「 阿川佐和子の世界一受けたい授業 」
阿川佐和子 （あがわ さわこ １９５３～）
株式会社文藝春秋 平成２４年１１月発行・より
～ 授業① クラシック音楽について 小澤征爾 ～
小澤 彼（カラヤン）は自分に対してすごい規制があって、たとえば音楽会
が終わると、大酒飲まないで、誰にも会わず帰るんです。
阿川 何でですか。
小澤 やったことは早く忘れて、うちへ帰って、お風呂に入って、いいグラ
スで ちょっとだけ赤ワイン飲んで、脂身のない肉をちょこっと食べ
て、サラダ食って、それで寝ちゃうんですよ。
僕たちみたいな普通の指揮者のように、終わると ガバガバとビール
飲んだり しないんだ。
阿川 普通は、ビール、ガバガバ なんですか （笑）。
小澤 アハハハハ。 みんな気晴らしするじゃない。
で、今、音楽会で起こったことを クヨクヨ言ったりするわけだよ。
「ああ、しまった」 とか 「あの馬鹿野郎、あそこで間違えやがっ
て」 とか （笑）。
阿川 アハハ。 そうなんだ。
小澤 でも、カラヤン先生はそういうこと全然しない。 忘れるんですよ。
そのために、「今日はよかったですね」 なんて言う お客に会いたく
ないんですね。
阿川 褒められるのも嫌なんですか ！？
小澤 嫌なんですよ、忘れたいわけ。
僕、それが分かるまで何年もかかりました。
それが分かったら、彼が 「今日は帰りの車に一緒に乗れ」 って。
乗ったら、絶対今日やったことは話さないんです。
阿川 じゃ、何を話すんですか。
小澤 彼や僕の娘の話とかして、彼のうちに行って、脂身のない薄い肉
食って、サラダ食って、赤ワインも （指を五センチぐらい開いて）
このくらいで、三杯目になったら、もう くれなくて、ビールくれ なん
て言ったら、とんでもなくて （笑）。
阿川 アハハハハ。 普段は音楽の話は してくださらないんですか。
小澤 いや、そういうときは、僕の話ですよ。
ボストンで何演奏したとか、次は何やるとか。
これ あんまり知られてないんだけど、カラヤン先生が亡くなるちょっ
と前まで、僕がザルツブルグとかベルリンに行くときは、彼が僕の
プログラムをつくってたんです。
普通はマネージャーがつくるんですけど。
そのくらい、僕のこと弟子だと思ってた。
（ 「週刊文春」 １９９６年１０月１０日号 ）
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奈良市中央図書館の前庭にあるオブジェと興福寺の五重塔。前庭の芝刈りは鹿がやります（朝早く来るらしい）、見たことはないけれどフンが落ちているのでわかります。９月２４日撮影
