もしかり「俺様が一番」の秀吉に睨まれてはたまらない。有名な根来攻めが勃発する。ところが神は、じゃなかった、御仏は見放さなかった。関ヶ原の戦いで家康が国盗りに勝利すると、秀吉ゆかりの寺だった祥雲寺を併呑し、今の智積院の姿が完成する。かなり粗いメモだが、大筋合っていると思う。
「お宝はどこから来たのち?」
この祥雲寺を呑み込んだというのがポイントで、ここが長谷川等伯の障壁画でいっぱいだったんだよ。桃山絵画の大御所といえば狩野永徳。その永徳が邪魔立てするほど、等伯は技量に秀でた新進実力派だったんだよね。その等伯が表舞台に立てたのは時の権力者、秀吉や利休の後ろ盾があったからだと言われている。では、等伯の障壁画から見ていこう。
★ ★ ★
展示内容は以下の通り。
第1章 空海から智積院へ
第2章 桃山絵画の精華 長谷川派の障壁画
第3章 学山智山の仏教美術
第4章 東アジアの名品集う寺
今回の目玉は《楓図》と《桜図》の外部初公開。
国宝 《楓図》 長谷川等伯 桃山時代(16世紀)
等伯代表作のひとつ。水墨画の傑作《松林図》もいいけれど、やはり金箔尽くしの絢爛豪華な紺碧障壁画がいかにも桃山美術という気がする。襖絵だったものを改変した作品で、中央の楓の巨樹が存在感を示す。かなり大胆なデフォルメは、両腕を延ばす人間のようにも見えるね。それでいて下草の花々はどこまでも写実的なんだ。
国宝 《桜図》 長谷川久蔵 桃山時代(16世紀)
これは等伯の息子、29歳で早逝した久蔵の最後の作と云われる。父親と違って女性的な構成を感じる。枝垂れ桜の枝の湾曲と花房の配置が見事。写真では伝わらないけれど、桜の顔料に用いられた胡粉が、まるで落雁のように盛りあがっている。もうね。これでもかってくらい。よく観察すると、他の障壁画も胡粉が施された花が多いんだ。
「なんで」?もきょ
三歳で病死した秀吉の嫡男・鶴松を弔うためと云われるよ。亡くなったのがちょうど夏草繁る八月の初めだったから。
国宝 《松に黄蜀葵図》 長谷川等伯 桃山時代(16世紀)
黄蜀葵とかいて「とろろあおい」と読む。これってなんでしょ?
「むひー。トロロっていうくらいだからネバネバ系?」
正解!花オクラだね。
「天婦羅にして食べると美味しいにゃ」
食い物の話は別の機会に譲るとして、この絵も鶴丸の菩提に手向けるための作品だったとか。ここでも極端なデフォルメと細密画法が同居してるね。他にもたくさんの障壁画が出展されていた。特別公開でしか見られない作品ばかり。そんなに混んでいないし、ゆっくり鑑賞できた。
★ ★ ★
それ以外に気になった作品を数点紹介して終わりにしよう。
国宝 金剛経(部分) 張即之 南宋時代(1253年)
これを観たとき、思わず鳥肌が立ったよ。智積院には(功徳を積むためだろうか)多くの有職者から仏教美術や工藝品が寄進されたそうだ。この金剛経は中国の書家・張即之の代表作。縦横の強弱がしっかりした惚れ惚れするような美麗体。そのうえ、まったくぶれない。
「どーゆーこと?」
例えば「人」「如」など繰り返して認められる文字があるでしょ。まるで印刷のように文字が一緒!
「バランスとるのが難しい字も旨いにゃ」
そうね。「一」とか「多」とか自分で筆を執るとけっこう難しいよね。あまりの美しさに、書の手本として大流行したんだって。
《童子経曼荼羅図》 鎌倉時代(13世紀)
これも思わず食い入って観てしまった。童子経とは生まれた子供の無病息災を祈願するお経。栴檀乾闥婆(せんだんけんだつば)を中央に配して、子供に病を齎す女神や獣の姿をした十五鬼神が描かれる。取りつかれた鬼神ごとに、子供に現れる症状が記されている。
《瀑布図》 南宋時代 13世紀
中国南宋時代の水墨画。墨の濃淡と筆致の強弱だけで巨瀑と嶮しい岩稜、そして渦巻く滝壺の様子を表している。ひょっとしたら、こうした構図の妙を後世の北斎なども観たのかもしれないね。
堂本印象 《婦女喫茶図》 昭和33年(1958年)
これも珍しい。普段非公開の堂本印象による襖絵。昭和33年に建立された宸殿のために描かれたそうだ。京都画壇の重鎮・印象はもともと日本画家だけど、西洋絵画の技法も積極的に取り入れた、いわゆる伝統一筋ではない画家。本作も松葉の処理などにキュビスムの影響が見て取れる。色鮮やかで観ているだけで心が温かくなる作品だ。他には智積院ゆかりの画家、土田麦僊の《朝顔図》も普段は非公開ながら、じっくり鑑賞できた。
ちなみに「学芸員による展示レクチャー」と「エデュケーターによる鑑賞ガイド」はとても判りやすく、鑑賞の一助になること間違いなし。席に空きがあれば予約なしでも参加できる(11時、14時の二回)。
さて、年末最後の街歩き。近場でランチして帰ることにした。
「ハラヘッタ」サルは花よりダンゴかも
花より酒でしょ。
(おわり)
ご訪問ありがとうございます。