一方、オペラも、序曲の段階でお客の質はかなりわかる。
序曲のときに、あちこちがまだワサワサしているときは、オペラを知らないお客が多い日だ。
序曲はオペラのすべてを凝縮してある大切なものなのに、
まだ舞台に歌手がいないし、幕も閉まっていることが多いので、
知らない人は、まだオペラは始まっていないと勘違いする。
そして、そういう日は、オーケストラは途端にやる気をなくす。それも結構すぐにやる気をなくす。
一人一人がソロでもやれるほどの音楽家の集まりだから、みなプライドが高い。
彼らは、わからない観客相手に、全力で演奏したりはしない。
オーケストラがやる気をなくすと、歌手も、もちろんやる気をなくす。
結局、すべてはきれいに揃っていても、音楽はがっくりくるほど気が入らない。
結果、観客は、ひどい目に遭うわけだ。
「住んでみたヨーロッパ 9勝1敗で日本の勝ち」
川口マーン惠美(かわぐち まーん えみ 1956~)
株式会社 講談社 2014年9月 発行・より
9月2日 中央公園(埼玉・朝霞)にて撮影