『 「おやじ」 の正論 平成我鬼草紙 』
石堂淑朗(いしどう としろう 昭和7年~平成23年
PHP研究所 2006年8月発行・より
クラシックの演奏会が駄目になった。
地味な室内楽などはともかく、外来の大管弦楽団やオペラが酷(ひど)くなった。
外来の音楽会の場合は演奏する白人側と聴く側の日本人とに分けねばはっきりしない。
先(ま)ず聞く側の我らが同胞、これが最低になりましてな。
演奏会が完全には終わらず、馥郁(ふくいく)たる余韻が天井あたりにまだ漂っているというのに、俺だけが理解者だといわんばかりにいち早く拍手し、ウォーッと叫び立てる。
当時ある音楽雑誌の読者の声欄を読んでいると、
そういう手合いを殺してやりたいという過激な投書があった。
新潟の人で、プッチーニのオペラ 『ラ・ボエーム』 をはるばる東京まで聴きに行ったは良かったが、ラストのヒロインの死で静かに終わったと思った途端、
例の無礼な叫びにやられ、感興が台無しになったと猛烈に怒っているのであった。
呼び屋の陰謀もあるのだろうが、あのウォーッは未(いま)だに健在で、
小澤征爾のマーラーなどでは年中(ねんちゅう)行事と化している。
昨年11月18日 青葉台公園(埼玉・朝霞)にて撮影