さるひつの温泉めぐり♪【第62回】
越後の里 親鸞聖人総合会館 西方の湯
往訪日:2019年5月2日
所在地:新潟県胎内市村松浜上畑2-35
泉名:N12-2号
泉質:ナトリウム-塩化物強塩温泉
泉温:60.7度
色合:淡褐色透明
味匂:強烈な塩味/ゴムを焦がしたような臭い、微量の薬品臭
pH値:7.5
■営業時間:午前10時~午後8時
■料金:(大人)500円(子供)300円
■駐車場:約200台
≪これが噂のカルト温泉≫
こんばんは。いまだGWネタを引き摺っているひつぞうです。新潟遠征の終章はカルト温泉の巨星「西方の湯」でした。
★ ★ ★
石油の里・新潟には幾つか油臭のする温泉がある。先日訪れた新津温泉も強烈だったが、それを遥かに凌ぐ珍湯が胎内市にあると、やはり温泉通である出湯温泉は清廣館の若旦那に教えてもらった。黒褐色の湯からはクレゾールともアンモニアとも表現しがたい強烈な臭いが沸き立ち、とても人間様が身体を浸すような代物とは思えないという。是非這入ってみたくなった。
新津から片道80kmの距離を高速道路を経由して胎内市にやってきた。たかだか500円の日帰り施設を利用するためである。中条ICで降りて遮るもののない砂浜の一本道をひた走った。
「酔狂だのう。ひつぞうだのう」
遠くに巨大な親鸞聖人像が見えてくる。一見して宗教施設と判る。なにも知らなければ確実に敬して遠ざけるだろう。知っていてもここが温泉施設とはまず判らない。百台以上は優に停められる巨大な駐車場に先客は一台だけだった。本当に営業しているのだろうか。
「探偵ナイトスクープ」や雑誌でも取り上げられた場所である。GWともなれば国中から温泉マニアがこぞってやってくるに違いない。そう思っていたのだ。
一応やっているようだ。
見るからにあやしい。仏陀とその弟子のレリーフ。紫水晶の置物。蓮をかたどった電飾。地方の秘宝館や土産物屋のノリである。最後に高額な壺を勧められたりしないだろうか…。
と勝手に盛り上がっていたものの、まったくスタッフが現れる気配がない。痩せた黒猫が見慣れぬ僕らに警戒しながら部屋の隅に姿を消しただけ。だが、漏れてくるテレビの音で、奥の部屋に誰かがいることだけは判る。
「す~み~ませ~ん!」
何度呼びかけたことだろう。最後はカウンターに乗り出して二人で叫んだ。僕らの気配に気づいたというよりも、たまたま用があって出てきた人の好さそうな老爺を掴まえて、ようやく湯を借りることができた。最初から(違った意味で)ハードルが高いよ…。
節電対策なのだろうか。屋内の電気は全て球が取られていた。食堂だった場所も今は物置きになり、かつての賑わいは夢のあとだった。
脱衣場は広い。ロッカーは鍵が付いているので心配無用。しかし、新津温泉で体験したような、廊下を歩いている時点で感じた油臭さが全くしないのだ。
西方の湯の源泉はJX石油開発(旧ジャパンエナジー石油開発)の天然ガス坑井から動力揚湯された鹹水である。かつては5種類の坑井から源泉が引かれ、それが特有の黒湯を齎していたのだが、配管の老朽化により、源泉が現在のN12-2井のみになってしまった。そのせいで全然おとなしい湯になったのだとか。
これは…。ごく普通の温泉ではないか。どことなく漂うクレゾールや焦がしたゴムのような臭いもするにはするが、普通の塩化物泉の良い匂いが勝っている。そして、魔物のように例えられてきた黒い液体はどこにもなく、鉄分とヨウ素のもたらす淡褐色の湯が、西陽に揺らいでいるのに過ぎなかった。
浴槽は「ぬるめ」と「熱め」に別れている。かけ湯をしてまずはぬる湯から。因みに誰もいない。完全貸し切り状態。
「すっごく好い温泉だにゃあ!」
なんか複雑な気分。
掻き混ぜると褐色に色づいた湯の花が舞い上がった。そう。もはや伝説のカルト温泉はどこにもなく、万人受けする大人しい温泉がそこにあった。
「そんなにう○この湯に這入りたかったのち?」
まあね。せっかくの珍湯だし。
「ひつぞうは唯のヘンタイなんじゃね」
どう言われようと、ひろくあまねく温泉を知り尽くしたいの!
でもそれはもう叶わぬ夢となってしまった。道理でマニア然とした客がいない訳だよ。
かつての黒湯の正体はヨウ化物、アンモニウム、臭化物などのイオン成分であり、匂いはともかく泉質としては抜群だったのだ。現在の成分表を見ると確かにアンモニウム、臭素、ヨウ素は比較的含まれているが、カルシウム、塩素、炭酸水素が群を抜いている。いわゆる重曹泉である。
洗い場もシャンプー、石鹸と揃っている。
眺望もいいし、泉質も申し分ない。そして貸し切り。贅沢と云えば贅沢。
でも物足りなかった。
熱湯に入ってみる。さして熱いという訳でもない。その後、二人の客が現れ、鴉の行水のように出ていった。
これはこれで大層素晴らしい泉質なのだが。
源泉さまに礼拝し、少し味見してみる。強烈な鹹味でとても嚥下できなかった。加えて特有の苦みもある。
水風呂もあるので水と湯に交互に入って代謝UPを試みる。何を普通に愉しんでいるのだ僕は。
新津温泉の時のような、悶絶しそうな息苦しさはなく、いつまでも入浴可能な一般客向け営業に切り替えたのだろうか。
動力揚泉とはいえ、この卓越した湯量は瞠目に値するが。
ぽっかり開いた心の隙間を、満たしてくれる珍湯はこのさき見つかるだろうか。
「なにごちゃごちゃ言っているのちにゃ。出るよ!」
はいはい。
余りの客の少なさゆえ「廃業してしまう前に一度は入ろう」と多くのマニアが口を揃えるが、宗教法人の底力でいつまでも栄えてくれるのではないだろうか。
神の気紛れで泉質が戻ることもあるかも知れないと、淡い期待を抱きながら当館を後にした。いや、神ではなく仏だった…。
(終わり)
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